第19話 好感度アップ大作戦!
最近ネイリスさんの機嫌がすこぶる悪い。
「あ、お嬢さ」
――ゴスッ
「あ、すまん! ジョフィの顔みたら、つい……」
ついってあんた。オレ一体何をそこまで怒らすことしたっけ?
「お前いったい何やらかしたんだ? お嬢様があそこまで怒るなんて尋常じゃねえぞ」
こっちが聞きたいですよ?
回復魔法掛けてるときですら目も合わせてくれない。
今日の朝食なんて、オレが席に座ると食事を持って部屋から出て行く始末。
「あれじゃねえか? こないだのダンジョンのボス、お嬢様誘わなかったのが原因なんじゃ?」
「そうかな? いやしかし、ゲームのイベントじゃ死人が出るし、やっぱ危険だろ?」
「あんな雑魚誰でもたおせるだろ?」
「……お前、さんざんぶるっときながら、どっからそのセリフが出てくるんだ?」
しかし、なんとかお嬢様の機嫌をとらねば。そうだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「好感度アップ大作戦? なんだそりゃ」
「この際、せっかくの乙女ゲー、それに則って好感度アップのイベントをこなしたいと思う」
ヒロインが王子などの攻略キャラの好感度を上げるイベントを、逆にオレがネイリスさんの好感度アップに用いようということだ。
「まず好感度アップ大、それは『冒険に誘う』だ」
「ふむふむ、なるほど」
そのなるほどは分からないときのなるほどだな。
ゲーム中では『冒険に誘う』は最も有効な手段となっていた。基本誘ったら断られることがない。そしてヒロインは唯一の回復魔法使い。
「くっ、やられた!」
「まかせて!『ヒール!』」
「ありがとう、君のおかげで助かった」
これでグッと好感度は大上昇。
攻略対象をどんどん危険なエリアに放り込み、じゃんじゃん怪我させて、さくさく回復してやればたいがいOK。ひどいなこのヒロイン。
しかし、オレは毎日ネイリスさんの怪我を治しているのだが、好感度がアップしているどころが逆に悪化してるような気がする。
ここんとこ、公爵様の剣心さんにも揉まれており生傷が絶えない。
「お嬢様今すぐ回復しますね」
「うむ、頼んだ」(目を合わせてくれない)
「お嬢様どんな感触ですか?」
「………………」(そして無言)
なぜだろうか?
ここで冒険に誘って、もし断られたらオレは立ち直れないような気がする。
「次に好感度アップ中『デートに誘う』だ」
「ふむふむ、なるほど」
まあ、どこにでもあるオーソドックスな方法だな。
ヒロインが攻略対象にデートを申し込む。相手が了承すればデートイベント。
街の行きたい場所を指定し、攻略対象の行きたいとことマッチすれば上昇。逆に場所によっては下降したりもするが。
わざと下降する場所行って、非攻略対象の好感度を下げるのも有りだ。ほんとヒロイン鬼畜である。
もちろんこれは却下だ。今のネイリスさんを誘って応じてくれるとはとても思えない。
「そして最後、好感度アップ小、ものによっては特大、OKURIMONOそう『プレゼント』だ」
「ふむふむ、それなら分かるぞ」
いつでもどこでも、何回でも使えるコマンド。財力が続く限り行える。
今回はこれを採用しようと思う。
だが、これには唯一の欠点がある。それは……
「フェン介様、お金貸してください」
そう財力だ。お金がなければ何も買えないっすよ?
「……なんでお前は俺が金持ってると思ったんだ?」
「ないのか?」
「ある訳ねえだろ? 自慢じゃないが貰ったその日に使い切ってるぜ」
ほんとに自慢にならねえな。とても2児の父親とは思えない発言だ。
こいつには蓄財についてきちんと話しとかないといかんな。子供の為にも。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ハッ、しまった。こんなとこで、蓄財について説明してるどころじゃなかった」
「ううむ、シュルクとミーシアの為にもか。……学費、……養育費、……うむ、よく分かん。もう一回頼む」
「後はセバスチャンにでも確認しとけ」
オレもいくらかは蓄えてはいるのだが。
セバスチャンにリサーチしたお嬢様の喜びそうな物、これだって言うのが一個だけあった。
だが、その物にはあと少しだけ資金が足りない。
こうなったらどっかアルバイトでも捜すか。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「アルバイトを捜している? あなたが?」
「はい、どっか楽にぱぱっと稼げるとこは無いものでしょうか?」
お金のことはお金のあるとこに聞けばいい。そう思ってティア様に聞きに行った。
「ふむ、そうね……」
そう言って考え込むティア嬢。
「家庭教師……はどうかしらね?」
「それは無理じゃないかな? オレが教えれることって偏ってるからなあ。家庭教師だと広く一般的な知識も必要じゃない? あとすぐ金にならない」
「これはいいわね……わたくしからのと言うことにしておけば……ネイリスさんの部下なら裏切りなんてないでしょうし……」
「ちょっとちょっと、聞いてます?」
これはまずったのではなかろうか?