表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の系譜  作者: 橘 明
4/7

笹葉の小鬼

「銀、どこまで行くんだ?」

 お社に続く一本道を歩きながら、佐和は銀にたずねた。

 すっかり夜がふけて、あたりは真っ暗さ。人っ子一人いねえよ。だって、みんなお家に隠れているんだもん。


 さっきまで、佐和も家に居たのさ。昼間すおうに言われたように、鬼封じの札を貼って家ん中で息こらしていたのさ。なにしろ、昨日荘助を食った鬼は、まだこの辺りに居るらしい。だから、くれぐれも1人で出歩くなって、すおうはくどいほど念を押していた。

 やる事もねえからっていつもより早めに家族が寝静まった頃、布団の中でぱっちり目を開けて、佐和はずっと考え込んでた。

 なにを考えてるかって? そりゃ、昼間の事さ。…銀に冷たくしすぎちまった。あれきり、あの子居なくなっちまったが、どうしちまったんだろ? ちゃんとお山に帰ったのかな?…

 別に、佐和だっていじわるで冷たくしたわけじゃねえ。ただ、このまんまじゃ銀が村のみんなに嫌われてしまうと思い、反省させるためにわざとあんな態度とっちまっただけだ。

 でも今にして思えば、何もあんな冷たくしなくても、もっと他に言い方あったよな。かわいそうに、今ごろ1人で泣いてるんじゃないのか? そう考えると、哀れで仕方なくてとても寝てなんていられねえ。

 と、その時だ。とんとんと誰かが扉叩く音がしたあ。起き上がって「誰だ?」ってたずねたら、

「おれだ。佐和、おれだよ」

 ってガキの声がする。誰じゃって戸を開けたら、なんと銀がべそかいて立ってたから、佐和はえれえびっくりした。

「なんじゃ? 今時分?」

「姉ちゃんが大変なんだ、助けてくれ」

「姉ちゃんは山じゃねえのか?」

「鬼が恐いから山から降りて来たんだよ。村にいれば大丈夫かと思ってさ。けど、姉ちゃんは体が強くねえから、すぐそこで具合が悪くて動けなくなっちまった。頼むよ、助けてくれ。佐和の他に頼めるもんがいねえんだよ」

 そう言って銀はわんわん泣いた。

 確かに、今の銀は村中の人間にそっぽ向かれてるから、誰も助けてくれんじゃろう。それで、けっこう夜もふけてたけども、1人じゃねえし、昼間の事で罪悪感もあったし「いいよ」って答えて、佐和はついつい家から出てしまった。


 …けど、あの子は一体どこまで行こうっていうんだろう?


 佐和は目の前行くガキの背中見つめて首をかしげた。行けども行けども銀の姉さんらしき姿なんか見えねえじゃねえか。それに、あんまりにも村から離れすぎちゃ危ねえぞ。


「なあ、銀、どこまで行くんだ? 姉ちゃんはどこにいるんだ?」

 呼びかけても、呼びかけても、銀は振り返りもしねえ。黒髪ばっか揺れて、どんな表情してるのかちっとも分からねえ。それに、妙に歩くのが早い。佐和は小走りで追っかけるのがやっとだ。あの子はこんなに歩くのが速かったっけ?


 …本当について来て良かったのか?


 なんとなく不安になる。なんだか、あのガキは佐和の知ってる銀じゃねえみてえだ。けど、佐和は首をふって思い直した。


 …いや、疑っちゃいけねえ。昼間あんなひでえ事言ったあげくにおかしな疑いかけちゃ、あまりにも銀がかわいそうだ。


 黙々と歩いてくうちに、お社の裏のお池が見えて来た。それで、佐和は何となくホッとする。


 …ほれみろ、ここは銀がいつも昼寝してるお池のほとりじゃねえか。ここに姉ちゃんを隠してたんだな。


 けど、池のほとりに着いても誰もいねえ。

「姉ちゃんは、どこさ?」

 って佐和がたずねたが、銀は相変わらず向こう向いたきりさ。

 その時、佐和は「あれ?」って奇妙な事に気がついた。

「なあ、銀。お前、いつも頭につけてる輪っかはどうした? あれ、母さんの形見のお守りだって大事にしてたんじゃなかったか」

 すると、銀は「ああ、あれは、もういらねえんだ」って答えた。それからおかしそうに、くすくす笑った。

「何がおかしい?」

 佐和は首をかしげた。本当に変だ。さっきまで泣いてたくせにさ。

 すると、銀は向こう向いたまま答えた。

「おかしいんじゃなくて、嬉しくて笑ってるんだ」

「嬉しい? 何が?」

「お前がここまで着いて来てくれたことがさ」

 そう言うと、銀はゆっくり振り向いた。

 赤い目がギラギラと光ってる。

 それは、佐和のよく知ってるあの銀じゃなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