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Ideal’ Garden 〜ギルド職員は冒険者より多忙です〜  作者: RinRin
冒険者入門編 ―第1条―
53/55

第11項 『片付けてください』



「ええっ!?この子、天使なの!?」



「うわっ!?」



 シェルビーは口につけていた金属製の無骨なカップを台に叩きつけ、身を乗り出して正面に座るカザキリに顔を近づけた。


 急接近してきたシェルビーを見て思わず身を屈めるカザキリだが、彼女はそんなこと気にもせずにジロジロとカザキリの全身を興味深そうに観察し始めた。



「ああ、『天使(てんし)神子(みこ)』に載っていた特徴がほぼ全て当てはまってるから間違いないだろ。明日のスキルの特訓が楽しみだ」



 俺はシェルビーにカザキリが天使であること、現在遭難中で生活が苦しい状況であることを隠さず説明した。


 本来、他人にカザキリが天使であること、異世界から来た存在であることを話しても誰も信じはしないだろう。


 それはウェイライでも、アルクでも、オースティン団長でもカーターさんであってもだ。


 歴史書でもなんでもないおとぎ話、噂話を信じろというほうが無理というものだ。


 天使の存在を信じる者と言ったらそれはもう年端もいかない純粋無垢な子供か、あとは救いようのない重度の奇人変人くらいだろう。


 ……そう、こんな町外れのオンボロ屋敷に1人で住み込み、ろくに眠りもせず薬品と金属に囲まれた不気味な生活を送っているこの女性も、当然かなりの変人である。


 知り合いの人間の中では唯一天使の存在を信じている、俺の理解者ということでもあるのだが。



「へ〜、それじゃあパーカーくんの念願叶ったってわけだね。とりあえずおめでと」



「ああ。とは言え……本当の念願はその天使の強さの秘密を探って、俺自身の強さに繋げることなんだけどな」



 俺は出されたクッキーを軽くかじりながら反応を返す。


 ……しかし噛り付いたクッキーが想像以上の強度だったため、噛み砕くのを諦め奥歯でゴリゴリ削りながら茶で流し込む方針に変更する。



「……なんだこのクッキー、やけに硬いな」



「あ〜、これ?アマンドガレット……とか言ってたかな。この間街に出た時に旅商人の人が売っててさ。物珍しかったから買っちゃった」



 シェルビーは最初から硬いことを知っていたのか、お茶に浸して柔らかくしてから口に運んでいる。



「……まあ、いい。別にクッキーを食べに来たわけじゃないしな。そろそろ頼んでたやつも終わってるんじゃないのか?」



「ん?あ、ああ、ワイヤーの修理ね。0.1インチのヤツだったら終わってるよ、ほら」



 そう言うとシェルビーは、先程片付けるために適当に積み上げていた道具の中に無造作に手を突っ込み奥の方を漁り始めた。


 しばらくしたのち、引き抜かれた手には細長い鉄製のワイヤーロープが握り込まれており、それを両手でスルスルと手繰(たぐ)り寄せていく。



「て、人の依頼品をそんなところに積み上げるなよ。いくら払ってると思ってるんだ」



「ごめんごめん、慌ててたからついつい上に色々積み上げちゃって。べつに潰れたりするもんでもないし、いいじゃん」

 


 ワイヤーを巻き取り終え手の内で輪っか状にまとめたシェルビーはそれを袋に詰め、俺の前にそっと置いた。



「ああ、それから。今度から新しくワイヤー作るときは値上がりするからさ、注意してね」



 わざわざこちらまで近づいて耳打ちしてくるシェルビー。


 言いにくそうに遠慮がちに言ってきたあたり、かなりの額上がることが予想される。



「そうか……いくらだ」



「……サリオ銀貨5枚と〜、ゼル銅貨12枚くらい……かな〜」



「なんだ、大して上がってないじゃないか。誤差だ誤差。最近3号が血を吸いすぎて錆が酷くなってきたからな……修理と手入れだけじゃ保たないかもしれん。新しいの売ってくれないか」



 元の値段は1本につきサリオ銀貨5枚だったので、上がり値はゼル銅貨12枚ぶんということだ。


 ずいぶんと神妙な態度だったので何事かと思ったが……この程度なら全然問題ではない。



「え?あ、そう?それじゃあ……ダルク金貨1枚とゼル銅貨12枚ね」



「……なに?」



 今……ダルク金貨と聞こえた気がするのだが。気のせいだろうか。



「え……サリオ銀貨5枚とゼル銅貨12枚だろ?」



「うん。だから、『サリオ銀貨5枚とゼル銅貨12枚』値上がりして合計1ダルクと12ゼルだよ。計算は合ってる、うん」



「いやちょっと待ておかしいだろ。元の値段がサリオ銀貨5枚なのに……なんで値上がりの額が元々の値段を超えてるんだよ」



 ダルク金貨なんて持ち歩く人間はそうそういないだろう。いかにワイヤーロープが優れた最新技術の粋だとしても1本でこの値段はさすがに寛容し難い。



「最近近くの鉱山が地震で潰れたらしくてね。そこに埋蔵されてる金属も奴隷も埋もれちゃってさ。世知辛いよね〜」



「鉱山が?それじゃあ、他の武器も全部値上がりするのか」



「あ、大丈夫だよ。埋もれたのはタングステン。そこらの鍛冶屋じゃそもそもまともに加工することすら出来ないから」


 

 ……ずいぶんハッキリと宣言する。


 この自信に満ちた迷いのない口調が、この工場の技術レベルの高さを物語っている。



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