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Ideal’ Garden 〜ギルド職員は冒険者より多忙です〜  作者: RinRin
ギルド職員入門編 ―第2条―
18/55

第3項 『服は意識してきちんと着こなしてください』



 ―――エプロンドレス。


 メイドが仕事着として着用している機能性を重視した便利で高性能な制服である。メイド服ともいう。


 デザインの一部にエプロンを採用した斬新かつ至高の一品であり、富裕層貧困層問わず人気の高い完成されたフォルム。


 黒いドレスを下地にフリルの付いた可愛らしい白エプロンを上から重ね、胸元に小さなリボンを添えることで高貴さと勤勉さ、そしてなにより清楚さを感じさせる。


 コルセットによって締められたくびれが理想のシルエットを浮かび上がらせ、露出が少ないにも関わらず空に浮かぶ精霊のごとく妖艶な美しさと艶かしいエロスを醸し出す。


 元々雇い主を欲情させぬため思考を凝らした結果、あのような露出の少なく一見地味と言われるこの姿になったという逸話があるが、それは嘘だと声を大にして言いたい。


 あれに欲情しない男などいるのか。いやいない。


 ただエロくするだけなら簡単だ。露出を減らせばいい。


胸を、尻を、セクシャルポイントを強調するだけでいい。


 しかしエプロンドレスは違う。そんな楽な道を進むような愚かな代物ではない。


 1つ1つのポイントは突出させず清楚さを出し、しかし全体を見渡したときに浮かび上がる繊細に計算尽くされた極上の美、そこから生まれる底の見えない恐怖すら感じる圧倒的エロティシズム。


 黄金比…いや白金比とも言える世界すらも保つバランスと言えるだろう。


 あれぞまさしくデザイナーの…いや、全人類(おとこ)の理想を詰め込んだ究極の衣装。


 昨今ではメイドの仕事着だけでなく、その高いデザイン性を活かし踊り子の衣装や私服、果ては娼婦のコスチュームにまで採用されている点からもこの作品が利便性だけでなく芸術性にも優れたモノであることがうかがえる。


 そう、これは作品。人類の英知、偉大なる発明、不滅の概念として後世に語り継ぎ残していかなければならない史上類を見ない完全無欠のトップ・オブ・ザ・ワールド。


 清楚さと妖艶さ、2つを兼ね備え最強に見える。


 神がこの世界を作ったのは、この服の存在を証明するためだろう。


 俺が今日この瞬間まで生きてきたのも、きっとこれから目にするメイド服を着た美少女を目に焼き付けるためだろう。




 滑り込むようにして酒場エリアに入ると、冒険者の賑やかな歓喜の声と興奮の声が一層大きく聴こえる。


 間違いない。例の美少女新人があの群勢の原因だ。


 俺は人ゴミをかき分け必至に奥まで潜り込む。


 そしてたどり着く。この声が渦巻く嵐の中心にいたのは―――



「あ、ユーゴくん。給仕の仕事ってことでメイド服着せてもらったんだ〜、似合う?」



 後輩のウェイライ・ワードだった。



「ふざけるな」



「ええっ!?」



 俺の突然の暴言に面食らうウェイライ。


 おっと、つい思ったことがそのまま口を突いて出てきてしまった。



「はっはっは、ユーゴォ…お前相変わらず女の子大好きだな」



 そこに遅れてやってきたアルクが俺の肩に手を置き、満面の笑みでこちらをおちょくりにかかる。


 コイツは相変わらずブン殴りたくなる表情を作るのが上手い。

  


「あ、アルクさん…ユーゴくんがすごい怒ってる気がするんですけど」



「おかしいなぁ。嘘はついてないんだけどなぁ」



 確かに嘘はついていないが。



「あれぇ〜?もしかしてあたしのメイド服、おかしかったかな?」



 開口一番ふざけてる呼ばわりされたウェイライが未だに不安そうな顔でこちらを見つめている。


 たしかにウェイライに非はないので素直に否定しておく。



「ああ、いや。そんなことないぞ、よく似合ってる」



「ん?そう?フヘヘへ」



 俺の言葉を聞いたウェイライは安心したのか、その場でクルッと1回転して自分のメイド服姿を見せつけてきた。


 その時、ウェイライの服の着方がおかしいことに気づいた俺はその回っている肩を抑え、こちらに引き寄せた。



「え?ちょっと…なになに!?」



「ウェイライ、後ろのエプロンの紐が捻れてるぞ。パニエが歪んでるせいでせっかくのロングスカートの綺麗なシルエットも台無しだ。付け根も上下セパレートなんだから意識してシャツ入れておかないと…ほら飛び出てる」



 早口でまくし立てながらウェイライの服装を正していく。


 全ての形には……デザインにはそこに行き着いた意味がある。その意図を着る側が汲み取り、理解して正しく着こなさなければデザイナーや生産者に失礼というもの。メイド服のような技術の粋の結晶ともなればなおさらだ。



 俺の手によって上のヘッドドレスから下の革靴まで瞬く間に整備され、先ほどより更に洗練された美しい立ち姿に変貌した。



「おお〜、なんか腰あたりの締め付けがなくなって動きやすくなった!ありがとーユーゴくん!」



「ふん、勘違いするな。俺は同じ天の目(サンヘッド)のメンバーが服もまともに着こなせないと思われるのが我慢ならなかっただけだ」



 俺は腕を組んでそっぽを向いた。べ、別に素直に感謝されたことが嬉しかったわけではない。



「それにしてもお前…紐とかリボンならまだ分かるんだけどよ、なんでスカートの中身の構造まで精通してんだ。パニエとか俺初めて聞いたぞ」



 俺たちのやり取りを側から見ていたアルクが、目を半分閉じ体を後ろに反らしながら引き気味に尋ねてきた。



「…」



 しまった。調子に乗り過ぎたか。



「…ユーゴくん?」



 急に黙り出した俺を怪しむ目線が強くなる。増えていく。


 いかん、一刻も早くここから離脱しなければ。



「そそんなことよりアルク酒場が忙しいのは本当なんだろさっさと仕事にかかるぞほら行くぞほらほら」



 俺はアルクの後ろに回り込むと、両手でその背中を押し込む。



「あ〜もう押すな!わかった、わかったから押すな!」



 よし、誤魔化せたな。


 このままゴリ押す。



「ウェイライもほら、さっさと持ち場に戻れ。お客様が可愛いメイドさんをお待ちだぞ。ほら、ほらほら」



「あ…ちょ!まったまった!」



 若干の抵抗を見せるも仕事が溜まっているという事実を突きつけられ抗えなくなったウェイライとアルクを、強引に店の奥まで押し込んでいった。



「ほらほらほらほらっ」



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