精霊魔法と迷宮づくり
妖精女王に出会った拓人は、大量の素材と、新しい仲間を得る。
俺たちは妖精女王に礼を述べ、シアンを加えた六人で、拠点に帰ることにした。
素材に関しては写真に撮ればいいだけなので問題なかったが、布の量が結構あったため、持ち帰るのに苦労した。拠点が近くて本当に良かったよ……。
「おや、魔王さま、もうお帰りで……はて、この布は? それにその娘は一体?」
出迎えてくれたゴブ爺に、森で起こったことを簡単に説明する。
「なんと、あの森にそんな存在がいたとは……。しかし、すぐに知己になられるなど、流石魔王さま。ワシらの着いていくべきお方はやはり、貴方様しかおられませんのぅ」
幸運が重なっただけなのだが、何故か更に忠誠心を高めてしまった。
さて。
「シアン、ここが俺の住んでいる拠点だ」
ずっと放ったらかしだったシアンに、拠点を案内する。
「拠点……ここにずっと?」
その疑問は仕方ないだろうな。正直キャンプ場のテントよりボロいし。
「んー、まあ、俺は今日来たばっかりなんだけどね。ちなみに俺の家はあれ」
一つだけ場違いに建っている、石造りの小屋を指差す。
「あれは、丈夫そう」
「ああ」
「……」
「……」
か、会話が続かん!
「えっと、俺は、実は魔王なんだ」
「そう」
「……驚かないのか?」
「さっき。呼ばれるの、聞いてたから」
「ああそっか」
「……」
「……」
心が折れそうだ。
話題提供のために、俺は俺の持つ能力について、簡単に説明した。
「小屋、創れる?」
「いや、小屋だけじゃないんだが……まあ、材料が足りなくてな。現状、小屋ぐらいしか作れなかったんだ。石を集めてもほんの少しずつしか増えていかないし、さっきインゴットを貰ったけど、あれもダンジョンを組み立てるとなったら、要所要所に使うぐらいにしかならないだろうなぁ……」
俺は溜息をついた。迷宮創造主の力がきちんと発揮できれば、それなりに有用だと思うんだが、いかんせん必要な材料が多すぎる
「……土は使わないの?」
「え? 土?」
「ん、いっぱいある」
シアンの言葉に面食らう。土か。考えなかったな。しかし、今まで地面を写しても土は採取されなかったし、きっと対象外なんだろう……いや待て。
俺は記憶を辿る。草を根ごと掘り起こして素材にした時、当然ながらその根部分には土か付着していた。しかし、それを写真に収めた時は、土を含めて丸ごと消え失せたのだ。
試しに、地面の土をちょっと掴んで手に持ち、写真を撮ってみた。
「お、おお!!」
消えた。土は素材だったのだ! 何に使えるかは分からんが、もしも土の壁とかが出来るなら、かなり助かるぞ。
「ありがとうシアン、気が付かなかったよ! ああ、けど、大量の土を掘り起こすのはそれはそれで大変だな。どっかにスコップでもあればいいんだが」
「魔法、使わないの?」
シアンが小首をかしげる。
「使えたらいいんだけどな」
そのうち覚えられるだろうか。今のところ使える魔法と言ったら、『チャージ』だけだ。それすら命がけである。
「私、やろうか?」
「…………な、ん、で、す、と?」
俺が物凄い勢いで詰め寄ると、シアンは煩わしそうに一歩退いた。やばい、嫌われちゃっただろうか。ここは謝ろう。
「わ、悪い。もしかして、魔法使えるのか?」
「つかえる」
「やったあああああああ!!!」
「わっ、わ!?」
俺はシアンを掴んで持ち上げると、ぐーるぐーると回った。あはははははは、うふふふふふ、ようやく魔法を使える人材ゲットである。妖精の森に向かって毎日祈りを捧げようか。妖精女王教になってもいい。
正直、ガッカリしてたんだよ。ゴブリンと来たら、みんなMPもMAGもゼロだろ? 肉弾戦特化型なのはいいんだけど、やっぱり異世界に来たら、魔法見たいじゃん! 自分はまだ使えないし! 魔法要員欲しいじゃん! うおおお、かなり嬉しい!
少し冷静になってシアンを降ろすと、目を回していた。正直すまんかった。
シアンに頼み、念願の魔法を見せてもらう。
「ん。土を掘る」
シアンはそう言って、大地に向かって手をかざす。
「『ディグ』」
かたちの良い唇が呪文を唱えると、土がモゾモゾと動き出し、ひとりでに穴が掘られていった。穴の横にできた土の山が、どんどんと大きくなっていく。
うず高く積まれた土が俺の小屋と同じくらいの高さになると、シアンは「ダンケ」と言って魔法を止めた。
「おお、おおお! すげえ! シアン、お前すげえよ!」
これが魔法か……感動したわ。そして素材がほっくほくだわ。これだけあれば、土の小屋が三軒くらい建てられるんじゃねえの?
「そう言えば、今のって土魔法か?」
「違う。精霊魔法」
ふむ、そんなものがあるのか。もしかしたら、今魔法を見たことで、ハテナちゃんが都合よく教えてくれちゃったりするんじゃないかな。
俺はスマホを開き、ハテナちゃんを立ち上げようとして、画面を二度見する。
「……増えてるぞ」
新しいアプリが増えていることに気づいた。まさかの新機能追加らしい。今日の俺、ツキまくりじゃねえの?
