第11項 『同僚と仲良くしてください』
「いたたたた……あいっ!」
「おい、急がないとモンスターがウヨウヨ寄ってくるぞ」
無事アッカの採集を終えた俺たちは休む暇もなく、森を抜けようと痛む身体を庇いながら必死に歩いていた。
庇っているのはウェイライだけなのだが。
「……ねぇユーゴくん。やっぱりあたしたち少し休憩するべきだと思うの」
「ペクラ鳥に膓ブちまけられたいなら休めばいい」
そう、ウェイライがいくら腰を痛め歩けない状態だとしても、この場で休めない大きな理由があった。
モンスターは高い魔力や生命力を宿す存在を狙って攻撃してくるモノが多い。その対象はなにも冒険者に限った話ではない。
「今クー・シーたちが抱えているこのアッカだって奴らのエサだ。同じ場所に留まり続けたら確実に袋叩きにされるぞ」
「それは分かるけどさぁ…」
理屈で分かっていても、やはり痛覚に抗うことは難しいらしく不満そうな声を上げ続けるウェイライ。
「そもそもユーゴくんがも〜すこし働いてくれれば…」
「あのなぁ、召喚術師は事前準備命の役職だ。魔法陣がなくちゃただの人だからな。敵の目の前でセコセコお絵描きするわけにもいかない。準備がなければ全役職中最弱でなんの役にも立たないと断言できる。お前のアドリブには対応できん」
はっきりと断言した。
「えぇ、最弱って…自分の役職をそんな風に言っちゃう?」
過去1番のジト目でこちらを見やるウェイライ。
まあ、本来なら役職とは自分の冒険者人生を象徴する重要な要素。誰でも多かれ少なかれ自分の役職に誇りを持っているものだ。
それを『最弱』なんて断言する人間がいたら引くのが普通か。
「……まあ、俺があまり役に立たなかったのは事実だしな。肩貸せ、持ってやる」
「あ……あ、うん。ありがと」
どれだけねだられても休むという選択肢は絶対に取れないので、手助けくらいはするべきかとウェイライの手を持ち上げて自分の肩に回した。
「……なにニヤニヤしてんだ」
つい数瞬前まで不満タラタラの表情だったはずウェイライが、いつのまにか不気味に口角を吊り上げこちらを覗いていた。
「いやぁ〜、ユーゴくんって女の子にこーいうこと結構自然にできちゃう子なんだなぁって。おねーさん感心しちゃったよ」
セリフがおっさんみたいな女だ。
「ああ、ギルド職員は呑んだくれて酔いつぶれた奴らをこうやって介抱するのも仕事だからな」
「へぇ〜、じゃああたしもおんなじように優しく介抱してね?」
介抱といっても大抵はギルド館の外に放り出すだけなんだが。
「バカなこと言ってないで少しは自分の力も使え。クー・シーに引きずらせるぞ」
そういうと、俺の後ろを歩いていたクー・シーが一瞬立ち止まった。気になって振り返ると小さい筋肉を器用に曲げて露骨に嫌そうな顔を作っていた。
…あれか。ウェイライは動物に嫌われる体質でも持ってるのか。
「そういえばユーゴくんはクー・シーちゃんたち…使い魔に名前とかつけないの?こんなに可愛いのに」
「あのな、使い魔は愛玩動物じゃない。コイツらにとって名前っていうのは重要な意味を持つ魂みたいなもんだ。そう簡単につけられるものじゃ―――」
「バウ!バウアウ!」
そこまで言いかけたところで後ろのクー・シーが突然大きな声で鳴き出した。
「―――っつ!」
その場でウェイライを突き飛ばし身を翻した俺のすぐ真横を、内臓を抉り取ろうと回転をかけたトップスピードのペクラ鳥が通過していった。
モンスターの奇襲。
ついに恐れていたことが起こった。
(合図3回…3匹以上か)
「ウェイライまた来るぞ起き上がれ」
「ひゃい!」
