第21話
オレは今駆け出して行ったネイリスさんを呆然と見送っていた。
えっ!? 今キスされた?えっ、マジで!? なぜ? なんで!?
落ち着けオレ。確かキスシーンはゲームじゃほぼ攻略目前ではなかったか?
えっ!? あれだけ好感度マイナスからOKURIMONO一個で?
いやまて、これはゲームじゃない、ゲームじゃないが……
「ジョフィ、お前は私の従者として不満はないのか? そ、その、ティア様と、その……」
これはヤヴァイ、もしかしてオレ、クビにされかかってる!?
回復魔法を掛けているときにネイリスさんが言ってきた言葉をそう受け取ったオレは、その場で好感度アップ中『デートに誘う』を選択してしまった。
しまった! 了解がある訳ないだろオレ! こうなったら強行突破だと、そのままノープランでネイリスさんを連れ出す。
しかしてノープラン。どこ行ってもネイリスさんは上の空。
オレは最後の切り札を切るしかなかった。
できれば前金を返上して断りたかったのだが……
アクセサリー屋についたオレは急いで目的の物を捜す。しかして、
「ああ、あれ売り切れちったわ」
非情なる店員の天の声。
お嬢様が欲しがっていた物。フェン介を殴りすぎて駄目になりそうな代わりの武器。前にここのアクセサリー屋でお嬢様が欲しそうにしてたって言う、羽飾りの短剣。
「店主、この店で一番いいものを頼む!」
てんぱってたオレは思わずそう言ってしまった。
そしたら出てきたミスリルの髪飾り。微妙に欲しかった短剣と意匠が似ている。
「店主、これでなんとか足りないか?」
全財産を突き出すオレ。
「ああ、んーちと足りないが……ん、あれか? あれなんだろ? 仕方ねーなあ。恩に着ろよぼうず」
「店主、オレはこれからお前を神様としてあがめよう!」
そうして目を瞑っているネイリスさんに近寄る。ほんとは目を開けたらテーブルに短剣がってしたかったんだが。
お、まてよ、確かゲーム中にミスリルは魔法を付与できたな。その中でも重宝した魔法が、防具に自動回復の魔法。よし、試してみよう。
そうしてネイリスさんを起こし、頭に魔法の掛かった髪飾りを掛ける。そうしたら……
「おお、ぼうずいいもの見せてもらったぜ。これはおまけだ」
そう言って店主が小さな箱を投げてくる。
ん? これは!? こんどうさん? いらねーよ!
オレは思わず投げ返してしまった。貰っとけば良かったかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねえジョフィ、別に断ってくれてもいいのですよ。わたくしも、姫様があんなだとは思ってもみな……」
それがそうもいかんのですよぉ。なんせ前金、全部使っちゃいましたから!
ティア嬢に紹介された家庭教師先、なんと! 王家の姫君、あのキラッ歯王子の妹さんだった。
公爵家と王家のパイプつなぎの為、オレをティア嬢が王家の姫君へと家庭教師として紹介してくれたとのこと。
なんでも、学年1位・2位を育てた優秀な家庭教師だとかの触れこみで。
どうしてそうなったのか、胃が痛かったが、まあ、身元不明の従者が王家の家庭教師なんて断られるに決まってるだろう。と軽い気持ちでついて行った。
しかして、
「ハハハ、ジョフィなら僕も身元保障するよ。彼は僕が知る限り最も優秀な従者だからね」
などと、含み笑いを込めた王子の一言で採用が決まった。こいつなんか企んでねーか?
そうして出会った妹さん、第一声が、
「オーホッホッホぉ、全ての愚民はわらわの元に跪くべくして生まれたのよぉ!」
だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さあ見てみなさい愚民! ここから街が一望できるでしょう! これらが全てわらわの民! わらわによる、わらわの為の世界なのじゃあ!」
「よっ大統領! その通りでございます! あんたはぁえらいっ!」
「ちょっ、ちょっとあなた! 何焚きつけてますの! すぐさま姫様をあそこから降ろして!」
しかしてそこは王城の天辺。聳え立つ三角塔の屋根の上。
「さあ、愚民も登って来なさい。わらわと共にあろうとするなら!」
「えっ、やだよ。危ないじゃないか」
「えっ!?」
さっきまでさんざんよいしょしていたオレの思ってもみない反抗に姫様が目を丸くする。
「まず、そこは良く滑る。ちょっとの油断が命取りだ。そしてそこから落ちたら……そりゃもう目も当てれないくらい悲惨だ。目玉は飛び散り、骨は突き出し、見る影もなく……」
「……愚民、ちょっとこっち来て、わらわちょっとちびったの」
さっきまで威勢よく片手でポールを握り街を指差してたのが、今じゃポールに抱きついて動けない模様。
「姫様、世の中には『自己責任』って言葉がありましてね」
「ぐぐぐ、愚民! そなたはわらわの家庭教師であろう!」
「本日の授業は『自己責任』という勉強でございます」
姫様は泣きそうな顔でオレを見てくる。
と、そのとき、思わぬ突風が!
その強風に煽られ思わず目をつぶった姫様、そして握力が弱くなりポールから手を離してしまう。
こんな高いとこに、まだ小学生ぐらいの体、強風に煽られたらひとたまりもない。
「よっと、大丈夫ですか姫様」
もちろんオレはその為の準備はしていた。最近神聖魔法の『ホーリーバインド』を習得していたのだ。見えない糸で敵を縛りつける魔法ね。
その糸で姫様とポールを繋いでいた。
そして糸を辿って屋根の上で姫様を抱きとめる。
「ぐぐぐ、愚民! 怖かったのだ! 心臓が止まったのだ! ……だからこれは仕方がないのだ」
お姫様のおまたがぐっしょり。
「姫様、しばらくここで街の見物でもしますか。大丈夫オレが付いていますから」
そう言って二人で座り込み街を見渡す。いやあ絶景ですなあ。
ちなみに抱きとめたオレのおまたもぐっしょり。このままではオレまで漏らしたと思われてしまうではないか。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おや、スフィアーネが随分懐いている。彼はあれだなあ、ほんと誰とでも仲良くなれるな。推薦して良かったよ」
「王子! 早く姫様に降りるように言って下さい!」
「いいじゃないか、スフィアがあのように人にしがみつくとこなどめったに見れないよ? あの人嫌いのスフィアがね」




