奴は蝉と共にやってくる
※本作品は没となったものを手直ししたものでございます
よって内容がないよぅ…
人物表!
ルリ
主人公だよ! 人間だよ! 他の設定なんぞない
メリーさん
幽霊だよ! 幽霊と言ったらメリーさん、メリーさんと言ったら羊 めぇめぇ
ミーンミーンとセミの鳴き声が聞こえて眠りから覚めた。ごろりと時計を眺めたらまだ朝だと言える時間帯。今日が平日なら呑気に転寝をしていられないのだけれど、今は休日であーる。
ぐぅ…と一言鳴いてからセミの鳴き声と睡魔とを戦わせて微睡みを楽しむ。そのままゆらゆらと夢と現の境目を漂っていたら、蝉の声が一斉に鳴りやみ、耳が痛くなるほどの静寂が私を襲う。夏の残滓がこびり付いていて、一瞬前と一瞬後で世界が切り替わった様なこの瞬間が私は一番好き。
何はともあれ静かになったことだし、おやすみ世界。私は旅立つぞー!
「ぐっもーにんぐ!さぁ我が家で引き籠っている少年少女よ!書を捨て街に出よ!」
夢の中へと旅立とうとした私を何か騒がしい声が呼び止めた。とりあえず寝返りを打って音源から背を向ける。気が付けば蝉たちも休憩を終えた様でみんみんと五月蠅く鳴いている。
「おやぁ?おやおやおやぁ?もしかしたらもしかするけど、寝てるの?」
ゆさゆさと何かが揺さぶってきたけど「ぐぅ…」とだけ鳴いて返事をしておく。余は眠いのじゃ、構うでない。今起こしたら万死に値するぞ。
「ねぇ寝てるのー?久しぶりに恋人が帰って来たというのに寝てて良いわけー?ねー、起きないとちゅーしちゃうぞー?」
もはや答える気力もないので、もぞもぞと布団を巻き上げると外音を消し去る事にした。すると声の主は諦めたのか「ほむぅ…」と頷いて揺さぶるのを止めてくれる。うむ、余は満足じゃ。
ゆっくりと意識を落としていると、瞼の向こうが明るくなった。布団が剥がされたんだなーとぼんやりと考えながら微睡を楽しむ。
その瞬間、ひんやりとしたものが私の唇に触れた。
ん、待てよ…何か言われてたような…?
「はぁっ!?」
一瞬で目が覚めた。待て、落ち着け私。何をされた?何?ひんやりとしたものが唇に?眠れる森のお姫様ですか?お姫様は誰で王子さまは誰?
ブンブンと頭を振って『おはようのちゅー』という恥死量を超える思考を振り払う。暫く振っていると寝起きの貧血で視界がくらりとしたので止める。顔が熱いのは頭を振り過ぎて血が昇ってるからだ!そうに違いない!
「な、ななななにうぉぅ!?」
「お、目が覚めた?なんか面白いこと言ってるね」
元凶を見つけたらニヤリと笑われて、プルプルと身体が震える。その笑顔を見ていると、私の心にムラムラ…否!ムカムカとしたものが込み上げてきた。なんでこいつはこうも冷静でいられるの?馬鹿なの?阿呆なの?
「ひ、人が寝てる所にあんたは…」
「んー?ああ!」
「可愛い寝顔だった!」とサムズアップしながら見当違いの感想を抜かしてきた馬鹿を睨みつける。視線だけで親指がへし折れないかと念を込めていたら、キョトンとした顔で首をかしげられた。
「ん、怒ってるの?」
「そりゃ…寝てる間にキ、キスとかされたら…その…」
最後まで言うのは恥ずかしかったので、ごにょごにょと言葉を濁す。私のごにょごにょが伝わったのか、メリーは再び「ああ!」と納得すると手に持っていた物を私の目線の高さに掲げて揺らした。灰色に黒いぶつぶつが付いているソレは揺れに合わせる様にブルンブルンと震える。
「こんにゃく…?」
「んむ、蒟蒻」
…なぜこの時このタイミングで蒟蒻?私に食べろと?蒟蒻だけを?
まだ眠いよぉ…と抜かす脳細胞を総動員して理由を考えた結果、信じたくない可能性に行きついた。まさかと思うけれど、寝てる私の唇に蒟蒻を付けたのか…?つまり…私は蒟蒻をキスだと思って跳び起きたという訳?
