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第3話

 ん、ここは?

 目を開けると見慣れない景色が映った。

 確かワイバーンに追いかけられてて…なんかあそこがちょういてえ。


「気がついたようだな」


 隣には眼鏡をかけた女の子が椅子に座り書物を読んでいた。


「どちらさまで?」

「……覚えておらんのか?」


 女の子は眼鏡をはずし体をこっちへ向ける。


「初対面ですよね?」

「……いや、覚えておらんのなら、それでいい。それより体は大丈夫か?」


 女の子はそう言いながら赤い顔をしてオレの下半身の方を見る。

 オレは体を確かめて見たが特に怪我らしい怪我はしていない。だがあそこはなぜか痛い。へんな病気じゃなかろうか?


「どうしておまえは裸でワイバーンに追いかけられていたのだ?」

「いや、なんか変な猫が召喚魔法とか言い出してな」

「猫が召喚魔法? 頭は大丈夫か?」


 えっ、うそ言ってないよ? ほんとですよ?


「帝都には変な動物が居るのか……?」

「お嬢さんは帝都の人じゃないので?」

「ああ、私は今度ここの学院に通うことになってな、つい数日前ここへ来たばかりなのだ。おっと、そう言えば自己紹介がまだだったな、私の名はネイリス・シュレーヤ・シュバルツハルト」

「爵名つき? シュバルツハルト? もしかしておえらいさんですか?」


 この世界の名前は基本、名・姓で、貴族は名・姓・爵名となる。ちなみにオレの正式名は、ジョセフィーヌ・オーム・デュークハルト。猫と言えども立派なお貴族様なのだ。


「それは父だけだな。先の大戦にて功績を挙げ、一代限りの騎士爵位を貰っただけだ。とはいえ、父の存命中は私にも爵位名が付くのだがな。まあ、特にかしこまる必要もないぞ」

「そうか、オレはジョセフィーヌってんだ、よろしく」

「……ふざけてるのか?」


 ふざけてませんよ? オレもその名前にするって言われたときゃ、腹を見せてちゃんとついてることをアピールしたのだが覆らなかった。むしろいい顔で頷いてたよ。あれ絶対オレが喜んでると思ったんだぜ?

 ゲームの中では名前も性別も不明だったからな。あ、もしかしてゲームの中じゃメスだったとか? 転生先が猫でTSとかー、いやーちゃんとオスになっていて良かったよ。


「で、裸だったのはなぜだ?」

「え、オレ生まれてこの方、服なんて着たことないぜ?」

「……帝都のスラムはそこまでひどいのか」


 ん? スラムは行ったことないから知らないな。


「まあいい、その服はおまえにやろう。家はどこだ、送って行ってやろう」


 ん? 家? オレは自分の姿を見直し……やべえこのままじゃ帰れねえじゃねえか。あのアホ猫どこ行った?


「オレ、帰る場所がない……」

「……家族はどうした?」

「生まれたときにみんな死んだな」

「そうか……そうだな……おまえ、ここで働いてみないか? 給金はあまり出せないが、食事と寝床には困らんぞ。どうだセバスチャン」


 そう言うとネイリスと名乗った女の子は部屋の隅へ声を掛ける。


「そうですな、ちょうど明日から使用人を探さねばならないとこでしたしね。まあ、暫くは様子を見てもよろしいのではないですかな」


 そこには部屋に溶け込むように佇むおじいさんが居た。気配すら感じなかったよ。


「彼は執事のアト・フォンテウヌスと言うんだ」

「あれ?セバスチャンって言ってなかった?」

「ハハハ、お嬢様は昔から本を読むのが好きでしてな。とある冒険物語に出てくる執事がセバスチャンと言う名で、お父君から私のことを執事だと紹介されたときにセバスチャン、セバスチャンだとはしゃがれましてな。あまりにもかわいらしかったのでそのままにしておいたのが定着したのですよ」

「こ、子供のときの話だ」


 ネイリスさんは顔を赤らめてそっぽを向く。うむ、かわいいね。


「そ、そうだ! 就任祝いに私が腕によりをかけてごちそうを作ってやろう!」

「あ、いや、お嬢様それは……」


 えっ、オレここで働くってまだ言ってないよね? というか執事のおじいさんの顔が真っ青になったんだが、それやべえ奴か?


