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迷宮創造主の力

 初めての戦闘で、足を引っ張ることしかできなかったと落ち込む拓人は、自分を庇って傷付いたゴブリン、エンツォを癒やすため、その能力を行使する。

【?】

・アプリDCについて


 このアプリにより、魔王専用技能である迷宮創造主(ダンジョンクリエーター)の力を行使可能です。画面上部には現在位置を中心とするマップが、下部には迷宮創造のためのパーツが表示されます。


 パーツをマップ上にドラッグ&ドロップし組み立てていくことで、迷宮を創造可能です。画面上で創造した迷宮は、決定処理を行うことによって現実世界にトレースされますが、指定された座標に大きな遮蔽物がある場合、処理は中断されます。


 創造した迷宮内(※)では、魔族・魔物に対して自動HP回復、自動MP回復、全ステータス上昇の効果が与えられます。これらの効果は、使用するパーツのレアリティによって高まり、これら以外の効果が追加されるパーツもあります。

 また、迷宮内で死亡した者の能力の一部は、当技能主に献上されます。

※迷宮内とは、上下左右が迷宮パーツで覆われた空間内のことです。


 マップはピンチイン、ピンチアウトによって、拡大縮小可能です。最大で一辺が二キロメートルまで縮小できますが、創造した迷宮の大きさがこれを超える場合は、この限りではありません。

 また、マップ内では魔族・魔物は青、人族・動物は赤のドットで表示されます。しかし、あまりに小さな生物は表示されません。


 迷宮の創造にはパーツが必要です。パーツは、素材を自動的に消費して構築されます。保有の素材で構築できないパーツ、その他条件を満たしていないパーツは表示されません。

 素材は、スマートフォンのカメラアプリで写真を撮ることによって、インベントリに転送される他、迷宮内で死亡した者を吸収することによって、入手可能です。


――――――――――――――――


 と、これがハテナちゃんによる【DC】の説明だ。歩きながらちまちまと写真に撮っていた石ころや木の枝を素材に、石の壁、石の天井、石の床、木の扉を組み立て、俺の初めてのダンジョンである……小屋を作った訳だ。


 ダンジョンっていうかただの小屋なんだけど、でもダンジョンで、自分でも何を言っているか分からんがとにかく、これが正規の迷宮創造主(ダンジョンクリエーター)の力によって生み出された建造物である以上、中に入れば自動HP回復の機能が働くはずである。


 欠損みたいな大怪我にまで効くかは分からんが、その手前の今みたいな状態だったら、時間はかかるだろうが、少しずつ治るんじゃないかと期待している。


 という訳で木の扉を開けると、エンツォを急かし一緒に中に入る。中は何というか、ただの石の空間だった。

 家具なんて無いし、入り口以外の全てが石で出来てるからな。殺風景にも程がある。


 それとね、大問題発生。暗い。窓も無いから当たり前なんだろうが、扉を閉めたら何も見えなくなりそうだ。しかし、閉めないと「上下左右が迷宮パーツで覆われた空間」という条件が満たされないかもしれないので、渋々扉を閉める。うん、何も見えん。


「どうだ、何か変わったか?」


祈るような気持ちでエンツォに声をかけた。あれだけ格好付けておいて効果がない、じゃ申し訳無さすぎる。


「おお……痛みが少し楽になりました。傷口がじんわりと温かい感じがします。熱を持っているのかと思いましたが、嫌な感じじゃなくて、むしろ心地よい温かさです。これは……すごい! 魔王さま、僕なんかのために、ありがとうございます!」


エンツォは感激したような声をあげる。暗闇のせいで姿は見えないが、きっと笑顔を浮かべているんだろう。

 どうやら効果がありそうでホッとした。


「まあ、石とか木の枝ってレアリティ最低だろうし、これで完全に治るかまでは分からないんだが……。少なくとも悪くなることは無さそうだな。暫く様子を見よう。今日はここに泊まるか」


泊まると言っても、この小屋は素材がギリギリだったため、何とか三人が雑魚寝するくらいのスペースしかなく、それ以外は野宿ということになってしまう。

 しかし、そんなにすぐ効果が出るとは思えないし、いくら魔族に有利になるダンジョン内とは言え、手負いのエンツォだけ残していく訳にもいかないだろう。魔物の方だって強化されちゃうわけだしな。


 魔物……か。


「なあ、さっきのって、やっぱり魔物か?」


エンツォの声の聞こえた方向に向かって尋ねるが、返事は全然違う方向から聞こえてきた。ゴブ爺の声だ。扉の向こうから話しているのだろうか、ほんの少しくぐもっている。


 この小屋、石造りの割に防音性皆無だな……。「薄い石の壁」を使用したからだろうか。素材の量的に仕方なかったのだが、密談には向かないようだ。


「いえいえ、先程のは動物ですじゃ。あれは一匹で集団の前に姿を表すのは珍しいですが、よほど腹を空かせていたんじゃろうのぅ。逆に我々の食料にしてやりましょう」


「お、おう……」


 逞しいな。

 この世界じゃ、ましてゴブリンにとって見れば当たり前の事なんだろうが、自分で獲物を仕留めて捌いて食べるようなサバイバルは、現代日本人的になかなかしんどいものがある。この辺も早く慣れなくちゃいけないな……。

