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アヴァロンの頼みごと


 驚愕そうには目を見開いていた二人の[ゾロマンティス軍]と思しき二人組。


その理由からすればこんな場所にドラゴンが現れるだなんて思ってもみなかったこともあるだろうし、またそのドラゴンの背に乗った僕らを見てしまったからでもあるだろうとは思う。


 驚愕する要素は幾らだって考えられる。だからこそ彼らが驚いているのも無理もない。僕はアヴァロンの背から降りると彼等の元へと歩み寄っていった。


 近くで見れば見る程に、僕の疑念は確信へと変わっていた。


「ああ、やはりか。アブゾーブに…君はマントだね?」


 そんな僕の言葉に、先に口を開いたのはマントだった。


「誰ですか、貴方は…」


「僕ですか?僕は#あれ__・__#に住んでた者です。あそこで王子やってました」


 僕は[ルスタチア城]を指差して言った。


「…はぁ?ルスタチアの王子が何故こんなとこに…って、問題はそれだけじゃねーが…」


 アブゾーブは理解不能といった様子では呟いて、アヴァロンを流し見た。やはり、アヴァロンの存在が気がかりで仕方ない様子だ。


「あれは、やっぱりドラゴン…しかも、白銀色だと?おいマント、やはりこのドラゴンはーー」


「まだ分かりませんよアブゾーブ様。そう決めつけるのはまだ早すぎる…」


「いえ、多分あなた達の予想は正しいと思いますよーー」

 

 ルーシェはアヴァロンの背から飛び降りては話に割って入った。


「白銀色のドラゴン…あなた方はそこに疑問を覚えているのでしょう?」


 ルーシェは不敵な笑み溢して言った。


「…貴女は?」


「私?私はそこの馬鹿王子に無理やり従わされている可哀想などこにでもいる普通の女の子よ」


「おいルーシェ、誰が馬鹿王子だ」


「え、私そんなこと言いましたっけ?ごめんなさいデイトナ様、以後#極力__・__#気を付けます」


「極力じゃなくて全力で気を付けろよ!」


「何よ、デイトナ様のくせに…アヴァロン、酷いと思わない?」


「………」


「アヴァロン、もうこいつ食っていいぞ?」


「はぁあ?アヴァロンがそんなことする訳ないでしょ!ね、アヴァロン?」


「………?」

 


………

……


 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 アブゾーブとマントの二人は、デイトナと呼ばれるルスタチアの王子と、自称従者である少女と、アヴァロンいう聞いたこともない呼称のドラゴンのやり取りを前にして、激しい疑問を抱いていた。


「おいおいマント、何だよこいつら」


「さぁ、私には分かりません。ただ…これが異常な光景だとは理解できます…」


 そう言ったマントのこめかみを一筋の冷や汗が流れる。マントは酷く動揺していた。


「違いねぇ…無茶苦茶過ぎるぜ奴ら」


 マント程ではないにしろ、アブゾーブもまた不審感を隠しきれないでいた。その証拠に、アブゾーブの手は自然と腰に吊り下げられた愛刀ーー#蛇刀__へびがたな__#へと伸びていた。


「何かよく分からんが奴らは話に夢中な様子だ…どうするマント、殺るか?」


 アブゾーブはいつでも蛇刀を抜ける体制へーー攻撃体制へと移った。


「待って下さい。まだ敵かどうかもわかっていません。それに…まだ気になることが山程あります」


 マントは口に手を当てて考え込み始めた。


「だったら尚更じゃねーか。奴らを無力化した後捕虜にでもして聞きだしゃいい。しかもあの餓鬼はルスタチア王子と言うじゃねーか…こりゃあ本部に良い手土産が出来たぜ」


 マントはアブゾーブの提案に「確かに…」とは賛成しかけて、「いや」とは意味深には呟いた。


「…それでも構いませんが…」


「何だよマント、まだ何かあんのか?」


「単純に考えてみて下さい。勝てると思いますか?#あれに__・__#」


 そう言ったマントの視線先には白銀のドラゴンは映る。


「…おいおい、ドラゴンなんていままで幾らでも狩ってきただろ?何を今更…しかもありゃあまだ子竜だ」


「もちろんそうなんですが…」


 とマント、やはり重たい口振りである。


「煮えきれないなお前も…ま、その慎重さがお前らしいっちゃお前らしくもあるがな、マントよ」


 アブゾーブはゲラゲラと笑った。それは別にマントを侮蔑したくて笑ったのではない。


アブゾーブはただ純粋に、「慎重さこそがマントの何よりも鋭い刃」ではあると思っているからこそーーやはりこんな理解不能な状況に於いても揺るぎないマントの姿勢が可笑しくて仕方なかったのだ。また同時に、マントに対する厚い信頼感が沸々と込み上げてきたのだ。


『やはりお前は俺の最高の部下だよマント。後にも先にも、お前を超える奴は絶対いねーだろうな……』


 この時のアブゾーブに、最早迷いはなかった。


「いいぜマント、俺はお前に従う。軍師様、どうするんだ?」


「軍師様などと…仮にも僕はあなたの部下ですよ?」


「はは、確かにその通りだな。ではマント、お前の上官として命令するーー俺を導け」


「………」


 マントは無言でアブゾーブに視線を向けた。そうして自身の敬愛するアブゾーブからの熱い眼差しを強く受け止め、マントの決意は固まっていった。


「了解しました、アブゾーブ様。では、こうしましょう…」


 マントは今後の対応についてを語り始めた…



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

「おや、デイトナ様。奴ら何か始めるみたいですよ?」


 と、ルーシェが#徐__おもむろ__#には呟いて、また「ほら」とはアブゾーブとマントの方へを#指示__ゆびしめ__#した。

 

