第5項 『真面目に考えてください』
「突然なんですけど、ユーゴくん歳はおいくつなんですか?」
馬車が走り出してしばらくの間は静かな時間が続いていたのだが、そんな空気を最初に壊したのはやはりというべきかウェイライであった。
(本当に突然だな)
「23」
とくに知られて困るものでもないので即答する。
こういう淡白なところが災いして、周りの人間からは冷たい人という誤解を与えてしまうことがよくあるが。
自分は必要な情報を必要なだけ話しているだけで悪気はないので、直そうにも中々直せず困ってはいるが。
「あ!同い年だね。じゃあさ、これからはもう少し砕けた感じで話してもいいかな?」
しかし、ウェイライはそんなことは全く気にしていないかのように次々と話を進めていく。
最初はその積極性に戸惑っていたが、慣れてくると話しやすい娘だなぁ、と思う。
「いいぞべつに。俺も歳上目上の人には敬語だけど、基本的にはこの喋り方だしな」
正直、同い年の人間に敬語で話され続けていて少し息苦しくなっていたところだったので助かった。
一応俺が教育係で目上の扱いのはずだが、話し方くらいそこまで気にすることではないだろう。
「良かった。それじゃあ、せっかくだしこのまま自己紹介しようよ。天の目なら冒険者の資格は持ってるよね?ユーゴくんの役職教えてよ」
この国には、『冒険者』というれっきとした職業が存在する。
元々は未開の地を探索し、地図を書いたり生物の生態を調べたりなどして開拓していき、人々の生活圏を広げるのが主な仕事だった。
しかし、一般人では到底敵わない凶暴なモンスターが急激に増えたこと、それに対抗するかのように現れた『人に人ならざる力を与える存在』占術師と呼ばれる人々が現れたのをきっかけにしてその形態が大きく変わってしまった。
未踏の地を「冒険」する職業から、危険なモンスターたちと「戦闘」する職業になってしまったのだ。
現在、冒険者は望めば誰でもなれるものではない。
とある条件を満たし常人では使うことのできない神秘の力、通称『スキル』を習得できるようになった者だけが名乗ることを許される。
スキルの強大さや仕事内容の危険性から冒険者という職業は完全資格制で、国にきっちりと管理されている。
天の目の仕事はこの冒険者の資格がなければできないものも多いので、冒険者ライセンスの取得が採用必須項目になっている。
天の目という職業はいわば、半分ギルド職員、半分冒険者の立場なのだ。
「ああ、役職ね。俺は召喚術師。レベル36の黒鉄等星だ」
冒険者は登録を行うとき、10種類ある役職の中から自分に適性のあるものを1つ選ぶ。
役職毎に習得できるスキルや戦闘スタイルが違ってくるため、冒険者人生を左右するとても重要な選択となる。
俺が選んだのは『召喚術師』
その名の通り妖精や獣などの使い魔を召喚して使役する役職である。
「……さすが天の目のメンバー、青銀一歩手前とは感服だよ……。それにしても、召喚術師なんて珍しい役職に適性があるんだね。あたしの役職はね…あ、いや!せっかくだしクイズにしよう!当ててみてよ」
ふむ、そう来たか。
なんだか外すのもシャクなのでちと真面目に考えてみるか。
1度態勢を変え座り直した俺は、右手で胸のあたりを掴むように触れた。
真剣に考え事をするときの癖だ。
(短髪だし上は胸布のみ、下はホットパンツか。かなり身軽だよな。腰には小袋3つにダガーが2本。無駄な荷物を極限まで減らした軽装備。見た目通りいくならば…いや、さすがに安直過ぎるか)
普通なら見ためですぐに分かりそうなものなのだが、わざわざクイズにしてくるくらいなのだ。
なにかひっかけがあっても―――
「盗賊ですか?」
「え?」
突然、カーターさんが問題に答えた。
たしかに俺もそう思ったが、それは……。
「せいか~い!正解ですよカーターさん」
なんだ、正解なのか。
あまりにもそのまま過ぎて呆れてしまった。
盗賊はスピードを活かしたスキルや役割が多いので荷物はできるだけ減らして身軽にしておくことがセオリーなのだ。
「いや~出題すれば勝手に深読みして捻ってくると思ったんですけど」
「はっはっは。外してもなにかペナルティがあるわけではありませんし、素直にいこうかと」
捻くれ者で悪かったな。
たしかに罰があるわけでもなし、普通に答えておけば良かったと後から思い直す。
変なプライドが邪魔をして一手遅れてしまった。やはり人間素直が一番か。
「それじゃあ正解者にはプレゼントを進呈しましょう!ラウンド名物のフリムグいったぁ!なんで叩くの!?」
なんてこった。正解者にはそんなペナルティがあったのか。
答えなくて良かった。
「老人にそんなもの押し付けてんじゃないよ。悪魔かお前は」
「自分が住んでる街の名物に対する発言とは思えないね……」