わくわくしながら、【SP】と書かれたアプリを起動する。
果たして【SP】とは、ステータスポイントの事であった。
どうやらスライムを倒したことで俺はレベルが上がったらしく、そして俺はレベルが一つ上がるごとに五ポイントのステータスポイントを得られ、それを攻撃力や防御力などに、自由に割り振れるらしい。
スキルポイントは無さそうで、ちょっと残念だけど。
どうしよっかな。どうしよっかな。
るんるんと鼻歌を歌いながら俺は考える。
素早さ全振りのロマン仕様とか燃えまくる。
器用さ高めて怒涛のクリティカルも捨てがたい。
スライム倒す時は、攻撃力の低さに泣いたなー。
でも防御力も上げないと、スマホが壊れたら俺終わるからな……。
スマホと言えば、充電のために魔力やMPも大切だ。
うーん。迷う、しかし決めたぞ。
八神拓人 Lv.2
HP 25/30
MP 10/20(UP)
STR 1
DEF 5(UP)
MAG 1
SPD 1
DEX 1
【スキル】スマートフォンLv.3
【称号】魔王、スマホユーザー
ま、これはゲームじゃないんだ。安全志向でいこう。
続いて精霊魔法について確認すると、ハテナちゃんは抜かり無く説明してくれた。
ただ、一部の種族にしか使えないらしく、モチベーションが下がったので斜め読みするに留まった。
何となく理解したところによると、精霊の力を借りることで、あらゆる自然を操ったり、現象化したりできる、要はすごく便利な魔法らしい。
……ちぇっ。使いたかったな。
まあ、今の俺には魔法はおろか、スマホ関連以外のスキルが何も使えない。
ここは、迷宮創造主の力、「迷宮内で死亡した者の能力の一部が献上される」というのを試して、何かしらのスキルを得たいところだ。
というわけで、拠点から三十分くらい歩いたところに、俺はダンジョンを創ってみることにした。
【DC】を開く。
素材が増えたことで、パーツの種類が沢山増えていて心躍る。
【創造可能パーツ】
《建造》
・壁、天井、床(素材30)
・扉(素材10)
・階段(素材20)
《罠》
・引き寄せの香(魅惑草5)
・毒の香(毒草5)
・落し穴(木5、素材1)
・串刺しの落し穴(木5、素材1、鉱物5)
・動く像(鉱物5、魔石1)
《支援》
・癒やしの香(薬草5)
《装飾》
・松明(木1、ジェル1)
・像(鉱物5)
・動く像(鉱物5、魔石1)
【保有素材】
《鉱物》
石(92)銅(30)鉄(60)銀(20)
《自然物》
木(43)土(216)草(107)薬草(48)魅惑草(20)毒草(13)
《魔力物》
魔石(3)ジェル(13)
うーん、実に潤ったものだ!
これは迷宮創造が捗ってしかたないぞ。
ちなみに、パーツの創造に必要な数量は、あくまで目安だったりする。二十パーセント程度までなら、減らしても創造することができるのだ。
その分強度とか、色々と劣化するみたいだけど。逆に多く消費して強化することもできる。
そんな使い方には縁が無いと思っていたが、しかし、これだけ素材が集まったんだ。やってやるぞ!
俺は、アプリ上でまず土の壁を一枚創ってから、多く素材を消費し壁と同じくらいの大きさにした土の扉をその上に重ねて、【決定】する。
するとあら不思議。目の前に扉だけが現れました。
いやー、ずっと気になってたんだよね。壁に扉を付けた時、その扉の部分だけ、壁が無くなるの。どんなに大きくしても変わらないみたいだな。うん、これは便利だ。
扉は完全に開け放した状態にしておいた。
扉を開けていても迷宮内として扱われるのは、確認済みである。扉の中だけ壁を解体した、とかじゃないからな。システム的には壁はあることになっているんだろう。
最初から分かっていれば、暗さに不自由せずにすんだのにな。
俺は再びスマホをいじり、その扉から繋げるようにして天井、床、壁を創っていく。もちろん全部土だ。
また途中で【決定】し、シアンに頼んで創造したばかりの土の床のすぐ隣に穴を掘ってもらう。
「……つかれた」
「おっと、すまん。ありがとな。助かった」
「……ん」
さっきも魔法使ってもらったばっかだもんな。MP切れだろうか。残念ながらまだ迷宮創造は途中なので、この中に入ってもMPは回復しないだろう。
シアンに掘ってもらった穴を、床と壁のパーツでコーティングすると、そこに「鉄製の串刺しの落し穴」を設置。
そこから更に伸ばした床の上に、「引き寄せの香」を置き、素材にまだ余裕があることを確認してから、その奥に更に今度は普通の大きさの扉を設置して、寛げるくらいの適度な空間を創り、これでほとんど終了だ。
最後に、松明を適当に設置していき、オマケとばかりに、「引き寄せの香」の近くに「動く石像」を置いてみた。
「よし!できたぞ!」
俺は【決定】を押す。目の前に、完全な姿となった迷宮が現れた。
「これが俺の初めての迷宮! 放置してウハウハの館だ!」
ふっ、我ながら完璧だ。
ははははは! このダンジョンで、俺は強くなってみせる! いつまでも最弱のままだとは思うなよ!!
次話、「放置してウハウハの館」
拓人は、ようやく初めてのスキルを得る。