第19項 『こっそり近づいてください』
ただ闇雲に突っ込んでも、高速で回転する水のカッターに切り刻まれるだけなのは明白。
当然俺も、なにも考えず走り出したわけではない。
手頃の距離まで詰めた俺は走りながら右手を後ろに回し、魔術スキルで手の平に光の球を出現させた。
手の平から出た光の球は俺の頭上までくると、周囲一帯を白く塗りつぶすほどの強烈な光を放つ。
直視しようものならその瞳を焼かれ、しばらくはなにも見ることができなくなってしまうだろう。
光を避けようと目を瞑ったり庇ったりしても、やはり隙ができる。
光属性の魔術は攻撃に転化するのが非常に難しい。その代わりこういった相手の行動を邪魔する効果やサポートをする能力に長けているのだ。
しかし、やはり男の対応は素早かった。
俺が光を出した段階で目潰しを警戒したのか、円状に展開していた水を1度塊に戻し、壁状にして自分の目の前に張ったのだ。
スピードが弱点とされているはずの『アクアモルド』の水が、超高速で壁の形に姿を変えていく。
俺の放った光は水の壁に分散され、男の目にはほとんど届かなかった。
だが、それでいい。最初からこれを狙っていたのだから。
光を避けるために水の壁を作り出すことは読んでいた。
壁を作り出すためには、1度水のカッターを解除する必要がある。
その間にこちらは安全に距離を詰めることができるというわけだ。
そして、相手の視界から外れたことで新たにタネを仕込むこともできる。
俺は男の目の前に壁が張られた瞬間、手に持っていた魔法陣をその場にさり気なく落とし、小声で一言呟いた。
しかし、比較的安全に近づける代わりに男の前には今、分厚い水の壁が鎮座している。
男が『アクアモルド』にほとんどの魔力を費やしているのなら、相当な強度になっているはずだ。
優に200ポンドはある俺を殴り飛ばしたにも関わらずほとんど変形しなかった点からも、その硬さが伺える。
召喚術師である俺が武器も使い魔もなしに突破することはできない。
(って考えてるんだろうが)
俺は懐から魔法陣の描かれた手の平サイズの木の板を2枚取り出し、それぞれ両手に1枚ずつ握り込こんだ。これが最後のストックだ。
しっかりと手の内に魔法陣があることを認識した俺は、速度を落とすことなく真っ直ぐに男に向かっていった。




