五
昨日考えていたこととは裏腹に、学園襲撃はまだ誰にも知られていなかった。やはり、あの時学校関係者はいなかったと断定して問題ないということ。通報もないということは生徒以外の関係者だれもがこうなることを知っていたに違いない。故意に起こされたことになる。鉄臭い。血の匂いが充満している。異臭もする。内臓が腐敗していっている。中には、知った顔のクラスメイトが切り裂かれており複雑な気持ちになった。
悲しいとは思わなかった。前に家族が死んだときも、一切泣くことはなかった。子供ながらに死というものを理解していたのかもしれない。決定的なことは、私には感情が欠落していること。病気だといわれた。将来的に自閉症とか言う病気になってしまうとも言われた。しかし今は、そこまではなく会話は一通りできる。
「先生たちいないね。やっぱり、空木さんの言った通りだね」
ルカが職員室から出るなりそうぼやいた。先生がいない。その死体もない。それが絡んでいることが大いに考えられる。低学部から、高等部まで一貫校であるこの学校。此処には、選ばれたものしか入れない、と言われていた。そのせいか、全校生徒が百人、と少ない。それ故に先生らの数も少なく、十名もいない。
「静かに、誰かいる」
ルカが私たちを制す。足音は大きくなる。冷静に音のなるほうを見つめる。姿を現したのは、綺麗な琥珀色の髪、そして紅い眼の美少女。柊琥珀であった。
彼女とは小学校からの付き合いだ。たまにしか話すことはないが、私たち二人の間に壁はない。そういう存在だった。また陽和の幼馴染でもあって何度か遊んだ覚えもなくはない。
「久々に来てみれば、なんなのこれ」
「俺たちにもさっぱりだよ。言えるのは、消滅が始まったってことだけかな」
儚げに笑ったルカ。
琥珀は、そう、と意味ありげな顔をして俯いた。何か不穏な空気を悟っていたようだ。彼女は野生に近い感覚を持っている。彼女の能力にも関係が深いかもしれない。空気やその人の纏う雰囲気に敏感だ。以前に話を聞いた中では、亜人の中の獣人であるとも言っていた。
「今のままじゃ、どう考えたって勝ち目はないわね。けど、勝ち目のない戦いって燃えるわ。退屈だったのよ最近。まぁ、でも、それはいいとして、これからどうすんの?」
「さあ、私はどうでもいい。」
「俺は…」
間をあけて、私はハッキリそう言った。だって関係無いことだもの。ただ、偶然聞いてしまっただけ。偶然、陽和が拾ってしまったというだけ。
それだけ。その場の流れでこうなったわけで。この街が消えてしまおうが全く何も思わない。(思えないというのが正しい。)
マスターの店が無くなるのは嫌だけど。
ルカのように妹を止めるため、というわけでもない。そのルカも今や、悩んでいるようだ。だんだん、スケールが大きくなっているのだ。一人じゃもう、太刀打ちできないくらい大きい。いや、最初から大きかった。
「今日はもう帰りましょう。」
陽和が言った。
「じゃあ、何かするんだったら、呼んで。待ってるから」
「琥珀は、暴れたいだけでしょ」
陽和が的確に的を射る。琥珀は、バレたか、とそっぽを向いてそのまま帰ってしまった。私たちも程なくして、学校を跡にした。
ふと空を見上げた。秋も終わる十一月下旬。秋の空は高く限りないことがはっきりとわかる。空に向かって息を吐きだした。白くなった息はすぐ青い空に消えていく。マフラーに顔をうずめて家路を急いだ。




