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戦力分析

 ゴブリンたちの名前が覚えられないため、勢いで適当に名前を付ける拓人。しかし、ゴブリンたちは大喜びするのだった。

 翌朝、石の上で寝たせいで痛む身体をほぐすと、ゴブリンたちに声をかけ、小屋を解体して出発する。

 エンツォの左腕は、元通りとまではいかないが、かなり良くなったようで、しきりに感謝された。もう血も出ていないし、ちょっと歩くくらいなら大丈夫だろう。拠点に着いたらまた小屋を建て、その中で癒やしてもらうことにする。

 充電の残りは心許ないが、チャージするのは拠点に着いてからにすることにした。充電するのが電気でやるみたいに時間のかかるものなら、その間ずっとゴブリンたちを待たせておくのも申し訳ないしな。

 道中、石や木の枝を見つけると、忘れずに写真を撮り素材にする。

 魔物や動物なんかに襲われることもなく、すぐに拠点に着くことができた。


「これがお前たちの拠点……か」

期待していた訳ではない。まあたかだか九人程度のゴブリンの拠点なんて、こんなものだよな、という感じ。

 十メートル程の高さの木の下に、枝や獣の皮などで作られた小さなテントが十個並んでいた。

 一つ多くないかと聞くと、一つは倉庫として使っているとのこと。中の物を運び出して俺の寝床にしようと言われたが、迷宮創造主(ダンジョンクリエーター)の力で小屋を建てるつもりなので遠慮した。


 早速、昨日と同じようにパーツを選択していき、小屋を建てる。一度解体した事で素材が減ったのと、拠点の場所が思ったより近くてあまり素材を集められなかったことで、本当にギリギリ、と言った感じで何とか昨日と同じレベルの小屋を建てることができた。相変わらず明かりは無いので、中は真っ暗である。いずれどうにかしたいなぁ……。


「さて、と」

小屋の中に布団代わりの毛皮や少量の食料を持ち込ませてもらった俺は、大事な予定があるからと言って、小屋の中で一人にしてもらった。申し訳ないが、エンツォの左腕を癒やすのは少し待ってもらおう。大事な予定とはもちろん、充電のことである。

「うおっ、結構ギリギリだったな」

スマホを開くと、充電の残りを示すマークは赤くなっていた。

 俺は再確認のために、ハテナちゃんからスマホについての説明のページを開く。


・このスマートフォンについて

 このスマートフォンは、所有者の魂と連動しており、その耐久力は所有者の防御力を参照します。動作には魔力を使用しているため、水没などで動作不良になることはありません。

 充電には所有者の魔力を必要とし、他者の魔力で充電することはできません。所有者が本体に手をかざし、『チャージ』と唱えることで、所有者の魔力を消費し充電されます。


 残念ながら、絶対壊れないとか、この世界で最も硬い鉱物を使用しているとか、そういうチートは無いらしい。まぁ元々中国製だもんね。代わりに、俺の魂と連動っていうのはよく分からんが、とにかく俺自身の防御力を上げることで壊れにくくなるみたいだ。とすると、この世界に来たばかりで何も鍛えていない現状、かなり脆いことが予想されるが……。


「とにかく、やってみるか」

俺はスマホを左手に持ち、右手をかざす。

「『チャージ』」

そう唱えた瞬間、お腹の辺りがカッと熱くなり、その熱が身体を駆け巡って右手に集まっていく。これが魔力を使う感覚か、とぼんやりしていると、突如熱の温度が急上昇する。俺の中の何かがみるみると消費されていく感覚がし、何か分からんが、とにかくヤバいと思った。

 俺は何かに押さえつけられるようにして動かせない右手を何とかスマホの前から引き剥がし、強制的に充電を終了させる。

 身体中の力が抜けた俺はその場に崩れ落ちた。

「ぐっ……何だこれ……しんどいぞ……」

荒い息を整え、スマホの表示を確認する。

「これで五%しか充電できてないのかよ……」

俺はガックリと項垂れた。効率が悪すぎる。昨日考え無しにバンバン充電を浪費していた自分をぶん殴りたい。

「それとも、それだけ今の俺が弱いってことなのかな……」

ダンジョン内で何者かが死亡することで、その能力の一部は俺に献上される。昨日のグレイウルフをゴブリンたちが倒した時は小屋も建てていなかったし、仮に経験値システムみたいなものがあったとしても、あれを倒したのはゴブリンなため、俺はまだ何の力も得ていないことになる。

 俺の魔力が上がれば、もっと効率良く充電できるのかもしれない。……俺って実際どのくらい強いんだろう?


 そういえば、と思い至って、俺はカメラを起動し、自分撮りモードに切り替えた。もちろん自撮りのためではない。

 しかし画面は真っ暗だったため、軽く舌を打つと、小屋の中に明かりを入れるために扉を開ける。お、写った。


八神拓人(やがみたくと) Lv.1

HP 8/30

MP 0/10

STR 1

DEF 1

MAG 1

SPD 1

DEX 1

【スキル】スマートフォンLv.2

【称号】魔王、スマホユーザー


 お、おう……。想像以上に弱っちかった。

 これが昨日ハテナちゃんの教えてくれたカメラ機能の一つ。カメラに写した人物のステータスが表示される機能である。名付けるとするなら、「黒き魔王の叡智」(ダークヴァイスハイト)だろうか、ふふふ……。

 格好つけてみても俺のパラメータは変わらない。というか、HPがかなり削られてる辺り冷や汗出るんだが。これってもしかしなくても、さっきの充電のせいだよね?

