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Prologue / 魔王召喚

Prologue


 肉の焦げた臭いがする。仲間の肉だ。

 俺は燃える町の中をふらふらと彷徨う。

 帰って来たら、町が爆ぜていた。

 俺たちにとって、初めての町だった。


 瓦礫の影に仲間を見つけた。

 仲間は俺に駆け寄ろうと、小さな身体を懸命に動かし

「まおーさま、まおーさま」

 次の瞬間には、首が落ちる。


 仲間を殺した男は剣を振って血を飛ばし、挑むようにこちらを見た。


「お前だけは……許さねえ……」


 その日、その世界に、本当の意味での魔王が生まれた。




(そうだ、俺、ゴブリンになろう)


 現実逃避だが、それはいい考えに思えた。


(俺、ゴブリンになったら、魔王を召喚するんだ)


 ――つまり、俺、八神拓人(やがみたくと)は混乱している。

 そんなことを言ったら混乱するだろうとは思うが、すでに混乱しているので混乱している。だめだ、何言ってんのか分からん。落ち着こう。とりあえず状況確認だ。


 今朝、俺はいつも通り寝不足の状態でなんとか起きて、いつも通り走って学校に向かっていたわけだ。

 俺の通う高校は走れば五分くらいの距離にあって、いつもギリギリまで寝ている俺は、走って学校に向かうのが常になっていた。

 とにかくそこまでは、普段と何ら変わらない、俺の冴えない日常だった。


 あれ、おかしいな? と思い始めたのは、校門が遠くに見えた頃だ。

 辺りに人の気配がない。いつもなら俺と同じように走る生徒や、門の横で俺達を急かす先生の怒鳴り声が聞こえるはずなんだが、不気味なほど静かだ。


 どくり、と鼓膜を心臓の音が叩く。

 ――妙だ、何かがおかしい。もしかして――猛烈に嫌な予感に捕らわれながらも、俺は足を休めることなく走りつづけた。

 そして門に辿り着いた時、俺は衝撃を受けることになる。


「まさか、そんな……嘘だろ!?」


現実を認めたくなくて、震える手でスマホを取り出す。すがるような気持ちでそこに書かれた文字を見るが、どうやら間違っていないようだ。


「今日……祝日だった……」


俺はがっくりとうなだれる。どうりで誰もいないわけだ。こんなことならもっと寝られたはずなのに……。

 あーあ、と思いながら、緩慢な仕草でスマホをポケットに入れようとする。


「あっ」


不幸とはこうも続くものなのか。ポケットに入り損ねたスマホが地面を滑り、門の内側に入ってしまった。

 神を呪いながら門の隙間から手を伸ばすが、微妙に届かない。


「おいおいマジかよ、勘弁しろよ」


勘弁するべきは自分のドジさ加減なのだが、棚上げしてひとりごちた。


 仕方ない。俺は鞄をアスファルトの上に置くと、ひょいと飛んで門にぶら下がり、慣れた仕草でよじ登って反対側に降り立つ。ほぼ毎日の事なのでお手の物だ。

 ふっ、こんなところで絶対遅刻魔(アブソリュートレイト)のスキルを使うことになるとはな……。


 なーんてくだらないことを考えながら、スマホを拾おうと一歩踏み出したところで、異変に気付いた。

 平日だと思ってたのに祝日だったとか、そんなレベルの話ではない。本物の異変である。なにせ地面が光っているのだ。しかも俺を中心に、円を描いて。


「なっ!」


 やばい、と思った時には身体が動いていた。力の限り地を蹴り、転がりながら目的のブツを掴む。ほっとした瞬間、突然増幅した地面の光に思わず目をつぶり……気がついたら見知らぬ大地に横たわっていた、という訳である。


 実のところ、俺はオタクだ。この程度のことでは動じないだけの知識はある。ここまでだったら、あーはいはい、テンプレ異世界召喚ねー、なんて笑いながら受け止めることができただろう。


 いやすまん、嘘だ。ああいうのは創作だって分かりきっているから楽しめるんだ。

 実際にこの身にそんなことが起きたら、数々の好物料理やアニメと決別しなければならない悲劇に嘆かざるを得ない。


 ……家族や友人が真っ先に浮かんでこないあたり、我ながら人間性を疑うが、どうしてもそういう関係を築けなかったんだ。仕方がないだろう。


 その時俺にはまだ余裕があり、妙な高揚感と底知れぬ不安で多少冷や汗をかいてはいたものの、召喚した勇者を奴隷扱いするパターンじゃないといいなぁ、これからどう立ち回るべきか……なんて、思考を巡らせることができていた。


 何にせよ、いつまでもぶっ倒れている訳にはいかない。

 俺はゆっくりと、一つ一つの動きを確かめるようにしながら身体を起こし、辺りを見回す。そして固まった。


「ええーっ!?」


 第一印象。それは人間関係において、特に重要とされる。

 それが勇者召喚みたいに重要な場だったら、尚更だろう。


 腑抜けを演じて油断させる手もあるが、それより俺は、最初に決まりそうな諸々の条件を交渉で有利にするべく、不敵な感じで振る舞おうと思っていた。

 だがしかし、思わず出た素っ頓狂な声に、密かに立てていた作戦は台無しである。


 言っておくが、俺は変人ではない。理由もなく大声をあげたりはしない。

 原因はこの……目の前に跪く、緑色の肌をした者たちのせいだ。うん、緑色。


「……ええーっ!?」


異常事態である。平日だと思っていたら祝日だったってことよりも、突然地面が光り出すことよりも、もっともっと異常。


 異世界の住人ってもしかしてみんな肌が緑色なの? というか耳長いけど、もしかしてエルフ? それとも竜人とか、亀の獣人とかかなー? 遠い目をしながら考え込む俺に構わず、緑色の者たちが一斉に声をあげる。


「「「魔王様、どうか勇者を倒してください!」」」


「えええーっ!?」


だよね、君たちどう見てもゴブリンだもん。……ええーっ!?

 次回、「持ち込まれたスマートフォン」

無我夢中で掴んでいた。それが俺の行く末を左右するなんて、知るはずも無かったんだ。

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