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Ideal’ Garden 〜ギルド職員は冒険者より多忙です〜  作者: RinRin
ギルド職員入門編 ―第2条―
41/55

第26項 『教えてください』




「ユーゴさん、大丈夫だったんですか?」



 その場から動かないウィアトールを引き剥がすような形でなんとか移動させることに成功した俺は、先ほどカザキリを乗せた家屋の付近まで戻った。


 カザキリは先ほど俺が乗せた家屋のすぐ横で待機していたので、探す手間が省けて助かった。



「ああ、犯人は捕まえた。もう大丈夫のはずだ」



 右目がまだ少し赤いが、それ以外の外傷は特にないのでそこまで心配はさせていないはずだ。



「そうですか。それは良かった…」



 ホッと胸をなでおろすカザキリ。知らない世界でいきなり騒ぎが起き、頼りにしていた相手に急に置いて行かれたのだ。


 不安も相当なものだったはずだが、ひとまずは落ち着いてくれたようだ。



 しかし、予定していたことがパアになってしまった。


 街中で騒ぎがあったせいで人の流れがめちゃくちゃになっているためまともに買い物もできそうもないし、俺は先ほどの出来事をギルドに報告しなければならない。


 今日のところは予定を変更しギルド館に戻ろうと2人を説得して、俺たちはそのまま帰路についた。


 カザキリの寝床はオースティン団長の許可さえもらえればギルド館の寮を貸し与えることができるため心配ないのだが、一時凌ぎにしかならないだろう。


 なんとか近日中に、日の宿代と飯代くらいは稼げる仕事をして見つけてあげなければ……。


 そもそも、ここが異世界であるという確かな証拠を提示し納得してもらわなければ先に進むことができないのだが。


 未だに立ち直れていないウィアトールを連れ3人で歩きながら、次に話す言葉を選ぶ。



「なぁカザキリ、ここがい―――」



「それにしても、ここ本当に異世界だったんですね。いや〜本当にビックリしました」



「―――せかぃぃぃ?」



 どう証明しようか悩んでいたところに急に飛んできたカザキリの発言に、語尾がおかしなことになってしまった。



「え…どうした急に。あれだけ色々見せたのにまったく反応なかったじゃないか」



 あれ以降、特になにかを見せた記憶はないので、いきなり納得したと言われても奇妙でしかないのだが。



「いやさっき見せてくださったあれですよ!あの魔法陣みたいなのから出してた鳥です!」



「カラドリウスか?見た目は普通の鳥だと思うが……」



 カザキリが元いた世界には鳥が存在しないのだろうか。


 いや、「鳥」という単語を知っているのだからそれはないか。



「いや。その、『からどりうす』ではなく、魔法陣の方です」



「魔法陣?」



 俺が聞き返すと、カザキリは興奮した面持ちで勢いよく語り出す。



「そうです。木の板になにか文字みたいなの描くだけで生き物召喚できるんですよね!?そんなもの僕のいた世界にはありませんでしたよ!」



「魔法陣がないって…それじゃあお前らの世界の召喚術師(サマナー)はどうやって使い魔召喚してるんだ」



 俺は至極真っ当な質問をしたと思ったのだが、カザキリの方はなぜか難しい顔をしてしまう。


 一瞬黙り込んだかと思うと、なにを話すか頭の中でまとめ終わったのか再び口を開き始めた。



「実はですね、ユーゴさん。僕が居た世界には召喚術師(サマナー)なんて役職も使い魔とかいう概念も、冒険者なんて職業も……そもそも魔法というものが存在しないんですよ」



 魔法が存在…しない?



「じゃ、じゃあモンスターは?街がドラゴンやらグリフォンやらに襲われたらどうするんだ?魔法がないと1日も保たないだろ」



「いえ、そんな危険なモンスターそもそも存在しませんし、人を殺せるような生き物もほとんど居なかったと思います。僕の住んでた国では、ですけど」



 ……なんだその天国は。

 

 出来ることなら俺、そこに住みたいのだが。


 

「……そうか、まあいい。とりあえずここが異世界だってことは信じてもらえたみたいだしな」



「はい……納得したらしたで、結構恐くなってきましたけど」



「恐く?なんでだ?」



「だって…街の外には危険なモンスターがいっぱいいるんですよね?街中でも今日みたいに暴れる人が出てくるかもしれないし」



 確かに、今まで暴力沙汰と無縁の生活を送っていた人間には、この環境は少し厳しいかもしれない。


 特別な力…モンスターやスキルを使う人々に対抗する手段がない一般人は、いつ死ぬかもわからない状況に常に晒されているのだ。


 だが………。



「大丈夫だ、カザキリ」



「え?」



「一般人のほとんどは、スキルを使うことができない。才能のある人間がきちんと手続きをして、冒険者ギルドを通して占術師(テラー)の力を借りないと使えるようにはならないからな」



 人間は他のモンスターと違い、占術師(テラー)にスキルを『降ろして』貰わなければ使えるようにはならない。


 厳格に資格制度が整えられ、誰でも好きに振り回せる力ではないのだ。


 まあ、誰にでも簡単にポンポンスキルを与えられては困るという理由で占術師(テラー)の自由は大幅に制限されているため、かわいそうではあるのだが。



「それでも乱暴働く(やから)はいるが、それを取り押さえる役割もちゃんと確立されている。衛兵やら……俺たち天の目(サンヘッド)もそうだ」



 俺は親指で自分をさしながら高らかに、誇らしげに宣言する。



「モンスターのことだって、街の外に出なければ基本的に安全だ。出るとしても、地域のレベルに見合った冒険者を雇えば問題ない。それでも不安があるって言うなら……」



 俺は一呼吸置くと、冗談交じりに軽い口調でこう呟いた。



「お前もなればいいさ、冒険者に」



「冒険者に……」



 俺の言葉を反芻し、自分の中に落とし込んでいくカザキリ。


 俺は、見開かれたその瞳の奥に、確かな決意の光が宿るのを見た。


 天の目(サンヘッド)として活動している間に何度も見た、命を懸ける覚悟を決めた冒険者の目だ。



「ユーゴさん。そういえば僕、まだ自力で稼いで食べていく方法……職業を決めてませんでしたね」



 カザキリは改めてこちらを向き直り、俺の目をじっと見つめてきた。



(まあ、何を言うつもりなのかは……分かっちまうんだけどな)



 そのまままっすぐに体を直立させ、大きな声で高らかに宣言した。



「僕、冒険者になりたいです!お願いですユーゴさん!僕に、冒険者になる方法を教えてください!」



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