第4項 『降ろしてもらってください』
中は窓1つないほとんど密閉された空間。
しかしあちらこちらに並べられた発光する植物の光で、薄暗くはあるが部屋はしっかりと光で満たされていた。
この光の正体は、レプタラントという巨大ナメクジとも呼べる見た目の軟体動物に根を下ろす寄生種の魔食『ゴア・サプライトレイ』と呼ばれる植物だ。
レプタラントはグロテスクな見た目を隠しつつ動き回るのを防ぐため、木箱の中に閉じ込められている。
レプタラントの背中から生えてきたゴア・サプライトレイは、体内の魔力を使って光を放ち寄生先のレプタラントを目立たせる。
目立ったレプタラントは当然、ほかのモンスターに食われる。そのときゴア・サプライトレイ自身も一緒に食べられるのだが、それでも構いはしない。
そうやってレプタラントよりも移動範囲の広い生物の体内に行くのが目的なのだ。
そして、自身を食べたモンスターのフンはゴア・サプライトレイの種も混ざった状態で排出される。
そのフンをまたレプタラントが食べる。このような循環で種の分布を広げていく魔食なのだ。
そんな自律発光能力を備えた植物ゴア・サプライトレイを利用した灯が、今この部屋を満たしている光の正体。
そんな奇妙な光に照らされながら中央のテーブルの席に腰掛けていたのは、薄手の布を全身に纏ったような風貌の、白髪の老婆であった。
彼女こそラウンドに在籍する3人の占術師のうちの1人。
老婆の両隣には、鎧を着込み剣を手にした騎士が2人、石像のようにピクリとも動かずに静止して立っていた。
「 あなたが冒険者志望の方ですね?今あなたの適性を見るのでジッとしていてね」
俺たちが目の前に来たのを確認した占術師は、カザキリに向かって包み込むような、優しげな口調で話しかけた。
「は…はい、分かりました」
薄暗い密室……威圧感のある2人の騎士……怪しげな雰囲気。
とくに注意されたわけではないが自然と声が小さくなる。
「ムム……ムウンンン」
唸りながら目を細め、カザキリをジッと見つめる老婆。
その瞳がなにを映し出しているのか……そればかりは俺にも分からない。
いよいよだ……ついにカザキリが冒険者になれるか否か、判定が下される。
やがて唸り声をやめた老婆は険しい顔つきわ崩して、笑いながらカザキリに語りかけた。
「うん。あなたは……」
ゴクリと……カザキリの喉が鳴るのが聞こえた。
(さぁ……判定は……)
「召喚術師と投擲術師以外、全ての役職に適性があるわね。好きな役職をいってちょうだい」
(お……すごいな。8種類も適性があったのか)
召喚術師も投擲術師も絶対数が少ない珍しい職業だ。その2つ以外全ての適性があるとは、さすがは天使といったところか。
感心しながらも俺は、リズ語がよく分からないカザキリに占術師の言ったことをそのまま伝えた。
「喜べ。召喚術師と投擲術師、全ての役職に適性があるそうだ。8つの中から好きなのを選べ」
その時、カザキリの拳が強く握りこまれるのを見た。
一瞬体がビクリと跳ね上がり、嬉しさのあまり体が小刻みに震えている。
ピタリ目当ての役職になれる冒険者はそうそういない。俺は少しだけ羨ましいという気持ちを抱えつつ、喜びに打ち震えるカザキリの姿を微笑ましく見守っていた。
「そ、それじゃあ……魔騎士を、お願いします……っ!」
「変わらず、魔騎士でいいんだな?よし」
俺はカザキリの意思をリズ語に変換し、そのまま老婆に伝える。
「この少年は魔騎士になることを望んでいます」
俺の言葉にうん、と頷いた老婆は、台座から立ち上がりこちらに歩いてきた。
「わかったわ。それじゃあ、手を出して」
カザキリの目の前に立った老婆は、握り込んでいた両手を上向きに広げながら告げる。
老婆の右手には小さな針が、左手にはくすんだ緑色の小石が2つ乗っていた。
この石こそ、冒険者がスキルを行使する際に必要となるアイテム『ブルムライト』。
「ほら、手を前に突きだせ」
手を出せ、と言われたがどう手を出せば良いのか分からないカザキリは、両の手のひらを上向きに……老婆と同じポーズで差し出した。
「少しチクっとするが、我慢しろよ」
「え?」
すると、俺のセリフに合わせたわけではないだろうが、老婆がタイミングよく持っていた針をカザキリの右手の指先に突き刺した。
「いっつ!」
ジワりと、カザキリの指先から赤色の血が溢れてくる。
老婆は手に持っていた2つのブルムライトを順にその血に擦り付け、再び左手に握り込んだ。
「はい、終わったよ。これであなたは魔騎士。脅威を取り除き人々を守り世界を広げる、立派な冒険者になってください」
「よし、終わりだ。儀式は無事成功した。部屋を出るぞ」
指先を抑えながらこちらを振り向いたカザキリは、何が起こったのかよく分からない、といった表情をしている。
「え?もう終わりですか?僕、もう冒険者なんですか?」
「今血をこすりつけた石がブルムライトなのさ。明日には加工されてアミュレットになるだろうから、それを受け取れば晴れて冒険者の一員だ」
実感が湧かないのか、自身の手のひらを握ったり開いたりして見つめているカザキリを引っ張る形で、俺たちは占術師の部屋を後にした。




