恋する少年はゴールを決められるか
「本日お買い上げのレシート3000円で一回、か」
理たちはしろかもめ水族館ペンギンの赤ちゃんお披露目イベントのストラックアウトに参加すべく一階に降りた。
参加要項が書かれたチラシが貼られていることに気付いた四人は、それを確認する。賞品が豪華なのと、サッカー経験者なら簡単とはいわなくても、そこそこ成績が残せるゲームなだけに、もしかすると年齢制限や経験者は参加できないなどのルールがあるのではないかと思われたが、そういったことはなかった。ただ、本日分のお買い上げレシートを見せるだけ。しかし、3000円分で一回というのは、なかなか高額なのではないか。レストランでお昼ごはんを食べたレシートを合わせても4000円弱。チャンスは一回きりだった。
「有紗やる!」
やる気を見せている有紗を連れて、四人はイベント受付に近付いた。長机の前に座るしろかもめTシャツを着た女性に、グリル亭のレシートを渡す。受付の女性は理たちと智のレシートを合計して、「あと2080円で二回できますけどいいですか?」と訊ねた。
はい、と答えると、確認済みのハンコをレシートに押して、小さな紙片に『1』と書き手渡してきた。どうやらこれをストラックアウト担当の係員に渡せばいいらしい。
順番待ちの列に並ぶ。景品がなくなり次第、イベントが終わるとチラシには書いてあったので、自分の番が来るまで有紗はハラハラと景品棚のペンギンのぬいぐるみを見守った。
「えいっ」
勢いをつけて有紗が蹴ったボールは、ゴロゴロと転がってストラックアウトの台座の間を転がっていった。
あと8球。ぬいぐるみを手に入れるには、もう後がないことは有紗にもわかっていた。緊張でカチコチになっている有紗の前に、ボールが置かれる。有紗が濡れそぼった捨て犬のような顔で振り返った。おもわず理は手近なスタッフに声をかける。
「あの、すみません。代わっても大丈夫ですか?」
声をかけられた男性スタッフは、嫌な顔をするでなく頷いた。
「ええ、お兄さんですか? 構いませんよ。親子で挑戦される方もおりますので」
実の兄ではないのだが、と理は一瞬思ったが、口にも表情にも出さない。「ありがとうございます」と笑顔で返した理の肩に智の手が置かれた。一瞬、ギュッと肩を握られる。痛い、と抗議の声を上げる間もなく、智は有紗の元に駆け寄っていた。
「よ~し、有紗、お兄ちゃんとバトンタッチだ」
智が赤いじゅうたんを踏む。ボールをすくい上げるようにリフティングを繰り返すと、鮮やかに右上段の『1』を撃ちぬいた。あまりに華麗なシュートに野次馬がどよめく。そのどよめきは、智がパネルを撃ち抜く度に大きくなり、最後に『8』のパネルを抜いた時には拍手に変わっていた。
帰りの電車の中、今度はしっかりとペンギンのぬいぐるみをショルダーバッグにしまい込んだ有紗は、茉莉と肩を寄せ合って眠り込んでいた。
「なにむくれてんだよ」
「べつに」
有紗の欲しがっていたぬいぐるみを獲ってくれたことには感謝している。けれどまあ、美味しいところをかっさらわれた感はくすぶっていた。センターフォワードほどの花形ではないにしても、理のポジションもまたゲームの流れを作るとまで言われている重要なポジションだ。正確なパスワークにも自信があったのに。
すこし意地悪をしたい気持ちになったことを許してほしい。
「で、告白できたのか」
茉莉に。ぼそっと聞けば、目に見えて智が動揺した。
「そんなムードもタイミングもなかったよ」
「有紗と俺が離れた隙に告ったかと思ってた」
水族館で。有紗の計略でわざと二人っきりにしてやっただろうが。
「それどころじゃなかった」
何を思い出したか、真っ赤になる智の様子に理は顔をしかめた。
「俺の茉莉になにしやがった」
「大渓谷が……いや、人が多かったし」
ボソボソと智が口の中で言い訳をする。大渓谷とは何のことかと理は訝しんだが、智の視線につられて眠る二人を見下ろした。
「なぁ……」
俺には姉ちゃんが二人いるんだよ。お前が惚れこんでる味は上の姉ちゃんの料理なんだ、と軽く言えば良いだけなのに声がでない。
ん? と鼻の下を伸ばした間抜け面でこちらを向いた智の顔があまりにも幸せそうでムカついて。
きっかけはどうであれ結局は智と茉莉の問題で。
そう、たとえ茉莉が自分の手料理を食べさせて、茉莉が智に振られたとしたら、自分が慰めればいい。
『茉莉を泣かせたらもげる呪いを発動させてやる』
そう言ってやろうかとも思ったけれど……。
「腹減った、駅着いたら『ねこまんま食堂』寄ってかねぇ?」
わざととぼけた。問題を先送りしているだけかもしれないけれど。きっと自分にできることなんて多くはない。
智はちらりと腕時計を確認してへラリと笑った。
「そうだな、18時までまだ時間あるからな」
四人は律儀に18時になるのを待って有紗を家まで送り届けた。




