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恋のキューピッドは小悪魔天使 3

 そのころ智と茉莉は、順路に沿って館内を回っていた。

 里山の川のようすを切り取った水槽は子どもが立った目線の高さに水槽の側面がくるように計算されているようで、大人の身長には少し低め。水槽を上から見るか、膝を折って横から見るか。

 水深は思ったより浅く、陸上の繁った植物の陰に魚を狙うイタチのような動物の模型まで展示されていた。

 水槽のなかには、側面に水玉模様が入った大小の魚が悠々と泳いでいる。


「結構怖い顔をしてる、歯もギザギザだ」

「そうだね」


 化粧塩をして串に刺して焼けば美味しいだろうな、という考えはここでは御法度だろう。苔を岩からかじりとる魚の歯は鋭く、噛まれたら痛そうだ。

 茉莉は軽く膝を折って、なにやら真剣に水槽をのぞきこんでいる。そんな茉莉も可愛いな、と智が鼻の下を伸ばしたとき、それは暴力的に智の目に入った。つまり、屈んだことによって、普段より背の低くなった茉莉の胸のグレートキャニオンがちらりとのぞいたのだ。慌てて目を反らす。いやしかし、絶景をもう一度。智がまたそろそろと視線を戻すと、今度は茉莉と目が合った。ラッキースケベの神は二度は微笑まなかった。智はぎこちなく笑う。


「なに見てたの」


 茉莉と視線の高さを合わせて膝を折る。白や暗赤色の斑点もようのねずみ色した魚が泳いでいるばかり。かと、思われたが、視界に違和感を覚えて、茉莉と同じように水槽の中に目を凝らす。

 一匹だけ、暗赤色の斑点が二個くっついて見えたように思う。


「碓氷くんも気付いた?」

「なんか、ハートっぽい模様の魚がいた……?」

「大発見だね」


 茉莉の嬉しそうな笑顔に、その瞬間、智は撃ち抜かれた。



「茉莉ちゃんお待たせ~、あれ」


 パンが入っているとおぼしきナイロン袋を理に持たせ、自分はペンギンのぬいぐるみを抱えた有紗が合流した。

 ペンギンのぬいぐるみは15センチほどの大きさで、ずんぐりむっくり、モコモコしている。それを抱っこした有紗は、嬉しそうに茉莉と智に手を振りながら近付いてきた。


「もうぬいぐるみ買ったの?」

「だって、数量限定なんだもん。売り切れる前に欲しかったの」

「そっか、もうすぐ赤ちゃんペンギンお披露目の時間だよ、いこうか」

「うん、あ、私、さとちゃんと手を繋ぐから、茉莉ちゃんは智お兄ちゃんと繋いでもらいなね!」

「茉莉ちゃん、繋ごっか」


 そういうと、有紗はさっさと理の手を取る。智はごしごしとズボンで手汗を拭くと、茉莉に手を差し伸べた。


「あ……大丈夫」


 茉莉は手を顔の前で振ると、理と有紗の後に続いた。


 ペンギンの赤ちゃんは、ペンギンの水槽で行われた。コンクリートを岩場のようにあつらえ、白いペンキで氷っぽく演出している。綿のようなモコモコの羽毛に埋もれてヨタヨタ歩く様は、ぬいぐるみが歩いているよう。水槽の前は混雑を極めていて、有紗の身長では人の壁に阻まれて見えない。

 理に抱き上げてもらった有紗は、興奮して頬を薔薇色に染め、目をきらきらさせて赤ちゃんペンギンを熱心に見つめていた。


 大水槽を過ぎると、深海の世界の展示ブースへと入っていく。通路にもクラゲのイラストが描かれ、ブラックライトで白く浮かび上がっていた。

 薄暗い展示室は混雑している。幻想的な水槽に足を止め、写真を撮ろうと何度もシャッターを押している人たちと、先に進みたい人でもみくちゃになったまま、四人は出口までようやくたどり着いた。


「有紗ちゃん、楽しかった?」

「うん、ありがとう。茉莉ちゃん、さとちゃん、智お兄ちゃん」


 三人の高校生たちは、どういたしまして、と返して昼食をとるべく近くのショッピングセンターを目指した。


「あ!!」


 ショッピングセンターまでの道すがら、有紗が突然叫び、おろおろと動揺し始めた。


「どうした?」


 有紗は真っ青になって立ちすくむ。目には涙が浮かびだした。


「ペンギンちゃんが……ペンギンちゃんのぬいぐるみがないぃぃぃぃ……」


 そういえば、と三人は有紗を見て今さら気付いた。大事に抱えていたぬいぐるみを無くしたショックとパニックでメソメソと泣き出した有紗に、三人は顔を見合わせる。


「有紗ちゃん、いつまでぬいぐるみ持ってたっけ」

「覚えてない、人多かったし、どこかで落としたのかも」

「ごめん、有紗。気づかなくて」

「とりあえず、落とし物が届いてないか、水族館まで戻って聞こう」


 四人は水族館に戻った。再入場はできないため、入り口のスタッフに事情を話して、中のスタッフに連絡を取ってもらう。

 しばらく待たされて、返ってきたのは、「ペンギンのぬいぐるみの落とし物は届いていないそうです」という言葉だった。

 もう一度購入しようにも、赤ちゃんペンギンのぬいぐるみは完売してしまったそうで、入り口スタッフの女性もすまなそうな表情で四人の様子をうかがった。


「また来よう」


 落ち込む有紗に声をかけ、なんともいえない雰囲気で水族館を後にすることになった。






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