第12項 『名前を呼んでください』
1度深呼吸をした俺は力強く、確信を持って断言した。
「事前準備をした召喚術師は最強だ」
「……でもユーゴくん準備してないじゃん」
「……」
あっさり返された。もう少しカッコつけさせてくれてもいいんじゃないか。
「でもわかった。準備さえすればこの状況をどうにかできるんだね?ユーゴくんに賭けるよ。あたしはなにをすれば―――」
「おっと、なにを勘違いしてるんだ」
ウェイライの言葉を途中で遮り、軽いハンドサインでクー・シー2匹を手元に引き寄せた。
ペクラ鳥がいつ襲ってくるか分からないため、あまり時間はない。
「準備っていうのは問題を目前にしたときを想定して行うものだ。すでに問題に直面してる以上今から準備を始めたって、それは準備じゃなくてただの後手だ」
「えぇ…じゃあどうするのさ」
「こうするんだよ」
言いながら俺はパチンッと指を鳴らす。
するとその場にいた2匹のクー・シーが掻き消えた。
2匹が抱えていた荷物がその場にドサッ!と鈍い音を立てて落ちる。
召喚を解除したのだ。
「はぁっ!?なにやってんのユーゴくん!」
妖精は本来実体を持たない。召喚術師が『サモン』によって呼び出し魔力を分け与えることでこの世に現象として存在することができる。
『サモン』を解除してしまったことでクー・シーたちは実体を維持できなくなり妖精本来の姿、つまりエネルギーの塊のようなモノになり空間に溶け込んでしまったのだ。
「なにって…最後の下ごしらえさ」
「え?」
「終わってるんだよ準備は。この森に入った段階でな」
そう。なにも今まで好き勝手やられていたわけではない。
大勢のペクラ鳥に囲まれるこの状況を見越していつでも対応できるよう、最初から準備していたのだ。
そして、今がその時。
「ここはもうとっくに……俺の庭だ」
「ちょ、なに!?」
俺はウェイライの膝を蹴ってしゃがませ、着込んでいたローブを脱いでウェイライに頭から被せ全身を覆った。
「いたっ!なにするの!」
最もな疑問だ。しかし解答する時間はない。手っ取り早く静かになってもらう。
「そのローブから出ると死ぬからな」
「ひぇっ」
抵抗していたウェイライの動きが止まるのを確認してから俺は手を前に突き出し、あるスキルを唱えた。
「『フォラリス』」
「!」
呟きながら目の前にかざした俺の手が青白く光り輝く。
『フォラリス』はいわゆる挑発系スキルと呼ばれるもので、光を見た知性レベルが一定以下のモンスターをこれ目掛けて強制的に攻撃させることができる。
つまり―――
20数匹のペクラ鳥が全て一斉にこちらに向けて突進してくる。
「バカー!ほんとになにやってんのバカ!準備ってなにさ!?辞世の句でも書いてたのかい!」
ついでにウェイライもローブ越しに攻撃してきた。お前の知性レベルはペクラ鳥以下か。
しかし好都合だ。体は密着してくれたほうがこの作戦は成功しやすい。
バサバサバサッ!とペクラ鳥の大群が羽ばたく音が響く。
正面背面右方左方斜め前斜め後ろ真上……。
ペクラ鳥があらゆる方向から一斉に飛んで来ているのが分かる。
しかし俺はまだ動かない。ペクラ鳥は自由落下のエネルギーを利用して落ちてくるため攻撃に転じてからこちらに届くまでに時差がある。
ギリギリまで引きつけ…惹きつけ、引きつけ惹きつけた最後の最後―――
俺は相棒の妖精の名前を叫んだ。
「ルーカス!」
その時俺たち2人の周囲、なにもないはずの空間に全11ヶ所の歪みが生じ、
その歪みの中から1本ずつのロープが俺に向かって飛び出してきた。
ロープといっても、先ほどガルドゲルズに使った太いものではない。
細さ0.1インチのワイヤーロープである。
それら4本を左手、4本を右手の指に挟み込み、
2本を両足で踏み込んで、
最後の1本を口で咥えて固定した。
一瞬にして俺たちの周囲にワイヤーで作られたトラップが完成する。
上から下への攻撃であればどこから飛んでこようとカバーできる張り方。
普通に扱えばなんのことはないただの鉄紐。
しかしペクラ鳥ほどの超スピードでぶつかればそれは、肉を切り骨を断つ刃に変わる。
そこに回転が加わればさらに殺傷力は増すだろう。
そして今ペクラ鳥は漏れなく俺の『フォラリス』でこちらに突進中である。
1匹も生き残る道理はなかった。
ドザザザザザザッ! と、生き物がぶつかってはいけないモノにぶつかる不快な音と叫びが響き、飛び散った鮮血が俺の体とローブを赤く染める。
ワイヤーに刻まれたペクラ鳥のほとんどは骨やクチバシが引っかかり途中で止まるが、切れすぎた体の破片がいくつか俺の体にぶつかった。想定していたより搔い潜ってくる。結構痛い。
ワイヤーの負荷により唇と指の数箇所から血が流れる。
手袋はしていたのだが指ぬきグローブだったのがマズかったか。
しかし、それでも手は決して離さない。
降り注ぐ死の雨音が全て止むまでは……。




