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暁月記学園

「ちょっ……。ちょっと待ってー!」



 空汰は閉まる門すれすれを通り抜けた。


「初日から遅刻するところだった……」


 空汰はため息を吐き、顔を上げた。そこには、趣きのある大きな建物が建ち並んでいた。


 暁月記学園。所謂貴族が通う学園である。


 もちろん、貴族以外にも通っていいのだが、高額なお金を要求されるため、貴族以外はなかなか通うことの出来ない学園である。


 空汰は気を引き締め、制服を整えると、一歩ずつ進んだ。


 空汰は翡翠に教えてもらい、暁月記学園に居る間だけは姿を変えることにした。しかし、術をかけるのもかけられるのも自分自身初めてで、きちんとした姿になっているのかが少し気になっていた。


 空汰はそんなことを考えながら、どんどん歩き奥に入って行った。


「ちょっと、君!」


 空汰は立ち止まり振り返った。するとそこには驚いた表情をしている学生が立っていた。


「どうした?」


「その先は入っちゃいけないんだよ」


「え?」


 空汰はどこに行っていいのかも分からずただただ歩いていた。建物と建物の間、奥に噴水が少しだけ見えるこの場所は、どうやら、立ち入り禁止らしく壁に『生徒会以外立入禁止』の文字があった。


「あ、ごめん」


「びっくりしたよー。急にどんどん入っていこうとするんだもん」


「生徒会以外入れないの?」


「もちろん。ここ以外にも生徒会しか立ち入れないところもあるから、気を付けてよ」


「分かった。ありがとう」


「君何年生? 初めて見る顔だね」


「あ、えっと……。俺は、四年生に編入するんだ」


「へぇ。今日から?」


「あ、うん」


「じゃあ、同じクラスだといいね」


「君も四年生?」


「うん! 四年Sクラス! ディリーっていうんだ。よろしく」


「俺はスカイ。こちらこそ、よろしく。分からない事ばかりだから、教えてくれないか?」


「同じクラスだったら教えてあげるよ。僕これでも忙しい身なんだ」


「学園長室はどこ?」


「学園長室? 東館の最上階だよ」


 ディリーは懐中時計を確認すると、慌てるように足踏みを始めた。


「ご、ごめん! 僕はここで失礼するよ! やらなきゃいけないことがあるんだ」


「わざわざありがとう」


「うん。じゃあねー」


 ディリーが走り去るのを見て、空汰は東館に向けて歩き始めた。


――――それにしても、広い学校だ……


          ❦


 数日前……。


 空汰は柊に貰ったファイルを仕方なく開き文を読み始めた。


 長々と書いているが、簡単にまとめると、学生として暁月記学園に行き、動向を探れということだろう。こんなに歴史を語られても俺には関係のない事だ。


 空汰は読み終わり、ケンジのもとに行った。


「失礼します」


「何です!? 妖長者様から来るとは、珍しい」


「暁月記学園のことについて、聞きたい」


「暁月記学園? あぁ、妖長者様の次のご公務ですかな」


「はい」


「暁月記学園に編入していただき、そのあとは基本、自由に学園生活を送っていいです。ただし、その中で教師の仕事ぶり、生徒の動き、学園に関することを報告書として提出。それだけ」


「期間は?」


「一ヶ月」


「意外と長い……」


「その間に、妖長者様に一つだけやってもらわないといけないことがあるのですが……。まぁ、貴方様には無理かもしれませんねぇ」


「……何です?」


「暁月記学園には生徒会が存在する。学園長よりも執行の能力の高い集団と言われているそうで。そこに入って頂きたい」


「編入早々入れるとは思えない」


「行ってみれば分かること」


「はい?」


「あとは妖長者様次第」


「……わかった」


 空汰は諦め、ケンジの部屋を後にした。


          ❦


 スカイって……。自分で適当に考えた名前とはいえ、センスのなさに笑いも出ない。


 コンッコンッ


 空汰は学園長室の扉をノックした。中から声が聞こえ、扉を開け入った。


「失礼します」


 学園長は空汰の姿を見て、慌ててスッと立ち上がった。


「初めまして、スカイ。ささ、座りなさい」


 空汰は一礼してソファに腰かけた。


「このたびは暁月記学園に編入おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「可愛らしい子ですね。どんな子が来るのかと楽しみにしておりました」


