第9項 『警戒してください』
「あの〜、今はどこに向かっているのでしょうか」
「ん?俺の行きつけの道具屋だ」
鍛冶屋を後にした俺たちは、そのままギルド館を出てラウンドの街の外壁の付近、郊外にまで出ていた。
家屋が広々と建ち並びスペースに余裕のあった中心地と違い、郊外は建物同士の距離が近く死角が多い。
日光も当たりにくくなっているため、今にも霧がかかりそうな薄暗く寂しい雰囲気が漂っている。
街は中央に行けば行くほど衛兵の数や公共施設も増え、活気があふれていてく。逆に、外壁に近い郊外の住宅地は治安が悪く、犯罪者たちの温床となっている側面がある。
街の外に出る門の付近とその通りは比較的安全だが、それ以外の場所は中々に危険である。
国も領主も、自分たちの周辺を管理するのに追われて郊外にまで管理が行き届いていないのだ。
そんな無法地帯の危険な雰囲気を肌で感じ取ったのか、やや歩幅が縮み不安の色が表情に出始めるカザキリ。
この町の構造に詳しくないであろうカザキリにも、注意喚起しておいた方が良いだろう。
「カザキリ。街を歩く時の注意が2つある」
俺が指を2本立てて示すと、カザキリはゴクリと喉を鳴らしてこちらを凝視してくる。
「1つ目、絶対に1人でこういう死角の多い郊外にくるな。追い剥ぎに遭遇するかもしれない。特にゴミが散乱している場所と落書きが多い場所が危険だ」
袋小路の奥にひっそり佇む娼館の看板を横目に語る。
「2つ目、盗まれて困るものは隠し持つこと。ここまで建物が入り組んでると影から『オープンセプト』されても泥棒の位置の把握が出来ないから逃げられる」
「あの〜、『オープンセプト』っていうのはなんなんでしょうか」
その質問でカザキリはスキルにどんなものがあるのかを把握していなかったことを思い出した。
「盗賊が使うスキルの1つだ。対象の持ち物を自分の手元に持ってくることができる。これを使ったスリが多くて困ってるんだよ」
「な、なるほど……」
スキルの詳細を聞いたカザキリは自身の体に目を落とすが、何も持っていないことを思い出したのかすぐに前に向き直った。
「でも…そんなに治安が悪いところに僕たち2人だけで来ちゃって大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。俺だって天の目の端くれ、そこらのゴロツキに遅れをとるなんてことはないはずだ」
天の目という職業はその業務内容の性質上、国に実力を認められた人間でしかなることはできない。
俺は天の目の中では、恐らくあまり強いほうではないだろう。
だが、冒険者全体を見ればかなり上位に位置する実力は備えているという自負はある。
「そ、そうですか……わかりました」
そうは言ったものの、やはりまだどこか不安げな態度が滲み出ている。
だが、それもここまでだ。目的の建物の前に着いた俺は立ち止まり、カザキリのほうを振り向いて手でその場所を示した。
「ほら、着いたぞ」
「え……こ、ここが?」
目の前には、この郊外の構造にはあまり合っていない大きめの古めかしい屋敷が建っていた。
腐りかけた木造の壁。窓には所々欠損した木蓋がはめ込まれ、小さな穴からは漆黒の闇が覗く。
ぱっと見では、とても人が居るようには見えないだろう。どこを見渡しても手入れが行き届いておらず、雑草が建物を守るように全体に張り巡らされている。
明らかに周りの他の建物とはナニかが違う。おどろおどろしく禍々しい雰囲気が屋敷全体から放たれていた。
蝶番が壊れて外れかけたドアには申し訳程度に魔道具店の看板が掛けられているが、字がかすれてなんと書いてあるからすら分からない。
「そうだ。見た目はアレだが、ここは俺がよく利用している魔道具店。店の名前は……なんだったかな、忘れちまった。まあ良い、行くぞ」
「ひえぇぇ、郊外怖い……屋敷怖い……観自在菩薩行深般若波羅蜜…………」
「なんだ?それ。サイネル式魔術の詠唱か?」
胸の前で手を擦り合わせてなにやら怪しげな呪文をブツブツ唱えているカザキリを連れ、俺は目の前にそびえる扉を押して中へと入っていった。




