森の奥
初投稿なので色々拙いです。
誤字脱字等あったら、ご指摘よろしくお願いします。
ところでコメントコーナーってあるんですか?(そこから)
この森には決して日は指さなかった__
四季というものを無視し、いつでも肌を刺すような冷たい風が吹き付け、鴉がやかましくカァカァと劈くような耳障りな声で唄っている。近隣に村はなく、当然、人の気配も無い。
いや、無い、というのは適切ではない。ここらの地帯は水気が多く、霧に覆われることが多い。そのため、遭難者、行方不明者が後を立たない。__当然、近隣に住もうなんて考える物はいないのだ。
そんな訳で、長いこと人の踏み入れなかった森は自然が自由奔放に生い茂り、草だけで子供ならすっぽり隠れてしまう程。
その森の奥には、大きな威風堂々とした立派な屋敷あった。その屋敷はここを納めていた貴族のもの。繊細な色を散りばめたステンドグラスに、豪奢なシャンデリア。ゆったりとくつろげるように大きな炎が揺らめく暖炉。その周りには趣味の良いアンティクチェアーなどが置いてあった。
__そう、「あった」のだ。
今や滅び、朽ち、荒廃し、錆び、埃に塗れたこの屋敷は、私にとって丁度良い、心地よい家。
そんなようやく見つけた、居心地の良い我が屋敷に、どうやら害虫が一匹紛れ込んだらしい____
***
もう! と、あたしは溜息と憤りを混ぜたものを吐き出した。
あたしの最高にハッピーな計画は、埃に塗れて潰れそうだった。このボロ屋敷と同じでね。
今にも壊れそうな埃まみれのソファに勢いよく腰掛けて、軽いトランクを放り出す。ごん、と音を立てるトランクに組んだ脚を乗っけて、あたしは2回目の溜息を吐く。
「あーあ、あたしの当初の計画はこんなんじゃなかったのになぁ」
そう、当初の計画は、本当の本当に、最高のはずだったの!
あたしをいじめる家族が嫌で、抜け出したくて。双子の姉妹のバービーとルーズなんか……ああ、思い出しただけで腹が立つ!
あたしが頑張って貯めたお金を盗んだりなんてしょっちゅう。ううん、それなんかまだいい方!伯父さんと叔母さんのお財布からお金を盗んで、あたしのせいにしたりして!しかも、あたしは違うっていうのに、叔母さんは私にお仕置きをするし。
あー、思い出すだけでも嫌になる!叔母さんはまだ、うん、我慢できるわ。
でも、バービーとルーズは、叔母さんに見えない所からあたしを煽るの!あっかんべーって、ゴブリンみたいな醜い顔をしてね。そうされると、あたしはもうカチン、ってきて、冷静でいれないのよ。
でも、まぁ、そこまでは、なんとかギリギリ、本当にギリギリ、まだ許せるわ。
閉じ込められたお仕置きの地下室で、私のお母さんの名前の乗った本を見つけたから。
その本は、伯父さん叔母さん達が持って居た本。きっと、お母さん達のお葬式の時にこっそり持ち出したんだわ。あたし知ってるもの。ああ見えて伯父さん達のお腹の中は真っ黒だって。
それで、その本には描いてあったの。綺麗なお屋敷と、そこの所有者である一族の名前。もちろん、あたしのお母さんの名前。お城の継承者はあたし達一族で、その末裔はあたし。つまり、この写真の素敵なお屋敷はあたしのもの!こんな庶民的なお家なんかへでもないぐらいに、綺麗な、豪華な、お屋敷。きっと屋敷には執事や給仕もいて、あたしの事をお姫様みたいに扱ってくれるんだわ!そしてあたしは一族を立て直すの!こんな家、見返してやるんだから!
__そう思って、数少ない荷物をまとめて、飛び出してきたのに……
「……幸せになれると思って、頑張ったのに」
ああ、もう。何言ってるの、あたし。
元気出しなさいよ。弱気になってちゃ、残ってる幸せも出で行っちゃうわよ。しっかりしなさい、メリス!
そう、思うのに、目頭がじんと熱くなっていく。だめ、泣いちゃだめなの。しっかりしてよ。
「……っ、う」
情けない嗚咽が溢れて、とうとうあたしの涙のダムは決壊してしまった。
泣き声が館に響く。嫌だ、本当にお化け屋敷みたいじゃない。
__あたし、これからどうすればいいの。迷子の子供みたいな、自分じゃどうしようもない、途方もない気分。どこに行けばいいのかすらわからない、その感覚が、虚無の感覚が怖くて、思わず膝をぎゅっと抱えた。
「大丈夫。大丈夫よ。……この家を、綺麗に掃除すれば良いんだわ」
涙声で自分に言い聞かせる。平気よ、きっと、ちゃんと、やれる。
うじうじするのは、幸せになってから。
そう言い聞かせて、きっと目の前の荒廃しきった部屋の隅を睨んだその時。