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第16話 進め!ネイリスさん

「だから、ダンジョンにはモンスターがうようよとですね」

「なあに、モンスター戦なら田舎でいやと言うほど経験しているぞ。なんせ一代限りの騎士爵家、配属先は最前線だ!」

「それにマッピングとか探索とか」

「それなら問題ない、すでにマップは買って来ている!」


 無駄に用意周到だな。せめてフェン介はいないか? あいつ肝心なときにいねえな。

 まあ、初心者用のダンジョンなら30分もかからないか?いやしかし、ゲームの中でそうだといって、現実でもそうだとは限らないような気も?


「ちょっとマップ見せてもらっても?」

「いいぞ」


 オレはネイリスさんが持っているマップを見せてもらった。見た限り、2階層仕様のゲームと同じマップみたいだ。

 まあ、瘴気が沸くのはもう少し先だろうし、ネイリスさんの実力なら問題はないか?


 ついでに瘴気が沸きそうな穴が無いか確認できるしな。

 なお、瘴気の穴は異次元ホールのようになっている。

 ん、あれって中に入れそうだな?入るとどうなるんだろな? そんなイベントはなかったが……まあ、瘴気が充満した穴に入り込んで無事に済むとは思えないが。


 そうして向かったダンジョン、


「ほう、なかなかやるな! だが、私の敵ではない!」


 そう言って3匹ほどのコボルトの群れに突っ込むネイリス嬢。脳筋だなあ。

 あっと言う間にコボルトを殲滅してしまう。


「ジョフィ、少々怪我を負ってしまった。回復を頼めるか?」


 まずいなあ。最近の家庭内修行、オレが回復魔法が使えることもあり、少々ガチでやり合ってもらってた。オレの回復魔法の練習も兼ねてね。

 ただ、回復魔法があるってんで、結構向こう見ずな戦略が増えてて、多少なりとも不安に思っていたのだが……


「お嬢様、あまり無戦略で突っ込むのはどうかと。実戦ではオレがいつも居るとは限らないですよ?」

「おお、そうだったな。すまない、ついついいつもの調子でやってしまった。その調子でなにかまずそうなことがあればどんどん言ってくれ」

「了解」


 しかし、やはりゲームと現実じゃ違ったようだ。マップは同じでもスケールが違っていた。すでに30分は経っているが、未だ一階層の半分くらいの位置だ。

 ただまあ、モンスター戦は問題なさそうだ。ここまでの敵はほぼ瞬殺できていた。


 しかし、これなら余裕だな、と、思えていたのも2階層に降りるとこまでだった。


「くっ、なんだ剣がすり抜ける!」

「そいつは魔法でないと倒せない奴だな」

「そうか『ライトアロー!』って効いてない?」

「うゎっ、後ろからも来た」


 ここは初心者向けのマップ。ゲームでもチュートリアルを兼ねたステージ、すなわち、一通りの攻撃方法・防御方法を試しながら進めるステージなのだ。

 しかして、一通りの攻撃方法・防御方法ができなければ満足に進めなかったりもする。


 ほら、ゲームのチュートリアルで『魔法を使って敵をたおせ!』ってあるのに、その魔法を持ってなかったりとカー。行き詰まるよね?


