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ポイズントード

 魔王についての情報を知り動揺したタクトは、思わずシアンを抱きしめてしまう。

 シアンの細い肩をぎゅっと抱く俺の耳に、突然チャラリラリーン、とレベルアップ音が聞こえた。

 俺は一気に我に返り、慌ててシアンから飛び退く。


「すまん!!! ちょっと色々あってテンパってた!! その、変な意味とか下心とか、そういうんじゃないんだ!!」

「変な意味?」

「いや、だから違うんだって!! 何でもない! 何でもないから!! 気にしないでくれ!!」

「……ん」


 首をかしげながらも納得するシアン。やばい、冷静に考えるとやばい! なんつーことしてんだよ! 俺! 

 シアンの儚くも柔らかい身体の感触が消えなくて、俺は心の中で頭を壁にガンガンと打ち付ける。


「し、しかしさっきの、レベルアップだよな。何で急に上がったんだろうな?」

 沈黙が気まずくて咄嗟に出した話題だったが、考えてみれば、本当に何でだろうか。

「魔物、いっぱい引っかかった」

「む、そうか。罠に落ちた魔物が、ちょうど今死んだのか? ったく、なんてタイミングだ……いや、いいんだけどね……」

「ん。もうちょっと頑張る」

 そう言って再び送風を始めるシアン。


 穴の底を覗いてみると、六体もの魔物が串刺しになって息絶えていた。

 魔石や肉などは売ってしまうため、『吸収』はできないが、スキルだけでも貰っておこう。

 【DM】を起動すると、リストに新しい迷宮が追加されていた。これがここの迷宮か。


【DM】

放置してウハウハの館Ⅱ

受領可能技能一覧

 臭い息Lv.4、隠身Lv.1、水泳Lv.2、自己強化Lv.1、呪いLv.1


 ……うん。まさかナンバリングされるとは思ってなかった。何とも言えない「やっちまった」感がある。

 ま、まあ名前なんて俺以外に分からないし、何でもいいよな!

 しかし、『臭い息』とは……。しかもレベル四。あのね、強力なんだろうなってのは分かるよ。分かる。でもね、これ使い始めたら人として終わりな気がするんだ……。

 そして呪い、か。これって、呪いをかける事ができるなら良いけど、逆にスキルを取ることで呪いにかかるとかいうパターンじゃないよな? マイナス効果付きのスキルみたいな。

 スキルの内容が分からないと、どうも取りづらい。長押ししたら表示されたりしないだろうか。……あ、できちゃった。


【DM】

・呪い

最大HPの1割を代償に、対象に全ステータス弱化の効果を与える。ただし、この使用によってHPが0になることは無い。


 おお、つまりデバフか。これは便利そうだな。取っておこう。

 他のも調べてみるか。


【DM】

・臭い息

MP10を使用して、ランダムな状態異常効果が発生する息を吐く。

・隠身

最大MPの5%を使用して、発見されにくくなる。

・水泳

水中での動きが機敏になる。

・自己強化

最大HPの1割を代償に、一定時間STRとDEFを強化する。強化率と効果時間はスキルレベルに準ずる。

ただし、この使用によってHPが0になることはない。


 何これクソ便利。何でもっと早く気づかなかったのか……。

 オリジナル版の放置してウハウハの館(ホイホイハウス)で、取らずにいたスキルも確認してみるか。


【DM】

放置してウハウハの館

受領可能技能一覧

 噛み付きLv.1、消化液Lv.1、雄叫びLv.2、回し蹴りLv.1、槍術Lv.1、大剣術Lv.2、生活魔法Lv.1


「増えてる? ってか、槍術!!? 大剣術まで!?」

 

 迷宮から漏れ出た香に引っかかった魔物がいたのか? でもこれ、武器スキルと生活魔法とか……人間、じゃないよな?

 背中を冷たい汗がつたう。

 もしかしたら俺は、大変なことをしてしまったのかも知れない。

 ……怖いけど、行って確かめるしか無いだろうな……。

 スキルは間違いなく有用だ。しかし、これを受け取ってしまったら、俺はどこか遠く……引き返せないところに行ってしまう気がする。

 俺はギリギリと歯を食いしばり思い悩んだ。――すると突然、緊迫した声が届く。


「――避けて!!」

「えっ?」

 突然のことに呆けてしまい、次の瞬間には全身に衝撃が走った。

「ぐっ……いったい何が……」

 遠くなりそうな意識を必死で繋ぎ止め、目の前の災厄を見る。

「おいおい……何だよその大きさは……」

 そこでは、三メートルもの大きさを誇る紫色のカエルが俺を見下ろしていた……。


「タクト、ごめんなさい。私の責任。私が引き寄せた」

 ――引き寄せの香か。

「いや、俺のミスだ。香が外に出て行きやすいようにと、入り口をデカく作りすぎた」

 今更悔やんでも遅い。

 ただでさえ戦闘で体力が減っていたところに、さっきの一撃、そしてこの見るからに明らかな強敵だ。

 あと一撃でも喰らったらヤバいかもしれない。

 リアルな死の危機に、膝が笑う。カエルに睨まれた魔王だ。


「くっ、しかもゴブリンたちは出かけてて、俺たち二人か。こりゃ手段選んでる場合じゃねえな」

 俺は心を決める。

「シアン、ちょっとだけでいいから時間稼いでくれ!」

「んっ!」

 俺が頼むと、シアンは炎の塊を作ってカエルに投げつけた。

 カエルはこれを脅威と感じたのか、シアンに向き直り、長い舌を鞭のようにしならせて応戦した。

「シアン、無茶するなよ……」

 俺は祈るような気持ちで、先ほど落としてしまったスマホを引ったくると、保留しているスキルをすべて入手する。一つ一つ選んでいる時間はない。全部受け取る分にはワンタッチで済む。

