第2項 『廊下を走らないでください』
オーレン王国の総人口約6500万人。
そのうち『冒険者』の人口約10万人。
そして現在ラウンドに在籍する冒険者の人口が1996人。
これは全国にある99の街全てを見ても破格の人数で、ギルド館も昼夜問わず常に人集りができている。
「エナ・ゴールドカーバンクルの討伐依頼ですか?きてません」
「申し訳ございません。カッパーランクでは難易度11のクエストを受ける資格がございません。ランクを上げてまたお越しください」
「ハードスライムの討伐依頼ですね、承りました。こちらで審査いたしますので明日またお越しください」
「こちらは討伐レベル31のクエストです。3足りていないようですが本当によろしいですか?」
「あ、新規登録希望の方ですね。係員が参りますのでそこの椅子に座ってお待ちください」
「ですから、エナ・ゴールドカーバンクルの討伐依頼はきておりませんので」
そして俺は今日も、そんな忙しいギルド館の受付としてカウンターに座っていた。
受付の仕事は主に3つ。
1つ目はクエスト依頼の手続きをすること。
世界はモンスターやあらゆる問題で溢れている。その内主に武力や体力で解決可能な問題をこちらのギルドの冒険者に解決してもらおうと、クエストの依頼をしてくる人々がいる。
それらの内容を確認し、不備がなければ裏の会議に回す。早ければ次の日にはギルド館内の大きな掲示板にその依頼が貼り出されることになる。
2つ目は冒険者が受注するクエストを確認すること。
クエストには難易度が設けられており、冒険者のランクによって受けられる難易度の上限が決まっている。
ランク的には受けられても、依頼の討伐レベルと受ける冒険者のレベルが離れていれば断る場合もある。
ランクとレベル。この2つの要素を用いてその冒険者の身の丈にあったクエストであることを確認し、初めてゴーサインを出す。
冒険者の命がかかるかもしれない大事な作業と言える。
3つ目は冒険者新規登録希望の人への対応。
新しく冒険者を始めたいという人がいた場合、奥の部屋に待機する占術師のもとへ案内する。
しかし……。
(急に人が減ったな)
普段ならこの時間は6つあるカウンター全てが埋まっているはずなのだが、先程からまばらにしか人が来ない。
酒場のほうが騒がしいので人がいないということはないはずなのだが……。
1番忙しいからと入ったポジションがこれならば無理に留まる必要はない。
他に人手が足りていない場所を探すためにカウンターを閉じようとしたその時、1人の男が俺の目の前に立つのが見えた。
「…どうした、アルク」
アルクと呼ばれたその男はカウンターのテーブルに肘をつくと、ニヤついた顔で覗き込むようにこちらを見返してきた。
「いや〜、暇そうにしてるなと思ってさ。良かったら一緒に酒場の方行かないか?面白いもん見れるぞ」
―――アルク・サリヴァン。
青みがかった髪を肩まで伸ばした細身の男で、とにかく人との距離が近い。
物理的な距離もそうだし、精神的にもグイグイくるタイプで大体誰とでも仲良くなれるという羨ましい才能を持っている。
人との距離は近いくせに役職は遠距離攻撃主体の弓術士という食えないやつだ。
そしてギルド職員の1人にして天の目のメンバー、なにより俺の1番の友人でもある。
「悪いが一応勤務中だからな、他に忙しそうなところを探しに行こうと思ってる」
「かぁー!相変わらず真面目だなぁお前。まあ、最近かわい子ちゃんの後輩もできたらしいし、カッコつけたいのも分かるけどな」
かわい子ちゃん…ああ、ウェイライのことか。
天の目は……というより冒険者は女性の数があまり多くないため、女性というのはそれだけで目立ち、有名になる要素となる。
「あ、でもそういうことなら尚更酒場に行ったほうがいいぜ。今大繁盛してるから給士係が足りてないんだ」
「…なんでまた、昼間っからそんなに客が」
明日大きな遠征でもあるというなら今日の昼間から盛大に騒ぐこともあるだろうが、そんな話は聞いていない。
「今日臨時でな〜、めちゃくちゃ可愛い給仕さんが―――」
「なぜそれを早く言わない」
アルクの話を最後まで聞くことなくカウンターを閉じた俺は、すぐ横に併設されているギルド酒場まで全速力で駆け出した。