「可愛くはないですけど……」


「学園につきましては、資料を見てくださいね」


「はい」


「もう少しでHRが始まります」


学園長はそう言いながら懐から手帳を取り出し、テーブルの上に置いた。空汰は手帳を手に取り開く。


(名:スカイ 爵位:伯爵 学年:四年 クラス:S)


――――Sクラス……。ディリーと同じだ


「四年Sクラスに所属していただきます」


「分かりました」


「担任は、カケイラという者です。教室にいるので、後で一緒に行きましょうね」


「ありがとうございます」


「それから、スカイ」


「はい?」


「ここは生徒会以外入れない場所もたくさんあるので、気を付けてくださいね」


「生徒会?」


「私よりも権限を持つ生徒会です。生徒会長を中心に様々なことをしていますよ」


「そうなのですか……。人数は?」


「何人だと思いますか?」


「え?」


 まさか質問に質問で返ってくるとは思わなかった。


「でも大体、十人以上はいますよね?」


「暁月記学園の生徒会は生徒会長合わせて、四人です」


          ❦


「本日より、このクラスで皆さんと一緒に過ごす新しい生徒です」


「スカイと言います。分からないことだらけですが、よろしくお願いします」


 カケイラは教室の廊下側から二列目の一番後ろの席を指さした。


「スカイの席はあそこね」


 スカイは頷くと、席に着いた。周りの生徒がチラチラとこちらを見ている。


 ディリーとは席が離れていたが、こちらを見てニッコリとしている。改めてみると、ディリーはこの四年生の中で一番背が低く、弱弱しかった。明るめの茶髪が妙に似合う。


 授業と授業の間の休憩時間。暁月記学園の生徒が空汰の周りに集まっていた。


「なぁなぁ、お前どこ出身!?」


「もうすぐ妖町祭りが今度あるんだぜ!」


「こんな時期に編入生って珍しいな!」


「お前、人間喰ったことあるか!?」


 空汰は多種多様な質問攻めに、苦笑を浮かべていた。


――――久々の学校生活……。少し楽しみにしてきたけれど、凄いな


「人間が人間を喰うわけないだろ!? お前人間なんだろ?」


 空汰は小さくうなずいた。


「すげぇ~!」


「ここにはほかにも人間がいると聞いたのですが……」


「いるよ! しかもちょうど同じ学年だぜ?」


「同じ学年……」


「一人はな」


「何人いるのですか?」


「全員でお前合わせて三人だったと思うぞ?」


――――三人か……


「会いたいです」


「じゃあスカイ、Aクラス行こうぜ! あ、俺の名前はサシ。よろしくな」


 そういってクラスメイトの妖たちは、空汰の腕を掴むと隣のAクラスに走って行った。


 AクラスもSクラスと同じくらいざわざわとしていた。


 空汰の腕を引いた妖は、人間を見つけると、空汰をまた引っ張った。


「おい、アンジュ」


 アンジュと呼ばれた女の子は、本を読んでいたが、静かに視線を上げた。


「何?」


「アンジュ、新しい人間だ」


 アンジュは聞くなり、空汰の全身を見た。やがて、興味がないといったようにまた、本を読み始めた。


「名前は?」


「……スカイって言います」


「そう。妖たちに喰われないように気をつけなさい」


「は、はい!」


 空汰と妖たちは、自分の教室に戻った。


 学園生活の始まりだ。


          ❦


 翡翠は、自分の屋敷に不用意に近づけないため、森の木の上にいた。


 空汰はこれから、朝と夜にしか屋敷にいない。空汰が公務をするときは、夜にしか手伝うことは出来ない。


 監視の目がここまで広がると、恐ろしいものだ。


 こうやってずっと座っているだけでも一日はもちろん過ぎて行くが、何かするのとしないのとでは、結果は違う。


 翡翠は笑みを浮かべた。


「よし」


 そして、木から木へ移りながら、ツェペシ家へ再び向かった。


          ❦


 暁月記学園、昼食時間。


「P班? 何それ」


「学園長から聞かなかったのか?」


「聞いたことと言えば、生徒会の話くらいです」


「それだよ」


「え?」


「P班はただ班別に分けたときにそう呼ばれるだけだ」


「班別?」


「この暁月記学園は、クラスのほかに五班に分かれている。B班、A班、N班、C班、P班だ。ちなみに俺はA班だ!」


「よくわからない」


「B=Bright 秀才の集まりだ。所謂がり勉野郎だな。


A=Ability 能力に長けている集まりだ。妖力が強くて、妖術を自由自在に操れる者たちだ。


N=Noble 高貴な者たちの集まりだ。この学園は確かに貴族ばかりだけど、その中でも上の者たちだな。


C=Creation 創造力のある集まりだ。簡単にいうと芸術性や発明とかだが、奇妙な奴が多いから気を付けろ。


