第6話
「ハハハ、君は随分いい性格をしているようだ」
本日の授業が終わり、王子様がオレに話しかけてくる。ハハハって言いながら歯をキラッとさせる。なんかイラッとくんなあ。
「ティアがあれほど感情豊富な顔をするとは初めて知ったよ」
そうなのだ、あれからも何かとつっかかって来るんでついついからかい過ぎてしまった。
「怖いもの知らずにしても程があるよ」
「よくもまあ、あの令嬢をあそこまで怒らせといて首がつながってるもんだ」
これまた攻略対象の2人がオレに話しかけてくる。一人は魔術の天才、もう一人は剣の天才って設定だったか。天災多いなこの学院。おっと字が。
「そういえば、王子はティア嬢が苦手なんでなかったでしたっけ? 今日は随分にこやかにお話されてましたけど」
「ん?なぜそう思ったんだい?」
「そういや王子は今まで、ティア嬢が近寄れば避けてたじゃねえか?」
オレもその理由は知りたいな。これからまたこじれるにしたって理由が分かっていれば対処の仕方もあるかもしれないし。
「ああ、私が避けてたのはティアじゃないよ。ティアが抱いてた猫なんだよ」
な、なんだってぇえ! オレがいったい何したよ?
「実は私は猫アレルギーでね。猫の毛を吸うとくしゃみが止まらないのだよ」
「今明かされる衝撃の事実!?」
つーことはあれか、オレの存在自体がティア嬢と王子様との間をこじらせてたのか。なんたる悲劇。
あれ?ってことは、今は障害がないと、これゲームのストーリーどうなんだ?
「王子はティア嬢のことはどう思ってらっしゃるので?」
ここはちゃんと確認しとかないとな。
「こないだまでは距離を置いていたので良く知らなかったが、今日のティアを見るかぎり、随分好感のもてる子だと思ったよ」
「ほう、それは良かったじゃねえか。一応王妃候補の一人なんだろ?」
王妃候補? そういつぁ初耳だな。つーかいっぱいいるのか候補? やっぱ爆ぜろ。
「ハハハ、そう言うのはもっと先だね。まずは学院を精一杯楽しまないとね」
何?候補以外でも学院で、ぱふぱふしまくる気かね?
「魔法の授業はいつから始まるのかねえ。早く爆裂魔法を覚えないと」
「君は魔法が使えるのかい?」
「えっ?魔法の授業って魔法の使い方を教えてくれるのじゃないので?」
「いやまあ、そうなんだけど……そんな一から始まる訳じゃないしね。それに言いずらいんだけど、君はあくまで従者、授業を見ることはできても参加することは……」
「王子様、オレ魔法使いたいです。なんとかなりませんか!?」
王子様は苦笑いを浮かべる。
「君はあれだねえ、ほんといい性格してるよ。そこはネイリスに頼み込めばどうかな? 彼女が師範に一から教えてくださいって言えば一緒に見ることができるよ」
「なるほど」
「まあ彼女が魔法の授業を受ければの話だけどね」
ん? 魔法の授業を受けないってこともあるの?
「実技の授業は選択式だよ。魔法か剣かどちらかになる。まあ両方を交互にって子もいるけど、基本はどっちかに絞るのがベストだね」
それは困った、きっとネイリスさんのことだ、剣一本だろうなあ。そうだ、
「そこの魔術の天才君、従者はいらんかね?」
「ぷっ、君はほんとに従者なのかね。こんなにやる気のない従者は始めて見たよ」
「大丈夫、魔法の授業の間だけのレンタルで」
「フフフ、君がそれほど価値のある従者であるなら成立するかもね。どうだい、僕の従者と手合わせしてみるかい?」
「残念、オレは頭脳派なので」
3人が噴出す。なんだよう、ほんとに頭脳派なんだぞう。ちゃんとネイリスさんの勉強を教えてんだぞう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
しかして学力確認の初テスト、思いもよらない結果が、なんと!うちのネイリスさんが学年トップに!
……いいのかなあこの大番狂わせ。確か王子様はずっと学年トップを走っていて、途中でヒロインに抜かされることになったのがきっかけでルートに入るんだったよなあ。
ネイリスさん、嬉しいのは分かるんだけど、そんなにブンブンしたらオレの肩がぬけちゃう。
「ほんとジョフィのおかげだ! 最初に見るだけ読むだけじゃ駄目だって言われたときは、こいつ張り倒そうかと思ったが、まさかこんな結果になろうとは」
オレもうちょっとで張り倒されるとこだったの?
「ハハハ、まさかこの私が負けるとはね……」
「……3番、王子はともかく、こんな田舎貴族に」
2番は王子様、3番手はティア嬢だ。
後、王子のセリフ、ルートに入って始めに聞く内容なんだが、まさかネイリス×王子とかないよね?
ティア嬢はふと顔を上げると、ネイリスの前に立ち、
「ネイリスさん、あなた何か小さな紙の塊を試験前に見てましたわね? もしやカンニング?」
などと言いやがる。
「おっと、いくらティア様と言えどもそりゃーひどいんじゃないですかね。お嬢様が持ってるのは単語帳って奴で」
「これはティアラース様、私は誓ってカンニングはしておりませぬ。これは単語帳といって、このジョフィが考え出した勉強法なのです」
そう言ってティア嬢達に単語帳を見せる。いや、オレが考え出したんじゃないぞ。
「ほう、表に問題、裏に回答か、これは良さそうだな」
「そうですわね、これなら間違って覚えることもなさそうですし」
「コンパクトな為、どこにでも持ち運べ、いつでも勉強ができるのです」
ネイリスさんが得意そうにそう答える。これぐらい誰でも思いつきそうなもんだが、ありそうでなかったものって感じなのかね。
「それにノートのとり方、覚えるもののインデックス等……」
ちょっとネイリスさん、あんま全部ひけらかすと次の試験でってまあ、別に一番じゃなくてもいいか。順位が大切なんじゃない、覚える内容が大切なんだし、周りのレベルが上がれば自然と自分のレベルも上がるさ。
「ふうむ、これを全部あの従者が考えたのか?人は見かけによらないな」
おいコラ、そりゃどういう意味だよ?
「ネイリスさんのもう一人の従者も、王子様の剣帝に勝ったんですってね。さすが堂々と学院に連れて来られるだけありますわね」
遠くで女生徒が話している。
えっ、あいついつの間にそんな勝負してたんだ? つーか勝ったんかあれに?
「うちの剣帝殿が動き出す前に目にも止まらぬ速さで一本だよ。あの体つきでありえんとは言ってたけどねぇ」
「ごほん、ごほん」
うわさの剣帝さんが気まずそうにしてる。
まあ、油断してたからかね。あいつは獣だし、そこんとこは見逃さんだろうな。
「どうだ、結構優秀そうな従者だぞ、レンタルするか?」
「アハハハ」
王子が魔術の天才君にそう投げかける。
「いや、その話はいいよ。なんでもうちのお嬢様、魔術系を受講するらしいんですよ」
なんでも、女では剣術に限界があるとか。できれば魔術を織り込んだ攻撃方法を模索したいらしい。
田舎で父親とさんざんやりあって悟ったみたいだ。
まあ正直なとこネイリスさんなら、今の剣術コース行ってもやることないだろうしね。なんせ、ネイリスさんのお父君、剣帝の中でも5指に入る強さだとか。
そして夜間においてはその父君と同等の強さを誇る執事に鍛えられてる。
「ふむ、ネイリスは魔法はどの程度まで?」
「えっ?魔法の授業って魔法の使い方を教えてくれるのじゃないのですか?」
「……君たちは似たもの主従だなあ」