第6項 『語ってください』
冒険者ギルドの主な役割は、冒険者として働く人々にクエストという形で仕事を斡旋し、報酬を与えることだ。
しかし、ここギルド館の担う役割はそれだけではない。
毎日ハードな仕事をこなし続ける冒険者たちにできるだけ快適に、円滑に仕事を進めてもらおうと実に様々な施設が併設されている。
ラウンドには現在3つの支部が存在しているが、俺が務めているここ第2支部は特に建物の規模が大きく施設も充実している。
クエストを受け付けるカウンターはもちろんのこと、酒場、宿、武器屋に魔道具店、モンスターや法律について学べる簡単な図書室まで設置されている。
俺はそんな冒険者たちの生活を豊かにする施設のうちの1つ、鍛冶屋に来ていた。
溶鉱炉を使う性質上、安全を考慮して館内の隅、半分屋外に飛び出す形で広いスペースを与えられている。
鍛冶屋は武器屋に置いてあるような汎用性に富んだ武器とは違い、使用者に合わせた完全オーダーメイドの武器や防具を作ってくれるのが魅力の施設だ。
ただし、1つ1つ手作りのため当然制作に時間がかかるし値段も高い。素材も依頼主自らが用意しなければならない上に、加工が難しい特殊素材があればさらに追加料金が発生する。
さらに、これらの道具は激しい戦闘に使用されるため、破損欠損は日常茶飯事。修理のためにさらに金を取られたり、最悪それすら出来ず廃棄となってしまうことだってある。
給料全額つぎ込んで制作した武器が1日でオシャカになる、なんて可能性もあるのだ。
これらの理由から、鍛冶屋を利用する冒険者はそれなりに腕の立つ、稼ぎの良い人間たちに限られてくる。
俺が今探している人物は、そんな金を貪る悪魔のごとき鍛冶屋を日常的に利用し続けている猛者である。
鍛冶屋のスペースに脚を踏み入れた瞬間、不思議とつい最近嗅いだような独特な香りが鼻についた。
一瞬考えたのち、すぐに匂いの正体を思い出す。
(ああ、そういえばこれ……カザキリが作ってもらってた焼けた鉄の匂いか。鍛冶屋の匂いだったんだなぁ、あれ)
これはカザキリ、この場所に強く興味わ示すのでは……。
「ああっ!ここってもしかして、鍛冶屋さんですか!?」
やはりというべきか……鍛冶屋にきた瞬間カザキリの瞳が色めき立ち、今にも溶鉱炉にでもダイブしてしまいそうなほどの勢いで身を投げるように周囲を観察し始めた。
「こらこら、ここは危ないものがたくさんあるからな。あんまりウロウロしないほうがいいぞ」
「大丈夫です!僕、武器の作り方とか刀の打ち方とか、かなり勉強しましたから!触ってはいけないもの近づいてはいけない場所、大体わかります!」
そう言いながら、自信満々にドンドン前に進んでいくカザキリ。
「平和な国に生まれたっていうのに武器作りの勉強なんてしてたのか」
「武器作り……というよりは刀作り、武士の文化に興味がありまして。僕はずっと『武士道』の精神を学び続けてきたんです」
「カタナ?ブシドー?初めて聞く単語だらけだな……。それはニホンっていう国独自の文化なのか?」
自分で言うのもなんだが、俺は人一倍強い知識欲を持っている。少しでも知らないことがあれば、自分で満足するまで徹底的に調べ上げる癖のようなものがあるのだ。
「そうです。武士というのは主人に使え、主人のために命をかけて働く……騎士のような職業です!そしてその武士が武士として生きていくために掲げた大いなる道、それこそが武士道なのです!」
俺の質問に目を細め、昨日までの大人しかった態度が嘘のように饒舌に語り出すカザキリ。
今までの控えめな態度は緊張していたからで、こちらの方が本来のカザキリの性格なのかもしれない。
俺としては、知りたいことを質問したらすぐに欲しい答えが返ってくるのでありがたいことなのだが。
「そうか……サイネルには『武士』なんて名前の職業も『カタナ』なんて武器もない。ニホンとサイネル、似ている部分が多いと思っていたが全く同じモノ、というわけでもなさそうだな」
カザキリとの会話を楽しみながら工場の中を進んでいるうちに、最奥に設置されている溶鉱炉の所にまで来ていた。
炉の前では2人の男が、なにやら作業をしながら楽しそうに談笑しているのが見える。
1人は薄着で、特徴的な厚手の手袋を装着している50代の男性。服装から鍛冶屋なのだと分かる。
なにやら台の上で、小槌を使って加工作業をしているようだ。
もう1人は俺とお揃いの黒いマントを羽織った……つまり天の目のメンバーの1人。
無精髭を伸ばし口元に笑顔を浮かべる、30代頃のおっさんである。
そして俺は、この人を探すためにここ鍛冶屋までやってきたのだ。
俺は2人の正面まで行き、話を遮らないように気を配りながら会話に入るタイミングを見計らい挨拶をした。