「それ…つかったの?」
「いぇあ!」
大変素敵な笑顔でメリーがそう答えた直後、目の前の蒟蒻に齧り付く。メリーが「ああっ!」とか叫んでたけれど無視して喰いちぎった。
「な、なんてことを…」
「うっさい黙れ」
「私の蒟蒻が…」
もっちゃもっちゃと咀嚼しながら睨みつけると、「おいよおいよ…」と口で言いながら蒟蒻を齧り始めた。うん…この味この弾力、間違いなく蒟蒻だ。特に秘密道具の様な感じもしない。至って普通の蒟蒻だ。しかも不味い、安物だな、こりゃ。
さて、私にはもっちゃもっちゃと蒟蒻を咀嚼しているメリーに対して言う事がある。
「…で、メリー?」
「んー?」
「っ…」
蒟蒻を可愛らしく口いっぱいに頬張ってる姿に間接キスという単語が浮かんだけれど、一夜漬けをする時の学生が発揮するかのごとき精神力で抑え込む。抑え込む…抑え込むんだ私!
「だいじょぶ?」
「だ、大丈夫」
冷静になるために窓の外を見れば、みんみんとセミの鳴き声がする。普段は五月蠅くて木々に放火して回りたくなる彼らの大合唱も、気を紛らわす必要がある今では私の味方だ。
「帰ってくるときは連絡してっていつも言ってるよね?」
「したじゃないか!」
「いつ!どこに!何で!」
「半年前!ルリの家のポストに!新聞の切り抜きで!」
「あの怪奇文は貴様のせいかぁぁぁぁぁ!」
ついに私にも噂のストーカーとやらが来たのかと三日三晩悩み、奮発して撲殺バットまで買った私の財力に謝れ!今か!?むしろ今が撲殺バットの出番か!
「あれー?もしかしてわかんなかったのー?」
「『我、近々、帰還セリ』でどう判断しろっていうのよ!しかも半年前とか近々ですらないし!」
「…まぁまぁ落ち着きなされ、怒ると可愛い顔が台無しじゃよ」
「怒らせてる奴がよく言える…」
「まぁ、そんな怒った顔も可愛いじぇ!」
「っ…」
そんな事を言いながら顔に手を添えて見つめて来るんだから、思わず声に詰まる。なんでそういうことを平然と言えるの?脳内お花畑なの?阿呆の子なの?
私が固まってると、メリーがそっと顔を寄せてきた。見つめ合っていると恥ずかしいのでゆっくりと目を閉じて…まて、それはおかしい。
「んぅ?」
すんでの所でメリーの肩に手を置くと私から引きはがす。あぶねぇ…雰囲気にのまれるところだった。
「どーかした?」
「無し!キスは無し!」
「えー」
心が揺らがない様に「ぷーぷー」と膨れる姿を見ないようにしながら、蝉の声で気分を紛らわせる。今したら全て有耶無耶で終わる気がする。それもよし!という声が脳裏で響くけれど私は何も考えてない。
「なんでよー」
「ほ、ほら!ま、まだ話が終わってないし!」
「しょうがないにゃあ…なら話そうかー」
「え?」
そうもあっさり納得されるとちと困る。ダメな理由なんて私が恥ずかしいだけだし…それに今話さないといけない事なんてないし…別にそのまま押し切られても…。
「そ、そう!」
「何かね?」
危ない危ない、何か不思議な力が私に襲い掛かっている気がする。
「いい?メリー。仮にこ、恋人だとしてもね…」
「仮じゃなくて恋人同士だよね?」
「うっ…まぁそうだけど…と、とにかく!」
「んむ」
「例えこ、こここ恋人だとしても、人が寝てる部屋に無断で侵入して悪戯するのはいけない事だと思うの!」
「なるほどー」
んむ、メリーも大人しく聞いているし良い感じだ。このままずっと言いたかったことを言ってしまおう。
「大体ね、あなたが帰ってくるのなら私だって色々準備が…んぅっ!?」
私が最後まで言い終わる前にメリーが私の顔を挟むと、唇を押し付けてきた。いきなりの事に心の準備が間に合わず、全意識が目の前の出来事に釘づけにされる。ほのかにする甘い香りと冷たい口当たり。幽霊って体温低いのかな…と頭の片隅でぼんやりとした思考が過ぎる。
そのまま触れあっていると、身体の力が抜けていく。
「ふにゅぅ…」
彼女が私の顔を離すと、ぐったりとベットへと倒れ込んでしまう。
「ルリの言いたいことはわかったから機嫌直してさ、ご飯にしない?お詫びに私が作るからさー」
「ううー…」
「ほらほら、いい子だから顔洗って目を覚ましておいでー」
メリーは「顔が真っ赤だよ」とか笑いながら出て行った。
「…ずるい」
思わず枕に顔を押し付けながら一人呟く。
「ああ、そうそう」
「っ!?」
出て行ったと思ったメリーがまた帰ってきたので、驚いてベットから転がり落ちる。
「だいじょぶ?」
「だ、大丈夫…何?忘れ物?」
床に転がったままメリーを見上げて聞くと「うむ」と頷かれた。
「愛してるじぇ!」
そのまま私の返事も聞かずに部屋から出ると、トタトタと廊下を歩く音が聞こえる。
…本当にアイツはずるい!
