小話
小話です。これから、本編、地下編に突入します。
「蛍、行くわよ。」
「あっ、ちょ、っと待ってください!」
「鈍臭いわねぇ」
そう言って琥珀はため息を一つ。その姿さえ絵になる美少女。そして、それを追いかける、蛍という少女も負けてはいない。淡いライトブルーの髪に、昼間の太陽のような眼の少女だ。そんな二人がいるのは、工場の廃墟。似つかないそこは、より少女らの容姿を引き立てる。
「何処へ、行くんですか」
「ガッコーよ、ガッコウ。まァ、今は跡形もないだろうけど」
「な、何か、あるって…ことですか?」
「アイツから連絡入ったの。私らを奴隷かなにかと勘違いしてるんじゃないの。ホント、呆れる!」
愚痴をこぼす琥珀に蛍は苦笑した。琥珀は少々性格がきつい。所謂、ツンデレというやつだ。デレは一割にも満たない。もうツンデレと言っていいのかすら疑問だ。けれど、一割にも満たない中、希に見るデレは最高に可愛い。いろんな人からのお墨付き。
「それにさぁ、アイツは違うとこで任務らしいし。腹立つ」
また始まった。こうなると止められない。一度彼のことに対して不満を持つと、琥珀は口が悪くなり、さらに毒舌のオンパレード。
だが、蛍は知っている。これを止める術を。
「こ、琥珀は、寂しいんですね。最近会えてませんからね。」
ふふっと彼女に微笑んだ蛍。見る見るうちに、顔が真っ赤になっていく。白い肌を染めていく。大きなタレ目はさらに大きく見開かれる。それでも、夕日見たく綺麗な琥珀の顔。
「な、なっ…なな、なによっ!蛍のくせに!そんなこと、コレっぽっちも思ってないわよ!」
このくだりがいつもの定番となっている。今は二人以外に人がいないため、琥珀は言い訳を繰り返す。また、彼の名前を言わないあたり、結構冷静なようだ。周りに人がいると、茶化されたり、余計な発言を防ぐためか黙り込む。またそれが、肯定の意を示すかのようで、なんとも可愛らしいのだ。
なんとか、琥珀の機嫌も直ったので再び歩き出す。少しだけ不貞腐れているけれど。苦笑するしかなかった。
「後で、覚悟してなさいよ。」
「お、お手柔らかに…お願い…します。」
さっきの廃墟から三十分。宇治の街に着いた。あそこより、ひどい荒れ模様。昼間なのに命の影もなく、静まり返っている。何も無い。『無』である。燃えたというより消滅といった方が正しい。焦げ臭い匂いもまだ微かにある。
目の前には、焼け残った焼却炉のようなものがあった。塞いであるものを取り除けば中は底なしの空洞。おかしい。この中には何かあると、確信めいたことを思った。
「ここ、ですか…」
「入るわよ。」
「その前に、この中に…は、入ったあと、何をすればいいんですか?」
「下調べ。この後、正午に警備隊が来るらしいのよ。それの為ね。千歳と雪乃…あと椿も。全部で十人、だから無駄に死傷者を出さないためよ」
「…」
椿、という名詞を聞いて蛍はギクリとした。琥珀には気付かれなかったようで、肩をなでおろす。
また、琥珀が、行くわよ、と蛍に言った。
そして、中へ入っていくのだった。




