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Ideal’ Garden 〜ギルド職員は冒険者より多忙です〜  作者: RinRin
ギルド職員入門編 ―第1条―
14/55

第13項 『目的を見失わないでください』



 物音がしなくなったのを見計らったウェイライは、被せられたローブからソロソロと、少しずつ顔を覗かせた。



「え〜っと、終わったの?」



 一応問うてはいるが、この視界いっぱいの残骸と血だまりをみたら嫌でも分かってしまうだろう。



 とりあえず一応なんとかギリギリ助かったと。



「ユーゴくん…なにをしたのこれ。空中からロープが出てるように見えるんだけど」



 『サモン』は魔法陣を使わなければ使用できない。


 妖精ではなく物を召喚できる工夫はあっても、それだけは絶対に覆せない。


 では、なぜなにもない空間からロープが出ているのか。



 当然、あるのだ。ロープが飛び出しているこの根元に魔法陣が。



「もういいぞルーカス」



 俺が呼びかけると今までピンと張っていた11本のロープが全て弛み、ポトリと地面に落ちる。


 その根元には、小さな木の板に描かれた魔法陣が付いていた。



「あれ、魔法陣?なんで?」



「森に入ったとき3枚の魔法陣を使ったのに2匹しか出てこなかったように見えただろ。あのとき姿を隠した状態で出してたんだよ、コイツを」



 そういうと同時、俺たちの正面の空間が陽炎の如く歪み、揺らめいた。



「うわたっ、なに!?」



 その歪みはだんだん大きくなり、向こう側が見えなくなるほどにねじ曲がり始めると、1匹の巨大な犬の輪郭を形成する。


 気づくと目の前に、先程のクー・シーよりも一回りは大きく重厚な妖精が1匹、鋭い目つきと静かな口元を携えて佇んでいた。



「俺の相棒、ルーカスだ」



 音もなく現れたその妖精の立ち振る舞いや動作は、まさに荘厳の一言。ただ目の前にいるだけでとてつもない気高さに気圧される。


 その落ち着き払った神秘の姿は、一介の妖精とは比べものにならない神々しさを放っていた。



「コイツは俺が契約した妖精の中でも特別でな。音も出さずに素早く移動する能力と、姿を消して持ち物ごと他者から見えなくすることができる能力を持っている」



 この2つの能力は親和性が高く、組み合わせることで途轍もない隠密性を得られ、盗賊(シーフ)顔負けの様々な奇襲が可能となる。



「あ、なるほど。あらかじめそのルーカスちゃんは魔法陣を持った状態で隠れてたんだ」



「そうだ。そしてコイツはそれだけじゃない。『ディバイド』って知ってるか」



「ディバイド?」



 知らなかったらしく首を傾げて反復するウェイライ。


 まあ召喚術師(サマナー)固有スキルの上に使用者も少ないため知っている人間のほうが珍しいが。



「『ディバイド』っていうのは召喚術師(サマナー)の固有スキルでな、使い魔を分霊する…分かりやすくいうと魂を分割して1体の妖精を複数体に増やすスキルだ」



「なにそれつよ!」



 確かにここだけ聞けば強く聞こえるが、実際使ってみると意外とそうでもない。



「そこらの妖精を分霊しても2、3体に分けるのが限度だ。分ければ分けるほど1体1体は弱くなるしな。なら最初から2体と契約しておいたほうが早い」



「なにそれよわ!」



 凄まじい手のひら返し。見てるこっちが心配になるレベルで単純な奴だ。



「……ルーカスは特別な個体だって言ったろ。コイツは元々強い上に鍛えまくったからな、今は最大11体にまで分霊できる」



「じゅういち!?すごいねルーカスちゃん」



 しかしルーカスはウェイライに話しかけられても表情1つ変えない。


 コイツは基本的にずっとポーカーフェイス。俺でも中々表情の変化を見れないのだ。



「そうだ、コイツは凄い。さらにそこに透明化の能力を合わせると……」



「相手がなにもないと思ってる空間から魔法陣を通して奇襲できちゃうってわけね」



「そう。まず2匹のクー・シーの召喚を解除して俺たちを包囲できるだけの範囲を確保。次に俺の『フォラリス』でペクラ鳥の攻撃のタイミングを全て揃える。そうしないと罠を張っても最初に突っ込んできた数匹で見破られちまうからな」



 全容が見えてきたらしいウェイライが相槌を打つ。



「うん。あとはディバイドで11匹になったルーカスちゃんが魔法陣を隠し持った状態で位置取りをして、丁度いいタイミングでユーゴくんが『サモン』を発動。張られたワイヤートラップがペクラ鳥を切り刻んだ、と」



「そう。これがこの作戦の全てだ」



 クールなキメ顔でウェイライを見下ろす俺。ここに来てようやく先輩らしくカッコつけることができた気がする。


 本当は見通しが甘く破片が当たったり全身血まみれになって気持ち悪かったりでほんの少しだけこの作戦をとったことを後悔していたのだが。


 ここは我慢して本音を隠し通さねば。



「うん。森に入ったときから既にこの状況を見越して準備してたんだね、感心するよユーゴくん。でもさ…」



 もう少し褒め称えられると思ったが、ウェイライは語尾を濁して俯いてしまった。


 なにかまずいことでもしたか。



 俺が心当たりを模索していると、ウェイライが横を指差して今ままでにない低いトーンで尋ねてきた。



「このアッカ、どうするの?」



「あ」



 指さされた方向を見やると、ペクラ鳥がぶつかって粉砕した木箱と、その周囲に散らばったアッカが視界に映った。


 どうやら自分とウェイライを囲うのにいっぱいいっぱいで木箱全てまではカバーしきれなかったらしい。



 幸い痛んではいなかったので、俺とウェイライとルーカス11匹総出で急いでかき集めた。



 結局、最後の最後まで始終締まらない採集クエストであった。



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