P=Perfect 完璧な者たちの集まりで、生徒会だ。全員で四人しかいない。しかも! 生徒会メンバー全員を知っているのは、学園長と生徒会メンバーだけ!」


「サシは知らないのですか?」


「俺は知らないな」


「生徒会メンバーと学園長以外は、生徒会自体をあまり知らないからな」


「不思議ですね」


「お前ももう少ししたら、班が決まるはずだ」


「どこになるでしょう?」


「さあな」


「決定権は学園長ですか?」


「いや、生徒会」


「え!?」


「学園長より生徒会の方が上だって聞かなかったのか?」


「そういえばそんなことも言っていました」


「ま、生徒会長には気を付けた方がいいぜ」


「生徒会長?」


「誰も、誰が生徒会長なのかを知らない。もちろん、生徒会メンバーと学園長は知っているが、生徒会長は相当怖いらしいぞ」


「怖い?」


「俺もよく知らないんだ。ただ、ここだけの話……」


 サシは空汰に近づき小声で言った。


「生徒会にどうしても入りたかった妖が昔いた。その妖は、生徒会のみが入れる場所に入ったそうだ。その数日後から、誰もその妖の姿を見ていない。何故だと思う?」


「……辞めさせられた?」


「その通り。しかも、噂だけど生徒会長が辞めさせたらしい」


「……真実なら、だいぶ怖いですね」


「だろ? だから気を付けろよ」


 そこにディリーが飲み物片手にやってきた。


「やっほー。元気にしてる?」


「あ、ディリー」


「覚えてくれていたんだ。嬉しい」


 仲良さそうな二人を見たサシは不思議そうに笑みを浮かべていた。


「仲良いんだな。知り合いか?」


「いえ、登校した時に会ったんです」


「へぇ……」


「サシも仲良くなったんだね!」


「お前のその相変わらずさ」


「えー、別にいいじゃん」


 空汰は、サシとディリーの談笑に耳を傾けていた。


「そういえば、ディリーはどこの班ですか?」


「僕? 僕はN班だよ」


「Nっていうことは、高貴なのですか?」


 サシは呆れ笑みを浮かべ、ディリーを親指で指した。


「こいつ、伯爵だぜ。見えねぇだろ?」


 空汰は驚き、笑みを浮かべた。


「伯爵なのですか!?」


「うん! よろしく! 君は?」


「俺はまだ、班が決まっていません」


「違う違う。そんなことくらい知っているよ。爵位だよ、爵位」


「あ、伯爵です」


 サシは驚いた。


「お前もか」


「は、はい……」


「なら、お前もN班かもな」


「お、俺はそんなに高貴な人じゃないですし……」


「決めるのは生徒会だ。でも、大体伯爵家は皆、N班だ」


「そうなのですか……」


 ディリーは満面の笑みを浮かべていた。


「じゃあ、班も僕と一緒になるかもね! よろしく!」


「ありがとうございます、そうなると良いですね」


「あ、そうだ。ちなみに、サシは男爵だよ!」


「おまっ! 言わなくていいんだよ!」


「隠さなくてもいいのに~」


「普通隠すだろうが! お前ら二人伯爵で俺だけ、男爵ですとか言えるかよ!」


「まぁまぁ、サシは照れ屋なんだから~」


「うるせぇよ!」


 笑い合う二人を見ていた空汰の表情には、緊張がほぐれた笑みを浮かべていた。


          ❦


 それにしても、守護者が少ない。


――――ということは、主はお出かけ中か……


 いいタイミングに潜入できた。当主がいなければ、かなり屋敷の守護は手薄になる。


 翡翠は最上階よりもひとつ下の階に来ていた。壁に隠れあたりを確認する。守護者は、大きな扉の前に二人。それだけのようだ。


「二人だけとは……。爵位によらず、貧乏だな」


翡翠は嘲笑すると、守護者の姿に変わった。


――――よし、ばっちり


 翡翠は堂々と角を曲がり、大きな扉の前にやってきた。扉の前に立つ守護者が不思議そうにこちらを見ていた。


「何用だ?」


「ダイ様に書類を取ってきてほしいと頼まれた」


「そうか。お前も大変だな」


「え?」


「え? ってお前、この屋敷に仕えていて良いのか?」


「いや」


「だよな~。俺も早く辞めてぇもん」


「そんなことを言っていたら、殺されるぞ」


「だよな~」


 翡翠は不思議に思いながらも、扉を開けて中に入った。


――――つくづくバカな奴らだ


 部屋に入ると、豪華な装飾や家具が並んでいた。天井にはシャンデリアがある。


「見栄っ張りなだけだな」


 本棚に近づき、順番に見ていったが、特に何もなかった。


 机の上からたまった書類を手に取る。一枚一枚、どんどん見ていく。


――――何かないか……


 翡翠は立っているのに疲れ、椅子に座った。ふと視線を足元に向けると、紙が落ちていた。翡翠は手に持っていた書類を適当に置き、紙を拾い上げると捲った。何も書いていない、真っ白な紙だった。


