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Ideal’ Garden 〜ギルド職員は冒険者より多忙です〜  作者: RinRin
ギルド職員入門編 ―第2条―
25/55

第10項 『バランスに気をつけてください』



 『マグヌス冒険者ギルド』ラウンド支部のギルド館は街の西方、都市部から若干離れた場所に立地している。


 本来であれば人が多く密集している東方に建てたかったそうなのだが、その場所に城を構えるラウンドの街の領主キャメロン・ヴンサンに気を使ってわざわざ真逆のこの場所に建てたのだという。


 オーレン王国の大抵の街は、国教でありオーレン最大の規模を誇る『ディエス教会』、これまた最大規模のギルド団体である『マグヌス冒険者ギルド』、そしてその街の支配権を有する『領主』の3つの権利によって成り立っている。


 これらの要素が1つの街に集まることによって互いに支え合い睨み合い、その土地の勢力図が出来上がっていく。


 現在この国には大量のモンスターが蔓延っているため、それらを駆除することに特化した冒険者が重宝されている。そのため冒険者ギルドの発言力は近年上昇傾向にあり、教会と領主に並ぶ日も近い、と囁かれている。


 しかし逆に言えば、冒険者ギルドの権力はモンスターが大量発生する現在のこの状況が生み出した零れ幸いであり、領主やディエス教会と違い実際にその権利を国に保障されているわけではない。


 結果このギルド館のように、結局領主や教会には気を遣いながら活動しなければならない。



「…」



 俺はカザキリとウィアトールを連れて外に出ると、1度振り返って先ほどまで中に入っていたギルド館を一瞥した。


 赤褐色の屋根には金色に輝く巨体な右足のブーツのモニュメントが飾られてあり、真上に照りつける太陽の光を受けてその存在感を大いに示している。


 

「…あの大きな靴はなんなんですか?」



 モニュメントを見上げていると、隣のカザキリがこちらを覗き込みながら質問してきた。



「あれは俺たちマグヌス冒険者ギルドの創設者ベルナルド・マグヌス自らがデザインした、このギルドのシンボルだよ」



 サイネル語で丁寧に、できるだけわかりやすく説明をする。やはり似ているとはいえニホン語とサイネル語は少々勝手が違うらしく、ガザキリはやや聞き辛そうにこちらの話に耳を傾ける。



「へぇ〜。でも、冒険者ってアレですよね…モンスターなんかと戦ったりするんですよね?なんで剣や弓じゃなくてブーツなんですか?しかも片足だけだし」



 初めの印象から思っていたが、この少年は中々におしゃべりが好きらしく次から次へと気になることを質問してくる。


 こちらも質問されるのは嫌いではないので、快くその疑問に答える。



「片足しかない理由は諸説あるが…ブーツにはちゃんと意味があるぞ。冒険者は戦闘面ばかり注目されがちだが、その本質は未踏地を探索し、誰も行ったことのない場所を冒険し、探索し、開発することだ。その心、パイオニア・スピリットを忘れないようにという意味を込めて、歩くときに必ず使うブーツをシンボルにしたとされている」



「へぇ〜。生活圏を広げるのが、冒険者の本来の役割ってことですか?」



「そうだ。今でこそモンスター討伐の仕事ばかり目立っているが、そんなモンスターたちを駆除して土地を開拓するまで、が冒険者の元々の役割だったのさ」



「なるほど。モンスターと対峙しながら国中を渡り歩き、人々の住める土地を拡げていく……すごくロマンがありますね!」



 両の手を握り締めながら年相応の好奇心を宿した大きな瞳を輝かせるカザキリ。



「…」


 しかし、そんな夢溢れる彼の表情を見た俺の心の中では微妙にやるせない感情が湧き上がってきた。



(まぁ、今時の冒険者は…冒険者とは名ばかりのチンピラ集団になってきちゃってるんだけどな)



 最近の冒険者は、冒険というものをほとんどせず自分の実力に見合うモンスターが近くに出現する街に滞在し日銭を稼ぐという者が多い。


 ここ数年未踏地を攻略したという話も耳にしない


 完全に本来の役割が失われ、モンスターを追い払うのに手一杯の状態になってきているのだ。



(残ってる未踏地は最高位の冒険者でも攻略出来ていない難解なエリアばかりだから仕方ないんだけどな。王都にばかり強い冒険者が集まる今のシステムにも問題があるよなぁ……ん?)



 頭の中で物思いにふけっていると、不意に右足の太ももあたりに軽い圧迫感が現れた。


 足下を見ると、不満そうな顔を浮かべた小柄な少女が1人。



「ああ、悪い悪いウィアトール。すっかり話が長くなっちゃったな」



 俺とカザキリの会話が途切れるのを見計らっていたのか、先ほどまで俺たちから一歩離れた場所で突っ立っていたウィアトールが俺の横に歩いてきて、手の甲で俺のズボンを軽く突いていた。


 相変わらずその表情は固くなにを考えているのかはよく分からないが、なんとなく瞳の色に鋭さを宿しているような気配がする。


 状況から察するに、どうやら自分を抜きにして盛り上がり中々前に歩こうとしない俺たちにしびれを切らしているようだ。



(そうか……ウィアトールはサイネル語分からないからな)



 ウィアトールはサイネル語を、カザキリはリズ語を理解することが出来ない。俺がどちらか片方と話し込んでしまうと、どうしてももう片方は仲間外れを食らうのだ。



「よし、そろそろ行こうか」



 俺は未だにブーツのモニュメントを眺めているカザキリに呼びかけると、ギルド館を出て早々止まってしまった足を再び動かし始める。


 2人を退屈させないためには、会話のバランスを考えて喋らなければならない。


 ほとんど会話もしたことのない人間を2人も引き連れてそれをするとなると……。


 

(中々に…難しい状況作ってくれたなぁ、料理長)



 開始早々重くなり始めている足取りを、楽しく街を巡るためのプラン立てに意識を集中することで誤魔化しながら、俺たち3人は広場につながる大きな階段を1段ずつ降り始めた。

 


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