第12項 『ケチってください』
「……分かった。とりあえず今回のところは修理はやめておく。また値段が下がったら教えてくれ」
「あ〜またお金ケチってるわこの人。装備は常に万全な状態にしておかないと、知らないよ〜?」
ニヤニヤといやらしい笑顔を向けながら放つセリフにはまるで真剣味がない。
今日はカザキリの装備を買いに来たのが主目的なので、他のことに金を使うわけにはいかない。シェルビーもそれを分かった上で俺をからかっているのだ。
「俺の蓄えが減ったら困るのはお前も同じだろ。いいからカザキリのサイズに合う装備一式、今あるやつ全部見せてくれ」
「あれ?新しく作りたくてここに来たんじゃないの?今あるやつで良かったの?」
俺の言葉に首をかしげるシェルビー。
「ああ、今回は急ごしらえでいい。明日のカザキリの初クエストに使うものだからな」
「それなら普通にそこらへんの武器屋で安物でも揃えれば良かったのに。わざわざ私のところに買いに来なくてもさ」
「まあ、お前にカザキリを紹介することが目的みたいなものだしな。ついでだよ、ついで。お前もあの『天使』が扱う装備を作らせてもらえるんだ、光栄だろ?」
俺は手に取ったお茶をすすりながら語りかけるが、シェルビーのほうにテンションの変化は感じられない。
「う〜ん。天使さんに会えたことは素直に嬉しいんだけどね。あんまり私の装備を使う人が増えても困るかなぁ」
シェルビーは生来、地位や名誉のような『人が周囲に群がるもの』に興味を示さない。それどころか嫌っている節すら感じられる。
その気になればいつだって国を代表する一線級の技術者の地位を手に入れられるだろう。それだけの知識と技術と経験を持っているにも関わらず、こんな古ぼけた屋敷の片隅で細々と研究を続けていることからも、世間からの評価を意に介していないことが分かる。
本人としては、できるだけ人目につかないところで自分の好きな研究だけをやっていたいのだ。
俺に装備を作ってくれるのも研究費を捻出するための金策であって、本人に鍛冶屋や武器屋をするつもりは微塵もない。高い技術力を駆使した最先端の装備を提供する代わりに、俺に高額の報酬を要求することで金銭を得ているのだ。
しかしシェルビー自身は目立つことを望んでいないため、人間関係は非常に狭い。
まともな客など俺くらいのものだろう。
「いいんだよそんなこと気にしなくても。カザキリに気に入ってもらえれば、将来の金ヅル2号にできるかもしれないぞ」
「……それもそうだね。そろそろ1号だけじゃ限界が見えてきたから新しい収入源が欲しいと思ってたんだ。1号は人使い荒いのに大してお金入れてくれないしケチだし。これはカザキリくんには一流の冒険者になってもらわないと」
金ヅル1号を目の前にして散々な言いようだが、あまり彼女の機嫌を損ねたくない俺は黙って聞き流す。
「よーしそれじゃあカザキリくん。さっそく君にピッタリの防具と武器を探そうじゃない。下に行こう」
そういうとシェルビーは座っていた椅子を跳ね上げるように勢いよく立ち上がり、肩をすぼめていたカザキリの手を握って階段まで引っ張っていった。
「おい、下は真っ暗だぞ。灯り持って行かなくていいのか」
「パーカーくんの得意属性は光でしょ?『フォトンスフィア』で照らしてちょうだい」
こちらを見もせずにそう言い放ったシェルビーは、困惑するカザキリを引きずるようにして下の階に降りていった。
……まったく、人使いが荒いのはどっちだって話だ。