さっきよりも顔が赤くなっていくのを自覚する私の耳に、蝉の鳴き声が聞こえてきた。
□ □ □ □
顔を洗って歯を磨いたらだいぶ落ち着いた。ついでに鏡を見ながらちょいちょいと寝癖を直す。ホントはしっかり直さないといけないんだけど、そんな時間はないし、直さないといけない相手でも無い。
…どうせ寝顔見られたし。
「~っ!」
不覚にも今朝の出来事を思い出してしまったので、タオルに顔を押し付けながらじたばたして恥ずかしさが過ぎるのを待つ。
「…よし!」
鏡を見つめて顔が赤くない事を確認すると、気合を入れるために呟く。
ちょっと再会がアレ過ぎただけなんだから大丈夫。ちゃんと面を向かって話せる。私は出来る子…私は頑張れる子。
気合を入れたは良いけど、やっぱり面と向かって会うのは恥ずかしいのでそろりとドアの陰から台所を覗き込むと、長い銀色の髪が生き物のように踊っているのが見えた。調子外れの鼻歌を歌っている背中を眺めていたら、幸せ指数が致死量に達しかけたので顔をひっこめてその場にうずくまる。
や、やっぱり居るよ…どうするよ…どうすっぺ。
いや居なかったら困るんだけど、居たら居たでどうすればいいのか困る。
「落ち着け…落ち着くんだ私…」
ブツブツと呟いてからまた陰からメリーの様子を伺う。
…何て声を掛けよう。
よく考えたら色々許容限界な事が多すぎて「お帰りなさい」の一言も「ずっと待ってた」の一言も言ってないぞ。コレはとんでもない事じゃないのか?もしメリーがその言葉を待っていたらどうしよう?動作からはちっともそんな気配は感じなかったけど、もしも待ってて「ああ…言ってくれないんだ」とか思ってたらどうしよう。いくら音信不通になっていたとはいえ、一年ぶりに帰って来たと思ったら恋人の第一声が「はぁっ!?」というのはあれじゃないのか?百年の恋も醒める瞬間というものじゃないのか?よく考えたら付き合い始めてから幾年、恋人らしい事を言った記憶が無い。いや、らしい事はちょこちょこしてるんだけど…というか今朝もしたんだけど…それはそれとして!
もしかして私はとんでもない事をしでかしてしまったのではないのか。
いや待て、今からでも遅くない。
今日こそ私の方から何か言うべきじゃないのだろうか!?
うん、名案だ。
そうと決まれば何を言うべきだろ…。
「愛してる」だとか「好き」だとかは…私には無理ね。単音だけを繰り返す機械になるのが目に見えてる。全世界のバカップルは愛を叫んでるらしいけど、たぶん精神力がバグってるのか恥知らずに違いない。
となると…シンプルに「お帰りなさい」とか「会えなくて寂しかった」とか?言えるかな?言える気がするけど…それって恋人に向けて言う言葉なの?というか何かずれてる気がする。何かこう、適当にはぐらかしながらも愛を伝える方法ってないのかな。
「もしもし私メリーさん、今あなたの後ろにいるの。こんなところで何してるのかにゃー?」
「うひゃぉ!?」
突然私の後ろにメリーが現れて大層驚きました、まる。驚いて仰け反った瞬間に後頭部をドアにぶつけて大変痛かったです、まる。
「うわぁ…痛そう…」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ…」
力をためているかの如き呻き声が私の口から洩れる。両手は後頭部、身体は丸くなって痛みから逃れるために意図無き床掃除を開始する。
「い、いきなり話しかけないでよ!!」
「まぁまぁ落ち着きなされ」
涙目でメリーを睨むと「どぅどぅ」と制された。私は馬か何かか!?と思ったけれど、痛みで怒る気にもなれない。どうしようもないので「ううー…」って唸って威嚇だけしておいた。
「ほら、だいじょーぶ。いたくなーい、いたくなーい」
暫く威嚇していると、何を勘違いしたのか唸る私を抱きしめて後頭部を撫でて来た。ひんやりとした柔らかい物に包まれると同時、ふわりとメリーの匂いがして別の意味でクラクラしてくる。
エマージェンシーが脳裏で鳴り響いた。
コレ以上はイケナイ!