 ……俺が殺したかもしれない人間のスキルだろうと、背に腹は変えられない。

 それからさっきレベルアップした分のステ振りをしていない事に気づき、その五ポイントを腕力に注ぎ込む。

 HPの残りが二という表示を見て、思わず防御に振りそうになったが、ここまで減ってたら、一撃喰らえば終わりなことに変わりはないだろう。


 ちらりとシアンの様子を見る。カエルの巨体に阻まれて姿はよく見えないが、炎の塊が飛び回っているところを見ると、まだもう少し大丈夫そうだ。

 俺はカメラを起動させ、カエルを写す。


ポイズントード Lv.28

HP 426/480

MP 60/60

STR 62

DEF 31

MAG 38

SPD 34

DEX 24

【スキル】飲み込むLv.4、張り手Lv.2

鞭術Lv.2、跳躍Lv.3、毒魔法Lv.5

【称号】災厄


「はは……はは……」


 絶望的な数値だ。見なければ良かった。しかもこいつ魔物だろ、迷宮内で強化されちゃってるんじゃないか? ……何で俺まだ生きてるんだろ。

 何より最悪なのが、カエル野郎がまだMPを完全に温存してるって事だ。使うまででも無いと思っているのかもしれない。

 俺は逃避したくなる気持ちを何とか抑えて、シアンに加勢する。


「はああああっ!!」

 繰り出したのは、〈自己強化〉からの〈大剣術〉によるなぎ払いだ。

 ぶっつけ本番だったが、手にしたハルバードを大剣と見立て、なんとか技を放つことに成功した。

 オタクとしての妄想力が役に立った。子供の頃、箒を聖剣に見立ててチャンバラ遊びをした思い出が蘇る。

 だが正直かなり無理矢理だ。大剣よりはまだ斧の方が近い。ハルバードの刃は、大剣と違って先の方にしか無い。が。

 的がこれだけデカいんだ。


「――当たらねぇわけ、無いだろ!」

 俺の渾身の一撃はカエルの脇腹を軽く切り裂き、青い血しぶきが舞う。

「よし! 削れる!」

 攻撃が通りさえすれば希望はある。

 カエルは煩わしそうにこっちを睨んで舌の鞭を伸ばして来たが、カエルの方へと転がり込むことによって回避する。

「シアン、体の近くは安全地帯だ! 舌は真下に届かない! その巨体が仇になったな!」

 一瞬昂揚するも、今度は張り手が飛んでくる。

「うおっ! っぶねー!」

「タクト、気をつけて!」

「近くは近くで別の手段があるってか……」

 気を引き締めて、再び〈自己強化〉と〈大剣術〉のセットで挑む。〈自己強化〉で死ぬことが無いなら、どうせ雀の涙なHPだ。気兼ねなくバンバン使うことができるな。

「ゲロゲロゲロゲロ……」

 またしても切り裂かれた体に、カエルは不満げな声を上げる。……嫌な予感がする。

「シアン、何か来るぞ!」


 はたして、予感は正しかった。

 カエルの真下に紫色の巨大な魔法陣が浮かび、輝き始める。

「毒魔法か!?」

 ……今の状態で毒なんて喰らったら即死するな。

「くそっ!」

 初見の魔法の避け方なんて分かんねえぞ!

「タクト、まかせて!」

 シアンがそう言った瞬間、迷宮内に豪風が巻き起こる。俺は吹き飛ばされないよう、身を低くして必死に踏ん張った。


 永遠のような一瞬が過ぎ去り、気づけばカエルの魔法陣は掻き消えていた。

「どうなったんだ? いや、何でもいい、魔法に失敗した反動なのか知らんが、硬直している今がチャンス!」

 石像のように固まって動かないカエルに肉薄しようとするも、シアンに止められる。

「待って、タクト! 今のうちに逃げよう!」

「えっ?」


 ……確かに、このまま戦っても勝ち目は薄い。それこそ絶望的な程に。

 だが、逃げるための通路はほとんどカエルの巨体で塞がれているし、逃げると言ってもどこから……。


「――!」


 瞬間、閃いた。

「シアン、壁だ! 壁側に寄れ! 早く!」

 俺は絶叫のように指示を出して、スマホを手繰る。

 一度使って、効果が無かった方法。だが今は、これに縋るしかない。

 今にもカエルが動き出しやしないかと、手の震えを必死で押さえて作業する。


「タクト! はやく!」

「もう終わる……っ! はっ、喰らいやがれ、カエル野郎……」

 何かを感じたのだろうか。必死の形相で動こうとするカエルを睨みつけ、俺はなんとか準備を終えた。


 祈りを込めて、その希望に名前を付ける。


「……ジャッジメント!!」


 瞬間、辺りの壁が消え失せ、質量を伴った天井が裁きのように落ちる。


「外に出るんだ、避けろシアアアアアアン!!」

 

 叫びながら外に飛び出した瞬間、爆音とともに土埃が舞う。

「ケホッケホッ、シアン、無事か?」

「……ん、大丈夫」

 その言葉にホッとして、目の前の迷宮だった物を見る。

「これだけ質量があればペシャンコだろ。少なくとも出て来れはしないだろうな」


 だがしかし、俺の耳に届いたのは、いつもの間抜けなレベルアップ音ではなく――着信を告げる電話のベルだった。

 強敵だった。一歩間違えていれば死んでいたな。そして、電話だと……? いったい誰だ……?

 次話、「邪神」

タクトに告げられた、この召喚の真実とは。

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