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第10話 ジョセフィーヌの活躍(は短いです)

 と思ってたら本格的に住み込む気かどんどん部屋に備品を持ち込み始めた。


「ティアラース様、部屋が小さくて申し訳ありません」

「いえ構いませんわ。わたしくは居候させていただいている身ですしね」

「いえいえ、居候だなんてとんでもない!どうか我が家だと思ってくつろいでください!」


 最近のティア嬢は、ほんと悪役令嬢なの?と思ってしまうくらい穏やかだ。やはり環境によるのかもしれない。

 そう言えばティア嬢と暮らすようになって気づいたことがある。時たまため息をついたかと思うと、両手で胸のあたりをスカスカしている。貧乳でも気にしてんのか?


 ――ゴスッ


「コラッ、ティアラース様を邪な目で見るでない!」

「いちいち殴らなくても……」


 ネイリスさんの肉体言語は今日も絶好調である。


「ネイリスさん、いつまでもティアラースじゃなくてティアでいいですわよ。呼びにくいでしょう?」

「そ、そんな恐れ多い」

「そうだそうだ、もう二人とも友達なんだし愛称で呼んでもいいんじゃないか」

「と、友達……そう言えばあなたからはなぜか、最初から愛称呼びされてましたわね」

「あっ、オレそういや買出し行かないと駄目なんだった!」


 オレはそそくさとそこから逃げ出すのであった。


「申し訳ありません。あいつはどうもお調子者のようなとこがありまして」

「まあ、よろしいですわ。それに彼なのでしょう?私に相談するように言い出したのは」

「はい」


「彼は何と言うか……少し不思議な雰囲気がするお人ですね。なんだか似てますのよ、少し前まで飼っていたペットに」

「ティアラース様……ティア様もペットを飼ってらっしゃったので?」

「ええ、それが不思議な猫なんですのよ。ああ、そうね、少しその猫についてお話してさしあげますわ」



◇◆◇◆◇◆◇◆


 わたくしの世界は棘でありふれている。

 そう思うようになったのはいつからだっただろうか。

 3歳のとき盛られた毒で死にそうになったとき?それとも5歳のときにかどわかされて暗い倉庫で一晩明かしたとき?それとも…


 世界の全てはわたくしの敵であり、わたくしはその全てと戦わなければならない。そうずっと思ってました。

 そんな棘の一つを取り除いてくれたのが、この国の王子、ヘリデリック王子。

 そしてもっと多くの棘を取り除いてくれたのが、わたくしの飼い猫、ジョセフィーヌでした。


 ――ガッシャーン!


「まあ、この猫! 私が作った料理を! 申し訳ありません奥方様、至急もう一度…」

「仕方ありませんわね。ティア、食事の際にペットを同伴するのはおやめ・」

「ちょっ、やめっ」


 それは、わたくしが初めて食堂へジョセフィーヌを連れて行ったときでした。

 それまでおとなしく腕に抱かれていたのですが、料理が並べられると同時、突然お母様の料理に飛びつき、ひっくり返してしまったのです。

 そしてその後、お母様の侍女に飛びつきエプロンにぶら下がります。


 ――ガシャン


 すると侍女のエプロンから小瓶が落ち、それが割れ中身が床に広がります。

 と、ジョセフィーヌはそれを舐め…ビクンッと痙攣したかと思うと泡を吹いて倒れます。


「ジョセフィーヌ!」


 お母様の侍女はそれを見て、食堂から駆け出します。


「おい、誰か! その者をひっとらえろ!」


 ―その薬は、毒……ではありませんでしたが、避妊薬でした。公爵家の食卓には毒物に反応する魔道具があるのですが、避妊薬は毒物と認識されずそのまま料理に混入されていたのでした。

 どうやら、公爵家の跡継ぎを生ませないように定期的に食事に混ぜられていたようです。


 お父様とお母様は大層喜ばれ、その犯人を身をもってあぶりだしたジョセフィーヌを、今後、食卓に連れることを認めていただけました。

 それから一年後……公爵家は待望の男児を出産するのでした。このことは内外で今のところ秘密となっていますが。わたくしのことを踏まえ、身を守れる年になるまで秘密にすることにしたのです。

 それ以外でも……


「お父様、少しこれを見ていただけませんか?」

「ん、どうしたねティア。そんなに慌てて」


 あるとき珍しくジョセフィーヌが紙の束を丸めたものでじゃれていました。

 それを開いて見てみると……


「これは!? 内通者の文書!これをどこで!?」

「ジョセフィーヌが……」

「またおてがらだな。ほんとなにか憑いておるのではないか?」


 またあるときは……


「お嬢ちゃん、おとなしくしてた方が身の為だぜぇ」

「くっ、ころせ!」

「お、おい、あれなんだ?」


 わたくしが隣国に出向いた帰り、道中で襲ってくる者が現れました。

 護衛たちは盗賊などものともしない手練れでしたが、その護衛の一人が裏切り者でした。


 戦闘中にわたくしを攫い、森の奥へ逃げ込んだのです。

 今までは直接手を出すことはなかったのですが、間接的な行動がとれなくなったせいでしょうか。

 わたくしが諦めようとしたそのとき、森の中から多数の獣が!


「な、なんでこんな森の浅いとこでヘルファングの群れが!?」

「おい、なんか追っかけてるようだぞ」

「静かにしろ気づかれるとこっちへ来るぞ」


 その獣に追いかけられているのは……ジョセフィーヌ!?


「ちょっ、こっちへ来てるぞ」

「おい、くんなこのくそ猫。モンスタートレインは犯罪なんだぞ!」

「あなた達がそれを言いますか?」


 結局、ジョセフィーヌがトレインして来たモンスターと戦闘になり、わたくしの本来の護衛に追いつかれ事なきを得ました。

 ただ、ジョセフィーヌは傷だらけで暫く生死の境を彷徨うことになってしまいました。

 そんなジョセフィーヌは、わたくしにとってだたのペットではなく、小さな騎士様のような存在に思えていたのです。

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