「あっぶねー! あっぶねええー!!」

あのまま強引に中止しなきゃ、最悪死んでたんじゃねえの? 充電するのも命がけかよ、マジか……。

 しかも、俺のスキルってまさかの「スマートフォン」なのね。称号の「スマホユーザー」共々、何とも言えない気持ちにさせられるよ……。


 他の人のステータスも見て比較しないと、いまいち自分の強さが分からない。強さなんてねーよって感じだけど、それでも分からない。分からないったら分からない。

 という訳で、この群れの中で一番の実力者であるデカゴブのステータスを覗かせてもらった。


デカゴブ Lv.9

HP 220/220

MP 0/0

STR 30

DEF 16

MAG 0

SPD 8

DEX 2

【スキル】棒術Lv.3、気合いLv.2、雄叫びLv.1、鼓舞Lv.1

【称号】力持ち、頼れる男、魔王の配下、魔王に名付けられた男


「お、おう……。協力、ありがとう……」

「ん? もういいんですかい? 何もしてねえですが、何か役に立てたなら光栄です」

デカゴブは何をされたのか分からなかったのか、ポリポリと頭を掻く。

「うん、参考になったよ、ははは……。次はチビリンに頼んでもいいか?」

乾いた笑いをあげてチビリンを呼ぶと、快く引き受けてくれた。

「はーい! まおーさまのためなら喜んで!」


チビリン Lv.3

HP 100/100

MP 0/0

STR 6

DEF 4

MAG 0

SPD 16

DEX 20

【スキル】おねだりLv.2、工作Lv.1、裁縫Lv.1、料理Lv.1

【称号】長の孫、群れのアイドル、魔王の配下、魔王に名付けられた女


 その後こっそり泣いたのは言うまでもない。


 自分のステータスの低さに一頻(ひとしき)り落ち込んだ後、ゴブ爺に呼ばれた昼食の席で、俺は宣言する。

「森に行こうと思う」

分かりました、と頷くゴブリンたち。

 い、いや、何のために? とか、色々聞いてもいいのよ? 会話はキャッチボールって言うし、そんなにすぐ納得されても……。

 そんな旨の事を伝えると、ゴブ爺は朗らかに笑った。

「ほっほっほ、ワシらは魔王さまに忠誠を誓った身。魔王さまがそうされようと仰るなら、そうするまでのことですじゃ。疑問を挟むなど考えもしませんでしたわい」

 相変わらず無駄に忠誠心の高いゴブリンたちである。

「それに、わざわざ説明して頂かなくとも、何か考えがあってのことなのでしょう? 魔王さまの思慮深さは昨日一日で充分に理解しておるつもりですじゃ」

 思慮深いところなんて見せた覚え無いんだが……。自慢じゃないが、結構行き当たりばったりなところあると思うぞ。まあ、何も考えず森と言った訳ではないのは確かだ。


「森に行きたい理由は二つある。一つは、迷宮創造(ダンジョンクリエイト)のための素材集め。もう一つは、毛皮だ」

 チビリンのステータスにあった「魔王に名付けられた女」という表記を見て、俺は衝撃を受けた。女性がいるのは、よく考えたら当たり前だよな。そうじゃなきゃ繁殖できない。他の女性に無理矢理種付けをすることで子孫を増やすタイプのゴブリンも創作物で読んだことはあるけど、どうやらそうでは無かったようだ。これに関しては安心したが。

 俺はゴブリンたちを見回す。うん、みんな一様に腰布だけを身に着けている。あまり見るのは良くないんじゃないかと後ろめたさを感じながらも、その姿を観察する。

 よく見たら胸部が若干膨らんでいる者が数名。あれが女性なのだろうか。サッと目を逸らす。


 ……地球でも、女性が胸を隠さないような国もあるらしい。テレビで観ただけだけど。だが、俺は現代日本人。いくらゴブリンでも、いくらパッと見どちらか分からなくても、女性だと知ったうえでそういう姿を見るのは、何というか……気まずいんだよ!

 やましい気持ちがある訳じゃない。悪いがゴブリンは守備範囲に入らない。そういうことじゃなくて、見たくないものを見てしまったとかそういうんでもなくて、ただただ純粋に、気まずいのだ。しかし、そんな内心を正直に口にするのも何となく憚られる。


「文化とは、大切なものだ。文化的な生活を送ることで、人から舐められず、またよりよい人生を送ることができる。そして、文化の中で特に大切なものが衣食住だ。この内、住処に関しては、俺の能力が使える。食に関しては材料や調理手段などが必要なので、徐々に改善していくしかない。しかし、衣服! これは、森の獣を狩り、毛皮を集めることで、すぐにでも改善が可能だ! 今こそ腰布を取り、文化的な衣服を身にまとって、ゴブリンの知性を他種族どもに見せつける時だ!」

 ペラペラと本当の理由を隠しながら、衣服を腰布から変えてもらえるようにお願いする。

 チラッとゴブリンたちの反応を見ると、なるほど!とばかりに頷き、立ち上がって腰布を……。


「いやいやいや! ちょっと待って! 腰布を取り、って比喩だから! って言うか、着替えるべき服が無いのに脱いじゃったら意味ないでしょうが!!!」


前途多難である。

 俺が……チビリンより弱いだと……。魔王って何なの? ねえ、何なの?

 次回、「妖精の森」

目の前に現れた魔物に、拓人は戦うことを決意する。

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