――――いや……違うな……


 ただの真っ白な紙ではない。


 翡翠は紙をじっと見つめていた。もちろん紙を見つめても、文字が浮かび上がってくるわけでもない。


 翡翠は静かにじっと考えを巡らせていた。


 あれを試すか? しかし、これを書いたのが、ダイならば何の問題もない。しかし、長老が書いたとすれば、大変なことに成りかねない。


 無造作に置いている感じからして、長老が書いたものではないだろう。多分。


 翡翠は引き出しを順番に開けていき、真っ白な紙を見つけた。今度は本当に真っ白いただの紙だ。翡翠は羽ペンを手に取り、紙に呪文を書いていった。


 書き終わると、真っ白な紙を手に取り、それを呪文を書いた紙に乗せ、静かに息をかけた。すると、紙は舞い上がり一瞬だけ文字が浮かび上がった。


 翡翠はその一瞬を見逃さなかった。


――――『ダイ伯爵に通達致します。夜会の夜、妖長者付式の珀巳を利用し翡翠裕也を捕らえよ』


 翡翠はふっと笑みを浮かべた。


――――ばからしい


 翡翠は立ち上がり、舞い落ちた紙を落ちていた場所に戻し、呪文を書いた紙は手の中で燃やした。


 そして、守護者たちの間を通り、ツェペシ家を後にした。


「あれだけで、十分だ」


 ツェペシ家は……裏切り者に脅されている。


          ❦


 コンッコンッ


「どうぞ」


 編入してから数日後、空汰は学園長室に呼び出された。


「失礼します、学園長、お呼びでしょうか?」


「はい。そこに座ってください」


 空汰は言われた通り、ソファに腰かけた。


「学園生活はどうですかな?」


「おかげさまで楽しいです」


「ご友人は出来ましたかな?」


「はい。サシという妖と」


「あの子は確かにフレンドリーですからね」


「そうですね」


 学園長は、机から一通の封筒を手に取り、ソファに座ると空汰の目の前に置いた。


「では、スカイの所属班が決まりましたので、報告致します」


 空汰は、封筒を手に取り、封蝋を折り開けた。


 そこには、空汰の班が書かれていた。


          ❦


 その日の夜、空汰は公務をしていた。翡翠のように早くはないが、大体自分だけで出来るようになっていた。


「よ!」


 空汰は呆れていたが、何故か笑みを浮かべていた。


「久しぶりだな」


「そうだな。元気か?」


「一応」


「暁月記学園は楽しいか?」


「まぁまぁかな。仕事とは思えないほど楽しんでいるけれど、良いのかな」


「後で怒られても知らねぇぞ」


「はいはい」


「それで?」


「え?」


「珀巳、戻ってきたんだろ?」


「あぁ……休暇からなら戻ってきているよ」


「何か聞いたのか?」


「まぁ……少しは」


 コンッコンッ


『はい』


『珀巳です』


『……どうぞ』


『失礼します』


 珀巳は部屋に入るなり、深々と頭を下げた。


『申し訳ございません』


『え?』


『すべてをお話ししようと思います……』


『すべてを……』


『今時間いいですか?』


――――俺じゃなくて、翡翠が聞いた方が……


『悪いけど、後日にしてくれる? 次の公務の事で頭がいっぱいなんだ』


『あ……分かりました』


『良いときは、こちらから呼ぶ』


『分かりました。失礼します』


「っていう感じで」


「ほとんど全く聞いてねぇじゃねぇか」


「だって、俺が聞いてもわからない」


「まぁ、確かにそうだけど……」


「なぁ、翡翠」


「何?」


「お前、暁月記学園の生徒だったんだな」


 翡翠は一瞬固まったが、ため息交じりに空汰を見た。


「そうだったよ。十年のところを、二年しか行ってないけどな」


