第17項 『安全を確保してください』
人々の活気付いた声で溢れかえる昼下がりの中央街。
そこに、女性の悲鳴とモノが壊れる音という不快なノイズが入り込んだ。
とても普通の人の力では出すことのできない、火薬の炸裂にも似た腹に響くような爆音。
こんな音が出せるのは大砲か、あるいは……。
(スキル…?冒険者でも暴れてるのか?)
必然、人々の視線が爆発音のあった場所に集中する。
同時に、身の危険を感じた人々がいち早くその場から離れようと、音のした場所を中心に水面に広がる波紋のごとく一斉に散っていった。
「なんだ!なになになに!?」
「ねぇ、これまずいんじゃないの?」
パニックになった群衆がざわめき始める。
たしかにまずい。このままでは人の波に飲まれて大怪我をする可能性がある。
俺は手に持っていたエルトライトの指輪を急いで指にはめ込むと、5枚の魔法陣の中から3枚を選んで空に放り投げた。
スペースの限られた状態で3体同時に召喚するための苦肉の策。
魔力の込められた3枚の魔法陣から飛び出してきたのは、白と黒の美しい羽を持つ大柄の鳥『カラドリウス』
上空からウィアトールを探してもらおうと思い用意しておいたのだが、思わぬ形で役に立ちそうだ。
急いでいた俺は、その姿を確認する前にカザキリを指差しながら指示を下した。
「上げてくれ」
俺の言葉に反応したカラドリウスたちは、1羽は俺の肩を、もう1羽はカザキリの肩を掴む。
「ちょ……えっ!?」
その状態のまま羽ばたきだし、俺とカザキリを持ち上げ出した。
「えぇぇぇぇっ!?」
突然の出来事に狼狽し体を揺らしてしまうカザキリ。
しかし最後の1羽が魔力で起こした風で上手くサポートし、無事目標の位置まで移動できた。
カラドリウスは人を掴んだ状態で自由に飛行することはできないが、こうやって少し上に持ち上げるくらいの作業であれば難なくこなすことができる。
カラドリウスたちに持ち上げられた俺たちは、すぐ隣の建物の屋根の上に降り立った。
ここなら人混みに巻き込まれるといった二次災害を回避することができる。
カザキリの安全は、とりあえず確保できたと見ていいだろう。
「あとは……」
俺は爆音の起きた方向を振り返ると、その現場の周囲に全神経を集中させる。
「来たな」
視線の先、破壊された入り口から1人の人間が転がるように飛び出してきたのは、俺が振り向くのとほぼ同時であった。
灰色のローブに身を包みフードで顔を隠しているが、ちらりと見えた顔の造形と体格から男であることだけは分かった。
男は出てくるなり急いで辺りを見回すと、弾かれたように向こう側へ走り始めた。
明らかにこの場から逃げようとしている。
その様子を見た俺はスキル『百火掌』を発動させ臨戦態勢に入った。
『百火掌』は体力を大幅に削るのと引き換えに身体能力を底上げするスキル。
発動するやいなや、たちまち全身が燃えるように熱くなり髪が逆立つ。
「ユーゴ…さん?」
俺の様子が変わったことに気づいたカザキリが声をかけるが、今はそれどころではない。
もし今の騒ぎが冒険者によるものだとしたら、その始末をつけなければならない。
それが天の目として働く俺の役目。
「あっ!」
混乱で固まってしまったカザキリを残し、俺は召喚した3羽のカラドリウスを連れて、屋根の上を走る形で犯人と思しき男を追いかけ始めた。




