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Ideal’ Garden 〜ギルド職員は冒険者より多忙です〜  作者: RinRin
ギルド職員入門編 ―第2条―
19/55

第4項 『全体を把握してください』



「それで、俺はどこを手伝えばいいんだ」



「ん」



 アルクとウェイライから逃げるように厨房に駆け込んだ俺はエプロンを装着すると、仕事を求めて1人の女性に話しかけていた。


 ふっくらとした明朗な茶髪を短く内まきにまとめた、25インチはある超縦長のコック帽を被ったこの小柄な人物の名は『ウィアトール・ファビオラ・フォルニ』



 酒場で振る舞う料理を作る職業、コックさんである。


 重い鉄板をお腹で支えて運んで回っていることでヘソの上辺だけ不自然に茶色く汚れたコックコート。


 皿洗いをし続けて垂れたり跳ねた水が付着しシミになった両脚の太もも周辺。


 厨房を走り回ることで履き潰れた靴。


 服装のところどころから、彼女がまだ見習いの追い回しであることが見て取れる。



 なぜそんな娘から仕事を求めているか。



 他のコックたちが怖いからである。


 ここのコックたちは全員、少しでも忙しくなると目をギラギラさせてとても話しかけられる状態ではなくなってしまう。


 常に時間との、客との勝負に晒され厨房のあちこちを行ったり来たり。


 水を飲む暇も満足に得られず怒号が飛び交う戦場、そしてそこで戦い続ける戦士たち。それこそがギルド館酒場のコックなのだ。


 その点ウィアトールは常に我が道を行くマイペースな不思議ちゃんで、常に真顔で物静かに、しかし迅速かつ正確、そして丁寧に仕事をこなしている。


 つまり要領が非常に良いのだ。


 なので俺は厨房の人間においては未だにこのウィアトールと、エイデン・ミラー料理長としかまともに会話をしたことがない。


 まあ、正直このウィアトールともまともに会話が成り立っているのか自信はないのだが…。



「青いほう」



「?」



 俺の言葉を受けたウィアトールはそう言いながら食材の名前がズラッと並んだリストを手渡して来た。



(青いほう…青いほうか)



 この娘は無駄なことを一切喋らない上に順序を飛ばしていきなり結論だけを言ってきたりするクセがある。


 慣れないうちは同じ言語で話しているのかすら疑わしいほどに会話が成立しなかった。


 というか、今もなにを言ってるのかほとんど分からない。



(相変わらず…訳がわからん)


 

「なあ、このリストと青になんの関係が―――」



 俺が言い終える前に、既にウィアトールは俺から離れて皿洗いを始めていた。


 次の行動に移るまでが早い。有無を言わさぬ徹底した合理主義。


 まるで必要なことは全部言ったぞ、とでも言いたげなその背中を見ると、これ以上話しかけられる雰囲気でもなくなってしまった。



「…」



(…とりあえず、ここに書いてあるやつで今厨房にないのを取りに行くか)



 いくら考えてもなにが『青いほう』なのか分からないので、とりあえず渡されたリストに従うことにした。



(え〜っと。フリムグルー、ヴィンジンパウダー、グルーセルの赤ワイン、ワーテルグリフの生肉…)



 俺はリストにあるウィアトールの走り書きの内容を1つ1つ確かめながら食材が置かれている倉庫に向かった。




――――――――――――――――――――――――――




 酒場の倉庫は調味料、ドリンク、肉類、魔食など種類によって分かれており、全部で9つの部屋が横に並ぶ形で密集している。


 俺は倉庫のそばに置いてあるカートを押しながら、リストに載ってる食材を端の倉庫から順に取り出していった。



(結構…多いな)



 リストに載っていた食材は重くて運びづらいものが多く、割と大柄なほうである俺がカートを使っても運ぶのに一苦労した。



(なるほど…だから俺に頼んだのか)



 ウィアトールは歳の割に小柄で非力なので、これだけの量を運ぶのは非常に時間がかかるだろう。



(……ん?)


 

 全ての食材を取り終え厨房に戻ろうとした時、魔食の倉庫部屋の扉がほんの少しだけ空いているのが見えた。



(まったく)



 開いてるからと特に困ることはないが、せっかく扉というものがあるのに完全に閉まりきってないのはあまりいい気分がしない。


 俺はカートから手を離し魔色倉庫の前に立つと、その扉を押し込んで完全に閉じた。

 


(…よし)



 1歩引いて完全に閉まっていることを確認した俺は、再び重いカートを手にとって厨房へと引き返した。

 


――――――――――――――――――――――――――



「持ってきたぞ……ん?」



 厨房の隅、いつもウィアトールが作業している作業台に戻ってきたが、その肝心のウィアトールの姿が見えない。


 食材を持ってこいとの指示なのだから、てっきりウィアトールが使うのかとばかり思っていたが…。



「ん?おおユーゴくん。手伝いに来てくれたのかい」



 ウィアトールの姿を探して辺りを見回していると、背後から渋いおじさま風の声が聴こえてきた。


 声のする方を振り返るとそこには、坊主頭を短めのコック帽で隠し、ヒゲまでツルッツルに剃り上げられた爽やかな中年男性が立っていた。


 エイデン・ミラー。このギルド館内に併設されている酒場の支配者、料理長である。


 どんなに忙しくともにこやかな笑顔と余裕を絶やさず、楽しそうに料理を作るその姿勢に俺は尊敬の念を抱いている。



「あ、料理長。ウィアトール知りませんか。これを持って来いと頼まれたんですけど」



 持っていたカートを前に押し出して示すと、料理長はそのカートに乗っている食材を一瞥し、全て理解したかのように頷いた。



「ああ、ウィアトールなら休憩中。それとこれは今からこっちで使おうと思ってた食材だね」



「あ、料理長が使う…」



 なるほど。自分は休憩時間に入るから別の人間が使う分の食材を取って来させたのか。



「ん〜。僕が、というより厨房全体で使うぶんだね。少なくなった備え置きの調味料の補充分まである」



「え?」



 なんと。どうりで重いわけだ。


 ウィアトールは厨房全体の流れを把握して上手く回るようにサポートをしていたのか。


 ウィアトール自身が使うものと思い込んでいた自分自身の視野の狭さに呆れさせられる。



「まあ、とりあえずありがたく頂いておくよ。次は出来上がった料理を運んでもらえるかな。そろそろぞくぞく出てくるからそっちが忙しくなりそうなんだ」



「わかりました」


 新しく指示を受けた俺は料理を運ぶため早足で表に向かった。



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