「で、しかも、生徒会だったとか」


「……お前まさか……」


 空汰は不敵な笑みを浮かべた。


『では、スカイの所属班が決まりましたので、報告致します』


 空汰は中を開け、紙を見た。


『「スカイ、確定班・P班。仮班・N班とす」……え?』


『おめでとうございます。五人目の生徒会メンバーです』


『俺が!?』


『はい』


『何故?』


『生徒会メンバーが決めたことです』


『……私等の生徒会は有名なんですよ』


『そうなのですか……』


『かの有名な妖長者様も生徒会でしたので』


『え!? 翡翠様もこちらで!?』


『えぇ。それはそれは大変な方でした』


『どういう?』


『良い意味で優秀な方で、悪い意味で授業に出ない方でした』


「お前、俺の下らない過去を探るな!」


「おしゃべりな学園長だね」


「うるせぇ! 授業は退屈だったんだ!」


「このころから逃げ出すことが多かったんだ」


「良いだろ、別に」


 空汰は、交換ノートを取り出し翡翠に渡した。


「書いておいた。隠す前にお前が来たから、渡しておく」


「あぁ」


「それから、翡翠」


「ん?」


「俺に、隠していることは無いか?」


          ❦


「班が決まったんだってな!」


「あ、はい」


「何になったんだ!?」


「えっと……N班です」


「やっぱりな!」


 サシはそういうと、席に座り本を読むディリーを呼んだ。ディリーはこちらを見てにっこりほほ笑むと近づいてきた。


「どうしたの~?」


「ディリー、こいつ班決まったんだぜ」


 ディリーは何か言いたげに笑みを浮かべた。


「そうなのですか! どこになりました?」


「……え、N班になりました……」


「一緒ですね! これからももっともっと、よろしくお願いしますね!」


「お前ら本当に仲良くなれそうだな」


「何言っているのですか、サシ。もう仲良しですよ!」


「お前らしい」


 笑い合う二人を見ていた空汰は、ただただ苦笑を浮かべることしかできなかった。


 そんな空汰を見たディリーはニッコリと笑みを浮かべると、空汰に手を差し出した。


「よろしく!」


 空汰はその手を静かに見据えていた。


――――まさか、こいつだったとは……


『生徒会メンバーに会わせてあげますね』


『生徒会メンバーに?』


『学園長室の奥にある扉の奥が、生徒会室なのですよ』


『そうだったのですか……』


『もちろん、生徒会のメンバーと私以外は場所を知らないけれど』


 そういって立ち上がった学園長の後ろについていくと、学園長はカーテンをめくった。そこには、確かに扉があった。学園長は扉をノックして、扉を開けた。


『生徒会の皆さん、新しいメンバーがやってきましたよ』


 空汰が部屋に入ると、驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。


『この四人が生徒会メンバーです。じゃあ、あとは生徒会の皆で頑張ってください』

そういうと学園長は部屋から出て行った。


 赤髪の男、クリーム髪の女、黒髪の男、そして茶髪の男がいた。


『……で、ディリー?』


『やぁ! スカイ。生徒会、P班にようこそ!』


『ディリー、生徒会だったの? だって……N班って……』


『スカイだって、N班だよ?』


『え?』


 空汰は慌てて貰った紙をもう一度見る。確かにそこには、仮班・N班と書いていた。


『それは見せかけの班。班別の授業とかではそこの授業に参加するんだよ』


『見せかけ……』


『おっと、そうだね。皆の紹介をしようよ!』


