第2項 『理解してください』
「このプレートは昨日も見せたよな?冒険者になると、この『アミュレット』と言われる金属製のプレートを貰えるんだが……」
俺は手の上で転がしていたリンゴをカザキリに手渡すと、懐から黒く着色された石の埋め込まれた鉄のプレートを取り出してテーブルにそっと置いた。
カザキリはそれを、前のめりになって上から覗き込むようにジッと観察している。
「この埋め込まれた石があるだろ?ブルムタイトっていうんだけどな。冒険者はこの石を所持することでスキルを使用することができるようになる」
「へ〜。この石がないと、スキルは使えないんですね」
カザキリが一通り目を通したのを確認した俺は、アミュレットを懐に戻しながらその言葉に肯定する。
「そうだ。そして冒険者が使う『スキル』は、大きく3種類に分類される。体内の魔力を消費して行使する『魔術』、体力を消費して行使する『体術』、魂……生命力を消費して行使する『霊術』」
俺はテーブルに広げた役職の一覧に羽ペンで印をつけながら、続けて語る。
「各スキルの細かな違いは冒険者になれたときに教えるから、今は3種類あるということだけ憶えておけば良い。さて、大事なのはここから」
俺はつけた印をビシッと指差しながら、初めて見る単語も多いであろうカザキリにも理解できるように意識しながら説明を始めた。
「役職は今説明した3種類のうちの2種類、魔術と体術の使用頻度や相性、使用武器、射程距離などを考慮して4種類に分けられている」
まずは一覧の1番上にある項目から、順に解説を加える。
「鎧に身を固め、体術による攻撃力と防御力を重視した近接主体の『騎士系統』3種類。同じく近接主体だが、魔術も加えて軽装で身軽さを重視した『拳闘士系統』2種類。魔術に特化した遠距離主体の『魔導師系統』3種類。武器を飛ばして攻撃する
遠距離主体の『弓術士系統』2種類……以上がオーレン王国内で定義されている冒険者の役職だ」
「こ、こんなにたくさんあるんですか。1つ1つ理解するのは大変そうですね」
いきなり大量の情報を与えられて混乱するカザキリ。
「全部完璧に理解する必要はない。これから全役職簡単に説明するから、気になる役職があったら教えてくれ。それだけ詳しく説明する」
「わ、分かりました」
カザキリが硬くなっていた脚を解放し椅子に座りなおしたのを確認した俺は、剣騎士と書かれた項目から順々に解説を始めていった。
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現在オーレン王国で確認されている10種類の役職の特徴を一通り説明すると、カザキリは腕を組んでうーんと唸り始めた。
1度決めたら2度と変えることのできない大きな決断だ。悩むなという方が無理な話だろう。
まだカウンターが開くまでには時間がある。じっくり選んでもらうとしよう。
「どうだ?気になる役職はあったか」
俺が質問をすると、早速カザキリから返答が返ってきた。
「すいません。魔騎士っていうのはその……」
「なんだ、魔騎士が気になったのか?」
カザキリは俺の言葉にうんうん、と首を縦に動かして肯定の意思を示す。
魔騎士……中々に難しい役職に興味を持ったものだ。
「魔騎士は体術を主体とする騎士系統の中では異彩を放つ変わり種の役職だな。特徴としてはやはり……体術と魔術、両方を使いこなすことができるという点か」
騎士系統は本来、攻撃をほぼ体術のみで行う。『エンチャント』といって武器に魔術を付与するスキルも存在はするが、基本的に騎士系統は魔術との相性があまり良くないので使用者は少ないのだ。
しかし、魔騎士は他の2種類に比べて魔術の親和性が高く、ある程度の威力で使いこなすことが出来る。
「そして、専用スキル『ルーン』シリーズが魅力だな。コイツは既存の魔法陣に特定の記号を加えることで魔術に追加効果を付与することができる」
俺の話を聞いてすっかりその気になったのか、カザキリは手のひらをすり合わせながら鼻息を荒くしてこちらを見つめている。
相当魔騎士が気に入ったようだが……。
「だが、そのぶんやることは他の役職よりおおいぞ。体術の訓練もしないといけないし、魔術の研究もしないといけない。さらに専用スキルの『ルーン』は太古のルーン文字を使用するから、それの勉強もしないといけないな。正直、リズ語もまともに読み書きできない今のカザキリにはあまりオススメできないが……」
「僕が住んでいた日本という国では、『文武両道』という言葉があります」
「え?」
なにやら急に語り始めるカザキリ。その言葉は否定されかけた自身の決断を冷ますことなく、熱を帯びた鉄の如く静かにたぎらせるよう放たれていた。
「勉強と運動、両方に秀でている者に使われる言葉です。僕は昔からずっと、この言葉に見合う人間を目指すよう言われてきました」
しかし、熱く語るカザキリの瞳の奥には、今まで見てきた輝く光の裏に、若干の陰のようなものが見えた気がした。
「魔術と体術の両立。それは僕の目指していた文武両道の精神に通じるものがあると思うんです……決めました。僕は魔騎士になりたい!この役職が僕の第1候補です!」
カザキリは俺が用意した一覧をシワができるほど強く握りしめ、高らかに宣言した。
文武両道という言葉はよく分からないが、本人がここまでやる気なら止める理由などありはしない。
「そうか……魔騎士、それがお前のなりたい役職なんだな」
「はい!」
俺の口から肯定的な言葉が出てきて安心したのか、嬉しそうに声色を弾ませるカザキリ。
「おっと、まだ決まった気になるには早いぞ。魔騎士に適性がない可能性だってあるんだからな。その調子で第2候補も決めていくぞ」
適性のある役職が1つだけ、なんてことも珍しくないそうなので、第10候補まで考えておくことは基本中の基本だ。
俺のセリフを聞いてハッとしたカザキリは、一覧の裏にメモを走り書きしながら口を開く。
「あ!そうですね……第2候補は剣騎士です!」
「熱した鉄の香りの件といい……お前本当に剣とか騎士とか好きだな」
若干の雑談を交えながら優先順位を決めたカザキリと俺は、カウンターが開くと同時に冒険者登録の申請を行うのだった。




