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第4話

「うむ、きちっとすればそこそこ男前ではないか。顔がぼこぼこでなければな」


 そのボコボコにしたのは誰でしたかね?


「良いか、今まではどうだか知らんが、これからは人前では必ず服を着るのだ」

「なんでこんなの着なきゃなんねえんだよぉ」


 おい、今のネイリスさんに反抗的な……


 ――ゴスッ


「ん、何か言ったか?」

「いえ、なんでもございません……」


 涙目で頭を押さえる元ワンコロ。しかし、ネイリスさんは暴力的ですなあ。


 ――ゴスッ


「いでええぇ」

「ん、何か思ったか?」

「いえ、めっそうもございません…」


 涙目で頭を押さえるオレ。さすが騎士爵家、教育方法が肉体言語だ。


「ふむ、一人多くなったが……そろそろ飯が炊ける頃だ。まあ多めに作ったから大丈夫だろ」


 あ、やっぱそのイベントあるのね。

 ネイリスさんが一旦部屋を出る。


「おいお前、腹は丈夫な方か?」

「ああん、なんだよ突然? 自慢じゃねえが腐ったねずみでもなんでもいけるぜ。なんせつまはじき者だったからな。飯はいつも群れの残飯だ」

「お前、大変だったんだな……」


 まあそれなら、いざとなったらこいつの口の中に流し込むか。

 そうこうしてる内にネイリスさんから食堂に来るように言われる。

 その食堂にあったのは……なんかスープが真っ赤でぼこぼこいってるんですが。肉に野菜が刺さっておる。どんなアート?


「これ食べ物なのか?」

「オレに聞くなよ。あ、いや食べ物だよ。さあめしあがれ」


 冥福を祈る。

 元ワンコロが恐る恐る食事に口をつける。おいそれ、肉をつかんだ手、蒸気が出てるぞ。


「お! ぐぉ! おおおおぉお!」


 元ワンコロが悶絶……


「うめえぇええ!」

「えっ!?」


 そして猛然と食事をたいらげ始める。

 もしかして見た目はあれだが、味は……ってやつなのか?

 オレも恐る恐るスープをすくって……うぉっ! からっ! だが……以外とおいしいじゃないか! あの味が有るのか無いのか分からないキャットフードに比べたら天と地の差があるべ!


「おいっ、これすげえな。普通に食っても吐きそうにならねえぞ!」

「お前は今までどんな食事をしてきたんだ?」


 オレ達は猛然と食事をかきこむ。


「そ、そうか、おいしいか! そうか! いやこんなに私の料理を喜んでくれたのはお前達が始めてだ!」


 ネイリスさんは感動してちょっと涙目だ。


「よし、私の分も食べるか? おお、そうだこれもどうだ?」


 そう言って丸い木箱に入った物を見せる。

 こっ、これは! 米じゃないか!


「これは私の故郷の特産品でな。まあ普通の人はあまり食しないが、私の好物なのだ」

「くっ、下さい。ぜひそれを!」


 うぉおお、こめぇえ、うめぇええ!


「米は近所に持って行っても、変な顔をされて嫌がられていたからここらじゃ食べないのかと思ってな」

「何言ってるんですが、米は神様の食事ですよ! 米を食さずして何を食すのか!」

「そうかそうか! うむ、お前達とはうまくやって行けそうだ!」


 オレもうここの子になる!


「そう言えばそっちの名前を聞いてなかったな。なんと言うのだ?」

「もふもぶ? 名前? もぶもふ、俺らは固体名はねえよ?」

「名前がない? そういうのもあるのか?」


 まあこいつ、モンスターだしな。特に狼は群生体だし、個より全ってとこなんだろ。


「名前がないと不便だな。よし、私がつけてやろう。何が良いか?」

「確かお前、ルーンウルフだったよな」

「おうとも!フェンリルが眷属、誇り高き狼の一族よ!」

「ルーンウルフ? 変わった集落名だな。ふむフェンリルか……よし、フェン介とかどうだろうか」


 すげえネーミングだな。


「なんか変じゃね?」


 お前でも気づくか。


「フェンリルのフェンをとってフェン介だ。どうだ、いい名だろ?」

「おお、フェンリルのフェンか! いいな、それ!」


 いや、いいならいいけどさぁ。



◇◆◇◆◇◆◇◆


「それではお二人は今日よりこの屋敷で働いてもらいます」


 翌日、オレ達は執事のセバスチャンに仕事の内容を聞くことになった。


「昨日の飯を食わしてくれんならなんだってするぜ。囮でも毒見でもどんとこいだ!」


 こいつ群れでそんなことばかりさせられてたのかなあ。


「い、いや、食事は基本わたくしめが……」

「ふむ、毎日3食は忙しくて無理だが、夕食ぐらいは私が作ろうではないか」

「おお、なんだって言ってくれ!」


 おじいさんはかな~り引きつった顔をしておられる。そんなにまずいかなあれ?


