第17話
「ファーハッハッハァ、大魔道士フェン介様の魔法の威力を見よ!」
「武器で攻撃しろバカ! そんなちょろい魔法でたおせる訳ねえだろ!」
「ちょろいゆうなや!」
迷宮の最深部に辿り着いたオレとネイリスさんは、そっと扉を開け中を除いたのだが、なんと! そこには例の瘴気で発生するはずの強力なボスモンスターがすでに居た。
まあ、分かってたのは試験のときには居るってことだけで、いつから居る、は知らなかったしな。
学院の試験前の準備で、迷宮は一時進入禁止になっていたそうだし。
えっ、オレとネイリスさんはどうやって入ったかだって? そんなの知らないから普通に入ったよ。異世界のダンガーの標識なんてそもそも知らないっすよ。
「お嬢様、今日の練習はここまでにしておきましょう」
「ん、ボスはたおさないのか?」
「いやだなあ、ボスたおしちゃったら試験のときに困るかもしれないでしょう? ほら、ボスたおすと迷宮の活動がしばらく停止するかもしれないですし」
「ふむ、それなら仕方ないな」
ゲームの中じゃいつでも沸いてるけどな。まあ、現実じゃどうか知らないし、そういうことにしておこう。
と、一旦引き返して家に戻って来たのだが、あのまま放置はまずい。2週目以降は穴を塞いだ後のこともあり、出てくるボスは劣化版なのだが、最初の一匹は死人がでることうけあい。
なので、フェン介を連れてもう一度迷宮に向かった。
「なあ」
「なんだよ?さっさと行けよ」
「……あれは無理だろがよぉ!お前人使いが荒いにも程があるぞ!?」
フェン介がボスを指差す。そこには3メーターはあろうかという、山羊の頭、人間に近い体、真っ黒な翼、バフォメットと呼ばれる悪魔がいた。
大丈夫大丈夫、なんせクルーカ1人でたおせるぐらいだ。王子の護衛の剣帝に引けをとらないお前ならやれる。はず。
「回復は任せろ!」
フェン介がオレをじと目で見つめてくる。
「まあ、お前がやれるってんなら、やれるんだろうが……」
「ブルってんのか?」
「当たり前だろが! 基本狼は自分より体格のいい奴は襲わねーよ!」
「えっ、狼って結構大型の獲物も狩ってね?」
「そりゃ群れで狩るときだけだ!」
やっぱ無理かな?
「しかし、このまま行くとお嬢様が奴と当たりかねないしなあ」
「おい、そりゃどういう意味だ?」
オレはフェン介に事情を説明する。
「何、次の試験でここが舞台となる?」
「ああ、クルーカが一緒のパーティになると、たぶんお嬢様のグループが真っ先にここに辿り着くことになると思うんだ」
一応、警備兵に知らせて兵隊さん達にたおしてもらうって手もあるが、できればあの穴は見られたくないんだよなあ。
ゲーム中でも人々には知られずにひっそりと塞ぐってミッションだったしな。
「そういう事情なら放置はできねえなあ」
「だろう?」
「ようし、いくぞ!『フレイム…』」
――ゴスッ
「だから、そんなちょろい魔法じゃ無理だって言ってんだろ?」
「いやだって、なんか近づくの怖ええし?」
仕方ないな。オレは剣を抜刀し走り始める。索敵範囲内に入ったオレをバフォメットの目が捕らえる。
その瞬間オレは横に転がる。こいつの初手はたいがい目からビームだ!。
そのビームを掻い潜りそのまま勢いを殺さす、奴の脇を抜ける。
ハッ、正面から切りかかるかよ。無駄なことだって知ってるからな。
オレが狙うは、その羽、機動力だ!
奴はオレが正面から攻撃すると思ってか腕をクロスして防御の体勢に入っている。その隙に、後ろから羽を切り上げた。
が、世の中そんなにうまく行きません。
オレの剣は奴の羽の半ばで止まり、押すことも引くこともできなくなってしまう。
そして、バフォメットは裏拳よろしくオレをその腕で弾き飛ばす。そのままオレに向かって――
「無茶しすぎだぞお前!」
オレに向かって振り向いたバフォメットに対して、後ろからフェン介が後頭部を殴りつける。
そして刺さったままの剣を掴み、羽を切り捨てて行く。
その後はあっと言う間の勝負だった。
そのまま剣でバフォメットの足に切りかかり、バランスを崩した奴に突進するように肘当てをぶち込み、浮かした後にぼこぼこに殴りかかる。おお、リアルエリアルレイヴだ。
地面に着く頃には終了していた。
「フェン介なら来てくれると思ったぜ」
「……お前、実はお嬢様に似てねえか? ヒヤヒヤさせるなよ」
それじゃま、穴を塞ぐとしますか。
オレは瘴気の溢れる穴に手を当て、神聖魔法の『ヒール』を唱える。実はこの穴、回復魔法で塞がるのだ。
「何やってんだ?」
「見て分かんねーのか? 瘴気が溢れてるこの穴を塞いでんだよ」
「ほう、瘴気ってなんだ?」
お前の生まれた元だろがよ?