第13項 『発掘してください』
カザキリを引きずるように1階に降りていったシェルビーが、階段途中の踊り場で突然足を止めてこちらを振り返ってきた。
ここから先は2階の灯りが届かない完全な暗闇。足元もまともに見えないため、階段を下るには不安を覚える視界だ。
俺はシェルビーからの無言の圧力を小さなため息で返しながら、両手の平を上に向けて魔術の詠唱を開始した。
「『フォトン……スフィア』」
俺が先ほどと同じ魔術を行使する。
しかし今回は出力を上げているため、詠唱にも陣の構築にも少々時間がかかった。
空中に複数の魔法陣が紡がれると同時に、円の中央から白く輝く光球が飛び出してくる。
出現した球は数瞬俺たちの頭上を飛び回ると、暗くなった前方を照らすように等間隔に並びながら階段を翔け降りていった。
視界が明け、光の道に当てられた階段がその姿を現わす。
「ほら、これで降りられるだろ」
「おお〜さすがだね。やっぱり便利でいいなぁ〜スキルって。私も儀式受けてみようかなぁ〜」
相変わらずこちらをおちょくるような口調で話しかけてくるシェルビー。
「ろくに外出もしないやつが何言ってんだ」
俺も彼女が本気で言っているわけではないことはとっくに知っているので、あしらうように適当に返事をしながら2人を先導する。
「……言われるまま下に来たが、本当にこんなところに実用性のある道具が置いてあるのか?ゴミ置場と大して変わらないぞ」
階段を下りた俺は、複数の『フォトンスフィア』によって照らされた1階の全容を見ながら訝しげに呟いた。
積み上げられた損傷の激しい防具。泥遊びから帰った子供が脱ぎ散らかしたような汚れまみれの布。割れた瓶から溢れた複数の薬液が混ざり合い、この世のものとは思えない物体を作り出している。
天井まで届かんばかりの背の高い棚は所々が腐っており、今にも崩壊しそうな危険な状態で放置されていた。
ものに溢れ過ぎてわかりにくいがフロアの隅には木製のカウンターも設けられており、この建物がその昔、何かしらの商業施設として使われていたということがうかがえる。
今となってはなにを売っていたのかも分からない酷いこ惨状だが……。
「そうは言ってもね。2階に置いてるのは素人さんが扱うのは難しい複雑な機構のモノばっかりだし」
「まぁ、そうだな」
シェルビーは装備へのこだわりが強すぎるあまり、完成品はどうしても癖のあるものに仕上がってしまいがちだ。
そこが俺が気に入っている部分でもあるのだが、この世界に来たばかりのカザキリに扱えるものはおそらく置いてはいないだろう。
「1階にはそこらへんの鍛冶屋から譲って貰ったガラクタも置いてあるんだけど、修理すればまだ使えるかもしれないし。安く手に入ったものだからその分リーズナブルに提供できるよ」
こちらがあまり金を使いたくないことを見越してしっかりとアピールしてくるシェルビー。
たしかに安いほうが俺も助かるが、コイツと会話しているとなにもかも見透かされたような感覚に陥ってしまう。
知り合ってからそこそこ長くなるが、このいいように踊らされているような奇妙な話し方には未だに慣れることがない。
「そ・れ・に〜。この間『おたから』を手に入れちゃったかもしれないからぜひ一眼見てもらいたいんだよね。パーカーくんとそこの……ええっと、カザキリくんだっけ?2人にさ」
「俺と……カザキリにか?」
カザキリの装備を探しにきているわけなので彼に見てもらいたいというのは当然の発言ではあるが……その思わせぶりな言い方に思わず聞き返してしまった。
「そうだよ。もしかしたら『天使』さんに関わる重要なアイテムかもしれないからさ〜」
「ほう」
天使に関わるアイテムだというのなら黙ってはいられない。
「てなわけで、『それ』が入った紫色の木箱がこの辺りにあるはずだから。発掘しましょーっ!おーっ!」
「よ、よし。カザキリ、紫色の木箱を探しているらしい。俺はそこの棚から奥を探すからお前は奥を頼む」
「あ、はい!わかりました!」
天使のワードとシェルビーの元気の良い掛け声に釣られた俺は、散らかり放題散らかった部屋の中を汚れまみれになりながら突き進んでいった。