 ――結果からいうと、ネイリス嬢の作る飯はまずかった。いや、キャットフードと比べたら遥かにましですよ? ただ、朝・昼の食事に比べるとまあ……多くは語りまい。


「なんでお前たちは嫌がってんだ? 俺はお嬢様の作る飯は天下一だと思うぜ」


 こいつの味覚は……まあ、モンスターだしな。つーことは、モンスター向けの味付けなのかあ……


「嬉しいことを言ってくれるな。ほれ、もっと食え」

「それに一日3食とか贅沢すぎんだろこれ。群れに居た頃なんて、週3食あればいい方だったんだぜぇ」


 泣けてくるな。まあ、街の外だとそんなもんなのかね。


「あれから一週間経ったが、仕事の方はどうだ?うまくやれているか?」

「フェン介殿はなかなか剣筋がいいですな。良い護衛となれるでしょう。力も強くいい仕事をされておりまな」


 フェン介は最初の方こそ、人間の体に慣れてないこともありよくふらふらしていたが、3日もすればそれにもなれ、常人以上のスピードと体力があることが分かった。

 オレ?いやーオレは……


「ジョセフィーヌ殿は……」

「そのジョセフィーヌはなんとかならんのか? 大の男をつかまえてジョセフィーヌって言われてもなあ」


 ですよね~。


「じゃあオレにも名前を……いや、お嬢様はいいです、はい」


 オレが名前をって言ったとたん、お嬢様がいい笑顔をしたのですぐ訂正した。前歴があるからなあ。お嬢様がシュンとなる。


「ネタロウ……」


 お嬢様がボソッと呟く。釘をさしておいて良かった。


「まあ確かに、仕事もせず、どこでもしょっちゅう寝ておりますからな」


 そうなのだ、オレは……長かった猫生活が抜けず、昼間は基本おねむの時間なのだ。


「ふむ、それではネコスケとかどうでしょうか」


 ああ、ブルータスおまえもか……しかも微妙にオレの本来の種族っぽい。


「なんか知らないかジョセフィーヌは変なのか?ジョフィとかどうだ」


 ワンコロが一番まともだ。


「じゃあそうするか」


 それでもまだ女性名っぽいけどな。


「それで、ジョフィの仕事はどうなのだ?」

「肉体労働は向いていませんな。かといって元スラムの者に頭脳労働は……」

「いやいや、頭脳労働向いてますよ? そこんじょそこらの猫と一緒にされちゃあ困りますよぉ?」

「いや猫と比べてもな」


 なんせ元々ここよりずっと発展した世界の住人だ。それに公爵令猫をしてた頃も、ずっとご主人様と一緒だったから色々な書物を一緒に見てたし。

 おかげで言葉も文字も……そういやなんでこのワンコロ、普通に人間語話せてんだ? 不思議だ。


「そういやお嬢様はしょっちゅう書物とにらめっこしてるね」

「うむ、なにせもうすぐ入学式だからな。田舎出の私だ、少しでも皆に溶け込めれるよう頑張らねばな」

「ちょっと見せてもらっても?」


 オレはお嬢様が持っていた書物を見せてもらう。内容的には公爵家の書物よりは易しい感じか? まあ、ゲーム中ではうちのご主人様はずっと学年3位の成績……あっ、ネイリスって名前、見覚えがあるぞ。

 確か最終試験でうちのご主人様がとうとうベスト3から落ちて……その変わって3位に入っていたのが確かネイリスって名前だったような。

 つーことはこのお嬢様が入る学校って、


「アルセミナ帝位高等学部か」

「ほう、それを見ただけで分かるのか?」

「あ、ああ。前のご主人様が同じような書物持ってて……確かその学校に行くとかな」

「ご主人? お前はスラムの住人ではなかったのか?」


 スラムねえ……そうか、素っ裸だったからそう思われてたのか。どうごまかしたものか。


「オレは貴族のペットだったんだよ」

「はぁ? 裸で?」

「裸で」


 嘘は言っていない。

 お嬢様とおじいさんは互いに顔を見やる。


「帝都の貴族は魑魅魍魎だとは聞いたが……」

「やはり無理をして帝都などに来ない方が良かったのではありせんですかな」

「そうだなあ……いやいやだって私は田舎の皆に誓ったのだ、いずれ立派な騎士となると!」


 おじいさんはため息をつき、お嬢様を残念な子を見る目になる。

 そしてオレ達にこっそり言ってくる。


「フェン介殿、ジョフィ殿、ぜひお嬢様の力になってくだされ。お嬢様はあのような振る舞いでその……ご友人が……」


 ぼっちかよ。いやー確かに田舎でこんなだと孤立もしますか。暴力的だし。いでっ。

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