2匹目、3匹目と矢継ぎ早に突進してくるペクラ鳥。
しかし所詮は基本討伐レベル20のモンスターである。不意打ちでなければ捌くのは容易。
俺は腰のナイフを引き抜くと、顔面目掛けて飛んでくるペクラ鳥の進行方向にそれを構える。
ペクラ鳥は動きは素早いが線が真っ直ぐで素直すぎる。
こうやって直線上にモノを添えるだけで簡単にクラッシュしてしまう。
「キィヤァァァァァッ!」
想定通り俺が置いたナイフに切り裂かれ地に落ち、地面を凄まじい勢いで転がっていくペクラ鳥。
「あっ」
しかしペクラ鳥の骨か何かに引っかかったのか、手に持っていたナイフがそのままペクラ鳥ごと持っていかれてしまった。
(ちっ、1本しかないのに)
モンスターは待ってはくれない。螺旋の槍は次から次に降り注ぐ。
(ヤベ…)
絶妙な体捌きで飛んでくるペクラ鳥を避け続ける俺。
しかしペクラ鳥は1度狙った獲物は仕留めるか自分が動けなくなるまで執拗に攻撃し続ける。
避けるだけでは意味がない。なんとかして仕留めなければ。
本来ならクー・シーに戦闘の補助に入ってもらうはずなのだが、今はむしろ守る対象であるため期待は出来ない。
横目で見てもやはり背負っているアッカを守るのに精一杯のようだ。
ペクラ鳥を避けながら動きのパターンを見た俺は、この場に最も適したスキルを発動させた。
瞬間、胎動する熱が心臓を通して一瞬で全身に伝わる。
全身から汗が吹き出し、生み出した熱の上昇気流が決して長くはない髪の毛を逆立たせる。
血の流れが速くなり皮下に収まりきれない血の赤が全身に現れる。思考が加速していく。
『百火掌』
スタミナの消耗と引き換えに全身のあらゆる身体能力を底上げする強力なスキル。
本来召喚術師などの魔導師系統の役職が習得するのは珍しいが、使い魔が使えない状態でも戦えるようにとオースティン団長の指導の下、死ぬ気で鍛錬し習得した。
この状態になると脳の処理速度が爆発的に加速するため、自分自身の動きと動体視力が同時に向上する。
結果ペクラ鳥のスピードにも素手で対応できるようになる。
こちらの変化を気にすることもなく同時に突っ込んでくるペクラ鳥3匹。
それら全てを薄皮一枚で躱した俺は―――
腰の横を通過する1匹を上からはたき落とし、
胸を掠めた1匹を横から突き飛ばし、
目の前を行く1匹を下から蹴り上げた。
「っし」
想像以上に綺麗に決まった。
横ではウェイライが近づくペクラ鳥を触れもせず地面に叩き落としていた。あれは一体なにをどうやっているのか。
「へ、腰痛めてる割にはやるじゃないか」
「ユーゴくんこそ、召喚術師より格闘士のほうが才能あるんじゃない?」
互いに軽口を叩きつつ背中を合わせてさらに周囲を警戒する。
側から見たらコンビ1日目とは思えない動きの合わせ方だっただろう。
しかし、安心もつかの間。
「……まずいよ、囲まれてる。ザッと20匹」
『サーチャー』を使ったウェイライが呟く。たしかに20匹ともなればいくらレベル差があっても凌ぐのは難しいだろう。
3匹仕留めるのにもこれだけ苦労したのだ。20匹に囲まれたとあっては状況は最悪。
背中越しにウェイライの体温と共に、絶望的な雰囲気が伝わる。
しかし、なにも問題はない。
まだ想定していた内の最悪の事態にしかなっていないからだ。
「なあウェイライ、さっき召喚術師は事前準備がなければ最弱って話したよな」
「?」
息がつまり、返事する余裕もないウェイライ。俺は構わず続けた
「でもな」
1度深呼吸をした俺は、先程よりもさらに力強く、誇らしく断言した。
「事前準備をした召喚術師は最強だ」