 ディリーはそういって、赤髪の男に視線を向けた。赤髪の男は視線を感じたのか面倒くさそうに姿勢を正した。


『マランツ。A班』


 続いて、クリーム髪の女は本を閉じ空汰を見た。


『ローリーです、普段はB班です。よろしくお願いします』


 次に、黒髪の男は、空汰を一瞬だけ見るとすぐに視線を逸らした。


『ナッツです……。その……僕は、C班です。よ、よろしく』


『そして、僕はディリー。N班だよ! よろしくね!』


『よろしくお願いします。俺は、N班のスカイと言います』


『よろしく、スカイ!』


 ディリーは裏でもこんなに明るい性格らしい。


『あ、ちなみに……』


 ディリーはそういうと、顔色を変え冷笑を浮かべた。いつもの笑顔とは真逆で、恐怖を感じた。


『僕が生徒会長だから……』


          ❦


 珀巳は部屋で静かに本を読んでいた。


「まだ言っていないのか?」


 珀巳が顔をあげると、そこには後で食べようと置いていたクッキーを食べている澪ことゼロがいた。


「ゼロ」


「澪と呼べ」


「澪。何故こんなところに?」


「居たら悪いのか?」


「どうやって、この屋敷に入ったのですか?」


「……回廊から」


「花と小川のある?」


「そう」


「あそこに行くと、翡翠様に会ってしまいます」


「何故?」


「翡翠様はたまにあそこに顔を出されるのです」


――――ったく……。あそこには近づくなと言ったのに……


「澪」


「何?」


「やはり、正直に言うべきでしょうか」


「俺に話せたことを、どうして主に言えない? 言ってみればいい」


「しかし……」


「臆するな」


「……はい」


 去ろうとする澪に珀巳は、呼び止めた。


「澪」


「何だ」


「君の本当の姿はどれですか?」


「は?」


「私と会ったときの大人の姿? 翡翠様に忠告しに行った子供の姿?」


「……馬鹿か?」


「え?」


「どちらも、俺は俺だ」


          ❦


「ふざけているのか?」


「え……」


 ケンジに呼び出されていた空汰は、何故か怒られていた。


「ふざけているのか?」


「何を?」


「全く、翡翠様は……。今回の公務について! 何か不自然では?」


「不自然? 生徒会に入ったことが?」


「違います。そんなことはどうだったっていい。寧ろ、それは褒めるべきところ。しかし、翡翠様。少し、学生の方々と仲良くしすぎではありませんか!?」


「それは……」


「日課を確認しても、一切の報告は無い」


「報告はしている」


「違う。これは、日記だ」


「そんなつもりは!」


「つもりだけで、公務をされても困る。翡翠様、本当に公務をする気がありますか!?」


「ある」


「とても私にはそうは見えませんな」


「少しずつだが、学園生活について学生にも聞けているし、学園長とも仲良くやれている」


「すべてを仲良くすればいいという問題ではありませんよ」


「少しくらいは仲良くしなくては、公務だって進みません!」


「その度が過ぎていると言っているのです!」


「俺は俺なりにやっているのだ!」


「妖長者の自分の立場を危うくしてどうしたいのかな!?」


「……え!?」


「妖長者であることがバレれば、生徒会長に殺されますぞ?」


「は? ディリーはそんなことはしません! 現に、この前真相を聞いたのです」


「ほぉ~。昔姿を消した妖の事ですかな?」


「噂では退学させられたとか、殺されたということになっているが、そんなことはなかった! その妖は自ら辞め、違う学園に行ったらしいじゃないか」


「それは生徒会長が言った言葉か?」


「そうだ」


「ならば、嘘だ」


「嘘ではない!」


