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友情以上の恋未満 2

 その日の試合は一応勝った。


 とはいえ、いつもは絶妙な連携プレーに相手チームを圧倒させ、味方を引っ張っていく三人の動きがぎこちない。

 理と智、二人の間になにかがあったことは主将や先生にはバレバレで、二人にはその後の練習に特別メニューが追加された。サッカーは個々の完成度も大事だが、それ以上にチームプレーが大事なスポーツだ。三年生の引退も間近なこの時期の試合に、わだかまりをフィールドに持ち出すならレギュラーから外すとまで宣告されていた。


 理もまた、プライベートな怒りを試合中にもちこんでしまった自分に落ち込んでいた。


 しかし、苛立ちはすぐには治まってはくれない。ちらちらともの言いたげに理を見る智を大人げないとおもいつつ無視し続けた。昼の休憩に入ると理は、大量に持たされたサンドイッチの入った弁当箱を抱えて、一人、木陰に入った。


「どうすんだよ、これ」


 茉莉に渡された大量のサンドイッチ。智の好きな照り焼きチキンとポテトサラダが入っている。

 理と佳祐の分もあるのだそうなこの量は、自分ひとりの胃袋には持て余すことは明白だった。

 理はハムと玉子焼きのサンドイッチを摘み、口に運ぶ。塩もみをしたきゅうりのコリっとした歯ごたえが口の中でいい音を立てる。


「だいたいさ、好きとか考えたことなかったって言ってなかったっけ? どこでなにがあってこんなもん差し入れする気になったんだよ、バカ茉莉」


 先日、いとこの有紗と行った水族館。有紗のぬいぐるみを得ようとストラックアウトで華麗なシュートを決めた智に惚れてしまったのか。

 いかにも智らしいボディコンタクト。ギュッと握られた肩の痛みを思い出して、理は左手で右肩にそっと触れた。


『俺に任せろ』


 その意味は瞬時に理に伝わった。思えば、茉莉目当てについてきたものの、人で混雑していた館内では二人っきりにはなれなかっただろう。伊織兄の薫陶を受けておませに育っている有紗は、智の恋心を敏感に察知して、面白半分に茉莉とくっつけようと画策していたようだったが、それも有紗のぬいぐるみ紛失事件でうやむやに終わった。

 別に、茉莉の恋を応援しないつもりはない。

 いくら自分が、自他ともに認めるシスコンといえど、茉莉とどうこうなりたいとは思っていない。

 そう、それは確かなのだ。

 茉莉が智を好きならば、応援する心づもりはある。


 なのに、そう、どうして今、この弁当をひとり占めしてしまっているのか。


「好きなら好きだとはっきり言えばいいんだよ。それに、智も智だ。茉莉の事が好きなんじゃなかったのかよ」


「理…」


 遠慮がちに声をかけられて、理はびくっと肩を震わせた。智の声だとすぐに分かった。

 愚痴が口から出ていたのを聞かれてしまっただろうか。

 振り向いた先には、神妙な顔をした智が立っていた。


「なに」


 我ながら愛想もない返事がでた。これではいつまでもむくれている子どもみたいだ。いや、俺は不誠実な態度をみせる智に怒っているのだから、これでいいのだと自己を擁護する。

 智は無言で木陰に入ってきて、少し距離を取って芝の上に腰を下ろした。声をかけたくて来たものの、なんと言い出してよいかと悩んでいるようだ。しばらく二人は無言で時を過ごす。理の立てるコリコリとした咀嚼音だけが、セミの鳴き声に交じって聞こえた。


「ごめんって」


「なにがだよ」


「だから、ファンの女の子と仲良くして?」


「なんで疑問形なんだよ」


「だって、理はそれで怒ってたんだろう?」


「ったく、何にも分かってねーな」


「分かってるつもりだけど。俺が茉莉ちゃんを好きなら、よそ見するなよってことだろう?」


「そうだよ、分かってるなら、あんな愛想よく相手することないだろう」


 そんなに茉莉のことが好きなら、泣かせないで大事にしてくれるなら、茉莉を守る役目を智に譲ってもいいって、少しだけ思っていたのに。こんなやつ不合格だ、と理は目の前の敵を睨む。

 そんな心中を知ってか知らでか、智はへらりと表情を緩めた。


「だってさ、マネージャーでもない、サッカー部に兄弟がいるわけでもない、応援団や、うーん、ともかく自分の時間を自由にしていい休日にわざわざスタジアムまで俺らの応援ためだけに来てくれてるんだぜ。そんな気持ち考えたら、ありがとうって言いたくならない?」


 それは、間違ってはいないけど、でも、と理は逡巡して、はっと我に返った。


「俺ら、じゃなくて、アイツらはお前を見に来てるだけじゃねーか。それに、あわよくばお前の彼女になりたいって下心満載で寄って来てるんだろ」


「だから、冷たくあしらえって?」


 そんな言い方をされたら、自分の方が非道い人間みたいじゃないか、と理は唇をかむ。


「べつに。あいつらの中から彼女選ぶんなら俺には関係ないけどな。茉莉はやらねぇ」


 くすっ、と智が笑う。まるで微笑ましいものをみたように。


「理って、茉莉ちゃんが大事なんだね。まるで茉莉ちゃんの騎士ナイトみたいだ」


 悪いかよ、と理は心の中で毒づく。小さいころから大人には百合姉と比較され、男子からは体型のことをかわかわれがちな茉莉を守ってきた意識はある。自分は茉莉をドジだのバカだの言っても。たとえ茉莉の腕っぷしは強くても、中身は繊細な女の子だと思っている。そこまで考えて、理は頬に熱が集まっていることに自覚した。


「茉莉ちゃんのことは好きだよ。なんだか、なかなか彼女を前にすると告白できないけど。好きって自分から伝えるのってこんなに勇気のいるもんなんだって知らなかった」


「智……」


 理は茉莉の作った弁当箱を智の前にそっと押し出した。自分の昼飯を食べたであろう智は目を輝かせて、照り焼きチキンのサンドイッチを手にした。食べすぎると午後の練習で吐きそうになるな、と笑いながら。

 うまいうまいと食べる智に、すこしだけホッとする。


「俺、今まで自分からは告ったことないからさ~」


 笑顔でそう暴露した直後、智の手からポテトサラダのサンドイッチが奪い取られた。 


 



  

 


 

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