告白と別れ
僕は恵里に一つ嘘をついていた。この転校は親の仕事の事情によってではない。僕の病のせいだ。
医師が言うにはとても深刻な状態らしい。自分ではまったく自覚がなかった。もともとの持病から発展した病らしい。
父さんは必ず治ると言っているが、僕には分かる…いや父さんは分からないふりをしているだけだ。僕の病は治らない。
空港の中は暖房が効いていてとても暖かかった。
外の寒さがまるで嘘の様に感じた
昨日家を抜け出した事はあまり怒られなかった
今別の別れになるかもしれないからかな……なんて…
恵里は大丈夫かな…?
静かにしていると恵里の事ばかり頭の中に浮かんできた
「あと2時間くらいで飛行機に乗るぞ」
一人で玄関前に立っている僕に父さんが言った
「うん、分かってるよ父さん」
僕がそう言うと父さんは申し訳なさそうに
「すまないな、でも俺はお前までも失う事は耐えられない。分かってくれ」
僕の家族は母が僕を産んで直ぐに病に侵され死んでから僕と父さんの二人だけだ
「仕方ないよ、この生命は父さんにもらったんだ。最後は父さんの為に使いたい」
何か生きる理由を作らないと僕は不安と恐怖で押し潰されてしまいそうだった
父さんから見た僕はきっと…泣きそうで、とても辛そうな表情だっただろう
外を見ると雪が降っていた
昨日からずっとだ…
雪がまるでカーテンのようでその中から一つ陰がこちらに近付いて来た
恵里だった。恵里が雪が降る中、こちらに笑顔で手を降ってきた
僕は手を振り返した
恵里が来てくれた事が嬉しくて同時に泣きそうにもなった
「昨日の事大丈夫だった?」
「うん、お父さんもお母さんも直樹君と一緒だったからって許してくれたよ」
僕は信頼されてるのか
「あと、どれくらいで行っちゃうの?」
「ん?あと1時間半くらいかな」
僕は上から吊り下げてある時計を見ながら応えた
「そっか、ならまだ大丈夫かな」
「なんの事だ?」
すると恵里はイタズラな笑みで応えた
「んふふ、まだ秘密だよー」
「はは、なんだよそれー」
やっぱり恵里といると楽しいな
「あの丘でね、UFOが見えるんだって」
恵里が笑顔で言う
「僕たちが行った時はいたのかな?実は流星がUFOだったり」
なんて、ちょっと恵里の話を信じちゃったり
「あー、そうかも。でも、もしUFOだったら願い事叶わないからやだな」
恵里は軽い感じで言っていた
こんな事を言うのは僕が恵里の最初の願い事が少し気になっていたからかもしれない
「なあ、恵里のした願い事ってなに?」
僕の言葉を聞いて恵里は少し悩んだ後言った
「知りたい?」
恵里は暖房で紅くなった顔で僕に聞いてきた
「知りたいけど、そんなに叶えたいなら聞いちゃだめかー、ごめんな」
恵里が少し早口で言った
「ううん、やっぱり話す。」
「え、でも」
恵里はこもったような声で言った
「いいの、聞いてお願い…」
「わ、わかった」
暖房のせいだろう恵里の顔は真っ赤で今にも沸騰しそうだった
「あのね…ほんとは、丘で言いたかったんだけどさ。私……直樹君の事がね………」
彼女の言動、表情から何を言うのかが分かった
それは僕が彼女から聞きたかった言葉。そして僕が今まで言えなかった言葉だろう
「………大好きです」
予想できていたのに、顔が熱い。頭が回らない。
沸騰しそうな顔をおさえて僕は応えた
「あ、ありがとう。僕も…その……恵里の事が大好きです。
多分…いや絶対誰よりも好きです」
冬なのに熱かった。でも、この熱さが何故かとても幸せに感じた。
「ふふっ、嬉しい。これで願い事が一つ叶ったよ」
「告白が願い事だったのか…」
どうやら恵里の願い事の内の一つは叶ったようだ
まだ熱を纏った顔で恵里が言った
「ねぇ、直樹君はいつから私の事好きだった?」
「わからないなぁ、気付いたら好きになっていたかな」
すると恵里が嬉しそうに
「あっ、私も一緒だよ。いつの間にか好きになってたんだ」
「そっか、相思相愛だったんだな」
「だね」
その後は特に会話がなかった
でも静かに二人だけの時間を過ごすだけで幸せだった
「もうあと三十分だ」
二人で寄り添って入り口から見える雪を見ていると父さんが近付いきた
「もうそんな時間か…」
恵里と離れてしまう事がとても悲しくて切なくて、もう会えないという恐怖までもが僕に降りかかった
でも想いを告げられたから後悔は無かった。それは恵里も同じだった
「うぅ…来年……来年…絶対…」
恵里は泣いていた。恵里の泣き顔を見ると僕も泣いてしまいそうだった
「約束だ!絶対青森に戻ってくる。だから最後は笑っていてくれ……」
詰まる喉から必死に声を出した
恵里は僕の言葉を聞くと泣きながら笑っていた
「ふふっ…直樹君も泣いてるよ」
耐えていたのに、自然と涙が流れていた
「は、恥ずかしいな恵里に涙は見られたくなかったかも」
恵里は涙を拭わずに僕を見て笑って言った
「直樹君の普段見れない顔が最後に見れたからもう満足かな!」
恵里が悲しい顔のままの別れにならなくてよかった
「じゃあ、俺行くよ」
「うん。またね」
もう時間がない。行かなくちゃな
恵里に別れを告げ。父さんと共に飛行機乗り場に向かおうとした
その時、僕達の後ろから恵里の声が聞こえた
「絶対!絶対直樹君の事忘れないから!この先もずっと直樹君の事が大好きだから!」
僕は笑顔で振り返って
「僕もだ!今までもこれからもずっと大好きだ!絶対にまた二人で星を見に行こう!」
飛行機から見える雪はとても綺麗で、もう会えないかもと思うと、止まったはずの涙がまた溢れ出してきてしまった
空へ飛び立つ飛行機は私に別れを告げるようで、直樹君が止めてくれた涙がまた溢れ出していた。
直樹君は来年、来る。それまで、この悲しい気持ちは消えないだろう