 ルーシェの#指示__ゆびしめ__#す先で、確かに彼等は動き始めていた。


「成る程ね…どうやら奴ら、僕等と殺りあうと決めてらしい」


 視界先で、アブゾーブが腰の刀を抜いてはゆっくりと歩み寄ってきていた。


「…馬鹿ですね。まさか私達に勝てるとでも思っているでしょうか?」


「思っているんだろうね、きっと…」


 そう言ったのは真実、異様な形状をした刀を手にしたアブゾーブは、恍惚そうな笑みを浮かべ近づいて来ていた。その足取りに迷いはなく、むしろ今すぐ戦いたくてウズウズしているのかだろうことが伺えた。アブゾーブの足取りは心持ち軽快そうに見える。


そういえばそうだったなとは1人思っていた。というのもアブゾーブとは根っからの戦闘狂とは知れた狂人として有名だ。血肉を求め続ける奴とは確かこう呼ばれていたのだっけなーー死神アブゾーブと。


 またその後ろにマントは続く。マントもまた剣を片手に構えては神妙な面持ちを見せつけていた。アブゾーブ同様、その足取りに迷いはない。

 

以上を踏まえて、どうやら彼等は本気で僕等と#殺__や__#り合うつもりでいるらしい。


「どうします、デイトナ様?」


「どうするも何もない。彼等がどういった行動を取ろうが、僕等のやる事に変わりはないわけだからね…ふふ」


「…つまり始末すると、そういうことですね?」


「もちろんだ。その為にわざわざここに来たのだからね…だけど…」


 ただ先の例によって、ルーシェに意見を参考にするべきだろうと思い、


「時にルーシェ、君はどうするべきだと思う?このまま奴等を始末する事が最善策か否か…それを聞きたい」


 そう言った僕に対し、ルーシェは私に聞くなと言わんばかりの態度では手をヒラヒラと揺らせた。


「たまには自分で考えてはみてはいかがですか?仮にもデイトナ様は世界征服を企んでいるわけですし」


 と呆れた口振りである。もちろんルーシェの言っている事は正しい。


これから世界を混沌の渦に巻き込むつもりでいる僕が、部下に指示を仰ぐようでは先が思いやれると、ルーシェはそう言いたいのだろう。


 ただ今の僕に正常な考えなどが働かないのもまた確かだった。何故なら祖国[ルスタチア王国]に災いを齎した奴等を目の前にして、冷静かつ的確な判断をする思考がまるで巡ってこないのだから。


今すぐにでと惨たらしくは殺してやりたいという欲望が、僕の判断を鈍らせていた。


「頼むルーシェ…仮にもお前は天地を統べた竜王の末裔であろうが、何か妙案はないのか?」


「何ですかその#仮にも__・__#って言い方は…無礼にも程があるでしょうに」


「じゃあ、何と頼めばいい?」


「そうですね…では、『お願いします偉大なる竜王の末裔ルーシェ・ルクミール様ぁッ!!どうかこの世間知らずの馬鹿王子デイトナの為に一肌脱いではいただけないでしょうかッ!?』と、涙と鼻水をダラダラ流しながら土下座を交えてお願いするのであればーー」


「断固拒否する」


「では協力しかねます」


 ルーシェは素っ気なく返した。何と言うことか。


「まさか部下からこのような屈辱を受ける日が来ようとは…」

 

 僕はアヴァロンに縋り付いた。


「アヴァロン…僕の味方はどうやらお前だけのようだ…僕は悲しいよ…」


「……ワタシハ、ソレガ嬉シイケド…」


「うんうん、やはりお前は可愛いなアヴァロン…それに比べてルーシェは…」


「な、何ですかその目は!?まるで私が悪者みたいじゃないですか!?ち、ちち違うんですよアヴァロン!悪いのはそこの馬鹿王子で私は全くーー」


 ルーシェがムキなって言いかけた、その時だった。


「……オネガイ、ルーシェ。デイトナノ…チカラニナッテアゲテ…」


「あ、アヴァロン、お前…」


 率直に言って、驚いていた。まさかアヴァロンがあんなにも嫌がっていたルーシェへと喋りかけ、誠意な態度では頼み掛けていたからである。


しかも人間の真似事のようには頭を下げて、そんなアヴァロンの姿を見るのは始めてだった。


 驚いていたのは僕だけじゃない。ルーシェもまた口をあんぐりと開いては驚愕な表情を見せつけていた。その驚愕っぷりは尋常じゃない様子。


 次の刹那、ルーシェは目尻からポロポロと涙を零し始めた。


「あ、アヴァロンが…私には始めて話しかけてくれたぁあ…」


 どうやら感激しているらしい。


 だろうな、何故ならルーシェはずっとアヴァロンにシカトされていたわけだし、それでいてアヴァロンのことをまるで妹か娘のようには可愛がっていたわけだから、それはそれは嬉しかったに違いない。


「アヴァロンッ!!頭を上げて頂戴!!あなたの頼みであれば例えこの馬鹿王子の為だろうと構いません!!このルーシェ・ルクミール、全力を持って協力致します!!」


「その馬鹿王子ってのは気に食わないが…まぁいいよ、ルーシェ、奴等の処遇についてはお前に任せていいんだね?」


 ルーシェは嬉しそうな顔を向けては、


「了解しましたデイトナ様。奴等の始末は全て私に決定権を委ねると…そういう判断とみてよろしいのですか?」


 そう言って、ニヒルな笑みを浮かべていた。


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