 そしてオレ達には、回復魔法と剣攻撃ぐらいしかない。

 物理攻撃しか効かない敵、魔法攻撃しか効かない敵、バックアタックやら特殊攻撃やら……一体一体は弱くてもこうも連携されると手に負えない。


 それに、ゲームの中ではしびれ攻撃とかメッセージが出て、それに対応する行動をとればいいが……


「くっ、なんだこれは体が……」


 現実だと何が起こったか分からない。


「一旦退却を!」

「そ、そうだな」


 うむう、回復魔法しか使えない僧侶と、ほぼ剣のみの脳筋じゃ、これは厳しいな。

 主人公はそら主人公らしくすべてが一通り使えるからな。


 後で聞いた話だが、1人でダンジョンに入ること自体、自殺行為だったようだ。たとえそれが初心者ダンジョンであってもな。

 中学部でのダンジョン攻略でも、きちんとバランスの取れたグループに教師が指導しながらだったとのことだ。


「これじゃあ、ボスの間に辿り着くどころじゃないな。それどころか帰るのさえ怪しいぞ」

「そうだな……」


 なんとか安全地帯に逃げ込み一息つくオレ。


「何をしている、早く上の階層へ行かないのか?」

「ああ、ここは敵が寄って来ないから」

「は?」


 ダンジョンの一部には安全地帯がある。女神の涙と言われる青い鉱石が埋め込まれた場所だ。


「そ、そんなものがあるのか?」


 ゲーム中ではここでじっとして回復を待つのがセオリー。まあオレは、ガチャ無料で回しまくって、回復薬ほぼ無限使用とかしてたから用がなかったが。


「……私は無力だな、何も知らない。ティア様の誘い……断った方がいいのかもしれないな」


 ネイリスさんが落ち込んだ表情でそう呟く。


「……さてと、それじゃあ落ち着いたら反撃といきましょうか」

「え、もう帰るのではないのか?」

「何で帰る必要があるのですか? お嬢様、あなたは自分で思っているよりもっと、色んなことができるはずですよ」


 オレはそんなネイリスさんにそう答えるのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 オレはネイリスさんの努力の糧を知っている。誰よりも努力家で、オレなんかが居なくても、最後は公爵家のお嬢様ですら抜かしてしまう勉強家なのを。

 それを、誰よりも身近で、誰よりも深く。


「おっと、位置はそこでストップ。ここからあいつの核を狙って、あそこの赤い部分」

「わ、分かった」『ライトアロー!』


 ネイリスさんから放たれた魔法がモンスターに突き刺さる。と、モンスターはそのまま煙となって霧散した。


「や、やったのか?」

「すぐ敵が集まる。バックアタックがあったら、まず後ろは気にせず前の敵に集中。剣が効かない敵は後回しだ」

「分かった!」


 落ち着いて行動すれば所詮は雑魚だ。オレだって盾で防御するぐらいはできる。


「あいつは魔法を使ってくる、優先して殲滅して」

「よし! まかせろ!」


 だんだんいつものネイリスさんに戻ってきたな。


 ネイリスは誰よりも魔法の勉強をしている。魔力は少なくても、小さな核でも当てられる技術を磨いている。

 ネイリスは誰よりも剣の練習をしている。力は無くとも、どんな敵でも初手を取れるスピードと技術を磨いている。


 こんな所で、こんな雑魚に挫折する言われは無い!


「そいつはしびれ粉を使ってくる。もし掛かったらじっと防御に専念してあまり動かないこと。そのうち効果がきれる」

「ふむ。そんなもの、使わせなければ良いのだろう」


 そう言って一刀両断に切り伏せ、返す刀で周りのモンスターも一掃する。おおっ、かっけー。


「さすがお嬢様、もはや剣帝も目の前ですね!」


 オレがそう褒めるとネイリスさんは真っ赤になって照れる。だが、ふと思い出したかのように顔が翳る。


「そんなにおだてるものではないな。…私は無知もいいとこだった。ジョフィが居なければ生きてすらいなかったかもしれない」

「お嬢様『知らなかった』はもう過去のことです。今はもう『知っている』でしょ?」

「ジョフィ……」


 お嬢様はオレの手をとり、


「お前に会えたことは私の人生で一番の宝かもしれない。これからも色々教えてくれないか」


 そう言ってくる。これって告白でしょうか?


「そそそ、そりゃあもちろん! オレの教えれることならなんなりと」

「そうか、ありがとう!」


 まるで花でも咲いたかのような笑顔だ。惚れてしまいそうだ。


「マップによるとここが最深部のようだ。この中には迷宮のボスが居るんだよな?」

「ああ、ここのボスは……なんだろな?」


 そういや穴が開く前のボスってなんだったんだろ?

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