 食料無しで泊まる訳にもいかない。その食料のおかげで泊まっていく事になった訳だが、せめてそれが食べれるような獣だったのは幸運か。


「食料と言えば、今朝は食料調達のために人里に行ったんだろ? その食料はどうなったんだ?」


「も、申し訳ないですじゃ……もう残ってはおらんのです」


 またくぐもった声が聞こえる。焦れったいので中に入って来いと伝えた。こちらが出ていっても良かったが、この真っ暗闇にエンツォを一人残すのは気が引けたのだ。


 外の光が闇を切り裂き、ゴブ爺が入って来る。

 すぐに扉が閉まり、小屋の中は再び暗闇に包まれた。


 ふと思いついて、スマホを取り出し、懐中電灯のアプリを立ち上げる。

 ゴブ爺とエンツォの驚くような顔が照らし出された。


 うお、ビビった。懐中電灯で照らされた顔って人間でも怖いのに、それがゴブリンだと破壊力抜群だ。


「こ、これは……光の魔術ですかのぅ? いやはや、さすが魔王さま」


 ゴブ爺が勘違いしていたが、説明するのも面倒だったので、似たようなものだ、とだけ返しておく。


 懐中電灯のアプリを入れておいて良かった。これでちょっとはマシだろう。

 充電を喰うだろうが、ハテナちゃんによると俺の魔力でチャージできるらしいので問題ない。まだ試していないので、後で必ずやってみようと思う。

 今はそれよりさっきの獣のことが気になり、情報が追加されてはいないかと【?】を起動する。


【?】

・このスマートフォンについて

!このアプリについて

!アプリDCについて

!アプリカメラについて

・狭間の草原について

▼魔族について

▼動物について

 

 何か色々と変わっている。減っている項目があったので焦ったが、「このアプリについて」を読むと、見出しの数が一定以上になると一部の見出しは大見出しに統合されます、と書いてあった。


 「!」で始まる項目は新しく情報が追加されたもの、「▽」で始まるのは大見出しで、それを選択するとカテゴリ内の更に細かい目次一覧が出てくるらしい。「▼」で始まるのは、大見出しの内、そのカテゴリ内に新しい情報が追加されたもの、とのこと。

 試しに一つ選択してみると、こんな画面が出てきた。


【?】

▼動物について

 !動物とは

 !グレイウルフ


 動物関連の情報がまとめられているようだ。この先新しい動物に出会うと、このカテゴリ内に追加されていくんだろう。

 今はまだ一種類しかないけど、何種類もの情報が集まったら、項目別に分かれてないと見にくいもんな。ありがたい配慮だ。


 動物とは、「体内に魔石を有さず、人族語を話さない種族のこと」、だそうだ。

 魔物の情報は無いので分からないが、確か魔族は「体内に魔石を有し、魔族語を話す種族」だったので、恐らく魔石とやらの有無がポイントなんじゃないかと思う。

 今度はグレイウルフについて見てみる。



・グレイウルフ

平均体長……1.8〜2.3m

平均体重……45〜50㎏

生息地……草原、森

 雑食。警戒心が強いが、空腹時には凶暴になる。通常群れで行動するが、空腹だと群れ内で争い共食いをするため、凶暴化した群れというのは滅多に見られない。単独の方が危険度の高い珍しい獣である。



 うーん、図鑑的と言うか、あまり役に立ちそうにない情報だった。弱点とか載ってたらいいんだけどな。

 分かったのはさっきの狼は腹ぺこだったって事だけだ。

 それについても、ゴブ爺からの情報で既に分かっていたことである。

 ゴブリンについての情報はなかなか役に立ったため期待していたんだが、少しガッカリだな。


「まあいいや。とにかく今日はここで野営だな。あと一時間くらいで拠点に着けたはずだが、エンツォを放ってはおけまい。あー、さっきのグレイウルフを夕食にしよう。捌いてくれるか?」


 俺には動物の捌き方などさっぱりなのでそう頼むと、ゴブ爺は「もちろんですじゃ、今夜は魔王さまを歓迎する宴という事ですな!」と喜んだ。どうやら宴になるらしい。

 迷宮創造主、なかなかクセがあるが、面白そうな能力だ。何より、微々たるものとは言え回復手段として使えて良かった。グレイウルフの肉、か。さて、どんな味がするものかな。

 次回、「九人のゴブリン」

拓人は、ゆっくりと心を開いていく。

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