第8項 『お断りしてください』
「ヘッヘッへ……誰にモノを頼んでいるんだい。オールコレクト、良いに決まってるじゃないか。占術師によって魔騎士に導かれた運の強い少年に、この役職の真髄を伝授してあげよう!」
そう言うとチャールズさんは嬉しそうに手をワキワキさせながら、カザキリの周囲をグルグルと徘徊し始めた。
体つきや表情、立ち姿に至るまで全身のあちこちをチェックしているのだろう。
「おお〜、チャールズのスキルを間近で見せてもらえるのか、本当に運の良いボウズだぜ。コイツのスキルレベルはラウンドの冒険者の中でも指折りだからな」
デュランさんは伸び放題に伸びた顎髭を弄りながらうんうんと頷いている。
「だからチャールズさんに頼むんですよ。知り合いの魔騎士の中では、多分チャールズさんが1番強いですからね」
「ちょ、なんだい2人とも。褒めても何も出ないぞ〜」
当の本人は俺たち2人からの称賛の声に照れ隠しで対応する。
しかし、この人の実力が優れていることは疑う余地がない。少なくともレベルの数字だけ見れば、実力者だらけのラウンドの天の目18人の中でも2番目に高い45である。
全国に206人しか存在しない黄金等星の冒険者の1人でもある。
もちろん冒険者の戦闘には数字に現れない要素も多分に含まれているので、これだけで強さを判断することはできない。しかしその人の強さを測る大事な基準の1つであることは確かだ。
「それにしても…ユーゴくんが男の子の冒険者1人にここまで親身になるなんてね。団長に頼まれでもしたのかい」
「あ〜、それは……」
チャールズさんの一言に、思わず語尾が濁ってしまった。
まさか「この子が天使だからです」なんて言えるわけがない。本の読みすぎだと呆れられるのがオチだろう。
しばし言葉に詰まったのち、あまり深く突っ込んで欲しくない話であることをアピールするため重苦しい口調でカザキリの身の上話をした。
「……このまま放っておいても野垂れ死ぬだけですから。この子、身寄りがなくて大変なんですよ」
「そうなんだ……まあ、分かった。明日の昼頃には時間空くと思うから、よろしくね。そのかわり、今度アルスの開発手伝ってくれよ〜?」
「もちろんですよ。それじゃあ、明日の12時頃に掲示板の前で」
チャールズさんに約束を取り付けるという目的を終えた俺は、カザキリを連れて工場の外に出ようとした。
「お〜い、ちょっと待ってくれよ!」
すると後ろから、野太い声のデュランさんに呼び止められた。
「そのボウズ、冒険者になったんだろ?なんならここで装備買っていかないか?」
……たしかに、装備は買わなければならない。しかしデュランさんには悪いが、俺はここより技術もノウハウも進んでいる所を知っていたので、お断りの返事を口にする。
「すいません、もう買う店は決めてあるので。また次の機会にお願いします」
「そうかぁ……分かった!しっかり良いアイテム選んでやれよ!」
普通、ハッキリと他の店を贔屓にしていると言われれば少しくらい不機嫌になりそうなものだが。
しかし、このデュランさんは1人1人毛色の違う『世界に1つしかない装備』を作る鍛冶屋の本質を理解している。
技術や素材以前に、職人の作る装備と依頼者の体質にも相性が存在するのだ。
使用者本人が合わないと言っている装備を無理に売り付けるのは鍛冶屋としては失格。その少しの相性の『ズレ』がそのまま死に直結するためだ。
そんな考えがあって、冒険者が他の店を使うことを選んでもデュランさんはその決断を甘んじて受け入れ、引き止めるようなことはしない。
商売人としてはダメなのかもしれない。しかし職人の生き方としては尊敬できる考え方だった。
「はい。失礼します」
ペコリと頭を下げた俺とカザキリは出口の方向に振り返ると、今度こそ鍛冶屋を後にした。