「め、めりー?も、もう大丈夫だから離れて」
「えー、私はずっと引っ付いててもいいんだけどにゃー?」
「良いから離れろ!」
精神力をつぎ込んでメリーを引っぺがすと、気分を落ち着けるために大きく深呼吸をする。
「それで…私に何か用?」
「いやー、ルリが見えたんで何してるのか「朝ごはんは作ってたんじゃないの?」」
何とか笑顔を作ってメリーの言葉を遮ると「んむ!」と頷いた。話題がコロコロ変わる奴でよかったと心から安堵する。
「ルリに聞くことがあったのよ」
「何?」
もしかして調理器具の場所かな?と思考を漂わせながら先を促す。少しでも気を抜くとメリーのエプロン姿にやられる危険な状況だ。
「お湯は沸かせたんだけど、インスタントな食品はどこにあるんだい?」
「…」
「…」
「…」
…思わず天井を仰いだ。
「あるわけないでしょ!」
「なん…だと…一人暮らしの必需品であるお湯を注いで待つだけのインスタントな食べ物が無いだと…!?」
「例えあったとしても朝からそんなこゆいもの食べれるか!」
「えー…あのジャンクな味って結構好きなのになー」
「ああもう!」
一言嘆くと台所に向かってエプロンを付ける。
コイツに何かを期待するのが間違いだった。
「朝ごはんは私が作るからメリーは座ってて!」
「あ、私ご飯にお味噌汁と焼き魚ねー」
「んなものない!」
「なんでよ!」
ご飯を炊いて無いのにどうやって和食を作れというんだコイツは!炊けるまで待つつもりか!?魚もないし!
「無い物はないの!良いからメリーは座ってて!」
「しょうがないにゃあ…」
メリーはあっさりとエプロンを外すと椅子に腰を下ろした。
…ちょっとくらい手伝ったりしてくれてもいいのに。
ぷつぷつと少しだけ不満を持ちながら冷蔵庫の中を漁る。基本的に買い溜めはしない主義だから冷蔵庫の中身は大変貧相だけど、何とか二人分くらいは作れるだろう。
ジャムはあるから…卵と…ベーコンと…パンでも焼けばいっか。
ものすごーく無難な食材を選択すると、トースターにパンをセットしてからボウルに卵を割りいれて牛乳を混ぜてから塩胡椒で味を調える。次にフライパンでベーコンを焼き始める。ホントはバターで作るらしいけど、ベーコンから油が出るからいいか…。
「るーりー!」
鼻歌を歌いながら焼けてきたベーコンをお皿に避難させていたら、後ろから暇人が覆いかぶさってきた。思わずドキッとしたけど、危ないので何とか平常心を保ちつつ卵をフライパンに流し込む。
「…何?手伝う様な事ならもうないけど…」
「いやー、ルリのお尻を見てたらムラムラ…いやイチャイチャしたくなってねー」
「暑いんだけ…ひゃぅっ!?」
無心になりつつガチャガチャと卵をかき混ぜていたら、後ろから伸びてきた手が私の胸を揉んできた。
「ルリのここは全然大きくならないねー、揉みごたえが無いのぅ」
「今すぐ離れろ変態幽霊。さもなくば部屋中に塩撒いて出家してやる」
「じょーだんじょーだん。ムラムラしないからくっついててもいいでしょ?」
「…」
実際メリーの身体はひんやりとしてて柔らかくてずっと引っ付いていたんだけど、私の理性がそうはさせない。それに私だって好きでべったんこになってる訳じゃないやい。
なのにメリーは人の気も知らずに肩越しから私の手元を覗き込んでくる。
「コレなーに?炒り卵?」
「何ってスクランブルエッグに決まってるじゃない」
「ほぅ?どうやら私の知ってるスクランブルエッグとは違う様だ」
「ん…?んぇ…!?」
メリーに言われて手元を見ると半熟であるはずの卵は完全に固まっていた。コレ以上加熱すると焦げ付くので慌ててお皿に盛るも、もはやコレを炒り卵と呼ぶ人はいてもスクランブルエッグと呼ぶ人はいない状況になっていた。
やってしまった…ちゃんと練習もしてたのに…。
「うぁー…」
「まぁまぁ、私好きだよー、炒り卵」
落ち込んでいたらメリーに頭を撫でられ、あわやピンチ!という所でチンっと朝食が出来上がる音がして救われた。
「んー?」
少し残念に思っている思考を慌てて振り払っていると、メリーが悪戯っ子の様な顔で私を覗きこんで来た。
「もしかして、もっとして欲しかった?」
「~っ!」
こいつは…本当に…!
頭に血が上った私が何も言えないでいると、メリーは優しく抱きしめて撫でてくれる。無言でじっと見つめ合うと「あ、これ流されるな…」と最後の理性が一言呟く。そして案の定、それを粉砕すべくメリーの銀色の髪が私へと覆いかぶさった。
ちなみに、朝食は見事に冷めた。
連載が進まないから出した
出せば連載を進めなくてもお茶が濁せると思った
反省はしている、後悔はまだしていない
ちなみに没理由は文量がこの話の5倍くらいになるからです
過去作品でもこんな内容出しましたが、圧倒的語彙力のなさとボキャ貧が原因です
ではでは少しでも楽しんでいただけたら幸いです