第24項 『察して下さい』
「落ち着いたか、ウィアトール」
「……うん」
未だに少ししゃくりあげてはいるが、まぁ会話をする分には問題ないだろう。
ウィアトールが泣き止むのを確認した俺は、彼女を連れて一旦その場から離れていた。
さすがに道のど真ん中で喋るのは目立ちすぎてよくない。
涙の乾いたウィアトールはようやく顔を上げると、潤んだ瞳でこちらの顔を凝視してきた。
「ユーゴ……大丈夫なの?血が……」
「ん?ああ、これか」
先ほどの戦闘の影響で出血してしまった右目を見たウィアトールが、か細い声で尋ねてきた。
「大丈夫、これはちょっとした事故みたいなもんだ。ちゃんと見えてるし……他はほぼ無傷だから心配するな」
俺は目の下を拭いながら、落ち着かせるようにゆっくりと説明する。
それにしても……。
「お前……普通に喋れたんだな。こんなに会話らしい会話初めてしたかもしれない」
初めてのまともな会話がこんな形で、というのもアレたが。
「あ……っ!」
俺の言葉を聞いた瞬間に「いけない!」とでも言いたげな声を上げたウィアトールは、気まずさを隠すかのように再び視線を下げてしまう。
今の反応は明らかに、ついつい素が出て喋ってしまった、といった風のものだ。
「まさか、無口なのは俺と話すときだけなのか?」
そういばエイデン料理長も言っていたような気がする。
普通によく話す娘であると。
「あの…その……」
俺の質問を受けたウィアトールは明らかに狼狽し、胸の前で手を組んでモジモジし始めてしまった。
(これは…会話だけじゃなくて表情もわざと真顔で固定してたな)
先ほどから赤くなったり青くなったりするウィアトールの表情を見ていると、こっちが本来のウィアトールなのだとひしひしと感じる。
なぜ俺の前では無愛想な態度をとるのかは疑問が残るが。
ここまで素のウィアトールと差があるとなると、考えられる可能性は俺がよほど嫌われているか、或いは………。
「ひょっとしてウィアトール、俺のこと好きなのか?」
「……………………え?」
「……………………あ」
これはいけない。完全に悪手だったと言葉を放った直後に気づいた。
これで的外れだったら向こう1ヶ月は出歩けないレベルで恥ずかしいし、仮に当たっていたとしてもあまりに無神経。
案の定ウィアトールは勢いよく顔を上げ、目を大きく見開き驚きの表情でこちらを見上げている。
これ以上下手に喋らない方が良いと判断した俺は、黙ってウィアトールの次の言葉を待ち構える。
しかし次のウィアトールの発言で、逆に俺が驚かされることとなった。
「え…あ……ユ、ユーゴ“が”私のことを…えっと、す、好きなんじゃないの?」
「え?」
俺が?ウィアトールのことを?
「酒場で仕事するときは必ず私のところにくるし。ユ、ユーゴは好色だって有名なのに付き合ってる人とかいないみたいだし。いつも助けてくれるし……」
「……あー」
なるほど、そういうことか。
俺は他のコックたちにあまり話しかけたくなかったので、酒場で作業するときは基本的にウィアトールから仕事を振ってもらっていた。
ウィアトールはそれを俺からのアプローチと受け取ってしまったのだ。
俺の前でだけ無口無表情になるのは、自分に惚れていると思って変に意識してしまっていたせいだろう。
つまり俺たちは………。
「お互いに相手が自分に惚れてると勘違いしてたみたいだな」
「あ……うぅぅぅぅぅぅ」
恥ずかしさのあまり発火でもさせそうな勢いで顔を真っ赤に輝かせたウィアトールは、ついにその場で屈んでうずくまってしまった。
やめてくれ……。俺だって恥ずかしくて死にそうなんだ。
結局俺はその後も、ウィアトールが立ち直るまでしばらくの間その場から動くことができなかった。
……しかしこの時俺は、少し気になっていることがあった。
もし「俺のことが好きなのか?」という質問に対するウィアトールの質問がイエスだったら、俺は一体なんと返事していたのか。
今となっては、自分自身のことなのに想像すらつかないが。