「その妖を私は知っているが、その妖は確かに存在した。しかし、姿を消したあの日に戸籍もすべて消えていた」


「戸籍も?」


「ディリーという生徒会長はかなり権力もある。それを利用して存在ごと消したに過ぎない!」


「そんなことはない!」


「目を覚まさぬか!」


「……目を……覚ますのはどちらですか……」


「今回の公務の最終目標を教えてあげましょう。……生徒会長の追放です」


「は!? どういうことですか!?」


「その生徒会長は入学してから変わっていないらしい。そして、彼は現在何年だ?」


「……四年」


「それも嘘だ」

「意味が分からない」


「彼は、十年周期をずっと繰り返している。卒業しては入学している」


「その情報はどこから?」


「極秘事項です。翡翠様にはその確信を探してもらいたい」


「俺には、ディリーがそんな妖だとは思えない」


「思えないのなら最後まで信じると良いですよ。裏切られますからね」


「……それはケンジ、貴方では?」


「……私がですか。面白いですね」


「監視の目を解いてください」


 ケンジは一瞬驚いたが、落ち着きを取り戻し空汰をじっと見据えた。


「知っていたのかな」


「あぁ。分からないとでも思ったか?」


「ばれればとるともりだったので、取るしかないですね」


「早く」


「ちなみに、つけたのは私ではない」


「誰?」


「オーガイですよ。私ではない。オーガイに取るように言って置く」


「絶対だ。……それから、ディリーのことを悪く言うなら許さない」


 ケンジはため息をつき首を振った。


「もう知りません」


          ❦


 数日後、確かに監視の目が取れたことを確認した空汰は、ほっと胸を撫で下ろした。


 これで少しは自由に動けるようになった。


「やっと、自由だな」


「お前も神出鬼没に来られるな」


「喜べ!」


「絶対ぇ、やだね」


「素直になれよ」


「うるせーよ」


 翡翠は懐から交換ノートを取り出した。


「口で言えば分かる」


(翡翠へ


 また書いてしまった。


 珀巳の事はすべて読ませてもらった。お前、怖いな。


 お前はこれから珀巳をどうするつもりだ? 式を解くのか? 俺はお前が分からないよ)


「口で聞ききらないんだ」


「餓鬼」


「とかいって、お前だってちゃんと返事書いているんだろ?」


「当たり前だろ」


「ツンデレめ」


「お前に言われたくねぇよ。餓鬼!」


「さっさと帰れよ!」


「折角、学園に入って、生徒会に入ったお前に、良い知らせを持ってきてやったのに」


「何だ?」


 翡翠は空汰に背を向け、顔だけ振り返りニヤリと笑みを浮かべた。


「帰れって言われたからな」


「クソガキ!」


「餓鬼にクソ餓鬼と言われたくねぇよ」


「いいから、教えろ!」


「お前、N班と言ったな?」


「あぁ」


「じゃあ、あまり必要ないかもしれないが、生徒会なら持っていた方がいいだろうと思ってな」


「持っている?」


「お前は妖力を持っている」


「あぁ。それで?」


「監視の目を取ったお前に、俺から素敵なプレゼントを贈ろう」


「素敵なプレゼント?」


「俺が直々に妖術を教えてやる」


          ❦


「今日はスカイ休みなんだ」


「お前、スカイ大好きだな」


「サシは好きじゃないの?」


「友達としては大好きだ!」


「だよね~。でも僕、あの子、何か不思議だと思うんだ~」


「不思議?」


「うん。何か……」


――――隠していると思うんだよ


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