「お嬢様、お食事ならわたくしめが作りますので」

「いや、よい。使用人なら家族も同然だ。最初くらいは私が腕をふるおう」


 ネイリスさんはそう言って部屋を出て行こうとする。


「あ、わたくしめの分は、これから外へ出る用事がありますので無くて大丈夫であります」


 そう言っておじいさんはこちらへ同情の眼差しを向ける。あっ、オレも用事が!


「まあまあ、お嬢様は料理がご趣味なのですよ。ぜひ召し上がって下さい。骨は拾いますから」

「いやな予感がひしひしとするんですが。というか力強いなあんた」


 おじいさんがガシッとオレの肩を押さえる。逃げ出そうにもびくともしない。


「ハハハ、こう見えても私は魔族ですからな。だいぶ日も暮れましたし、人間の力には負けませんぞ」

「えっ、でも角なんて無いじゃ?」

「ご主人――お嬢様の父君に折られましてな、それ以来こうしてお使えさせてもらっておるのですよ」


 一体何があったんだ?


「よし、ならば死なばもろとも……」

「胃腸薬、買って来なくてもよろしいので?」

「……よろしくお願いします」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 しかして、おじいさんは町へ買い物に出かけ、ネイリスさんは料理中……なにやら料理とは思えない爆音が聞こえるのだが~。逃げるか? 逃げた方がいいよな? よしやっぱ逃げよう。

 オレは窓から外を覗く。だいぶ日が暮れてきているが、一晩もあればあのアホ猫見つかるだろ。猫は夜行性だしな。

 しかし、服ってのはじゃまだな。猫になって3年、すっかり素っ裸がデフォルトである。よし脱ごう。


 オレは窓からそっと外に出、塀をよじのぼ……人間てジャンプ力ねえなあ。それでもなんとか塀を越える。


「さて、これからどうするか」


 だんだんと暗くなるにつれ視界がおぼつかなくなる。匂いをたどろうと鼻を鳴らしてみても、まったく分からない。人間に戻って分かる、猫のハイスペックさ。

 しかし、周りの通行人はやたらとこっちを見てくるな。


「あ、てめえっ!」


 オレが堀のそばで途方にくれていると遠くから駆けて来る人間が。ガラの悪そうなやっちゃなあ。


「やっと見つけたぞこのやろう!」


 そう言ってオレに飛び掛ってくる。オレが何したよう?

 あ、でもこいつ弱いな。ちょっと転がしたらころんといく。


「くっ、なんて動きづれえんだ。こんな牙も無い歯じゃねずみ一匹やれもしねえ……」

「何でオレに突っかかってくんだ?」

「何で、だとう!さっさと俺を元の姿に戻しやがれ!」


 ……もしかしてこいつ、


「お前、あのときのルーンウルフか?」

「……そうだ」


 やっぱりか。だが、元に戻る方法があるならオレが知りたい。


「あのアホ猫はどうしたんだ?あいつじゃないと元に戻る方法分からねえぞ」

「知るかよ! 気づいたらこのかっこだったんだよぉ! あの猫は穴に潜った後どこ行ったか知らねえよぉ!」


 ――ガスッ、ゴスッ


「「いでええぇ!」」

「貴様ら、私の家の前で何をしている?」


 そこには鞘に入ったままの剣を構えたネイリスさんが……


「先ほど近所の方が来られて「おたくの家の前で素っ裸の男連中がぐんずほぐれつしてんだけどぉ、困るのよねえ、いくらおさかんだと言ってもねぇ」な・ど・と、言われたのだが?」


 こ、怖い、なんか剣から赤いオーラが出てるんですが。


「ちょっと奥様、若い男が二人裸で抱き合ってますわよ」

「あらやだ、これだから田舎から出てきた騎士様ってやつはぁ」

「どんなプレイかしら、いいですわねぇ若いってのはぁ」


 ネイリスさんのこめかみに青筋が……


「ん、なんか遺す言葉があるなら今の内に言っといた方がいいぞ?」


 オレ達は抱き合ったまま涙目でフルフルと首を振る。


「往生せいやあ!」

「「ギニャー!」」

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