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やっぱ外は寒いね。コーヒー屋から出た俺と彼女は駅の方へ歩いて行く。心の中で「渡辺くんツァイチェン!」って叫んでとりあえず流れに身を任せようと思ってたんだけど、ガッチガチですよ俺。もうさ?歩いてても右手と右足が同時に出ちゃう感じで、もうちょっと頑張ればロボットダンス関東大会6位くらいにはなれるよこれ?頑張らないけど。
「やっぱり寒いですねー(笑)」
ベージュのダッフルコートを着た彼女がそう言うと、自分の息で手を暖める仕草をしたんだけど……やばい、可愛いな。いやいや……騙されない騙されない。俺がその気になったらジャイアンが出て来るんでしょ?てか、今もう実はスネ夫が俺たちを尾行してるんでしょ?騙されない騙されない。少し速足で俺は歩いたんだ。
「あの……聞かないんですか?覗いてた事……」
「え?……」
俺は不意討ちを喰らって立ち止まってしまったんだよね。なんだろ?これ?俺どうしたらいいんだろか?真相を聞けるチャンスと、これからジャイアンに出くわすかも知れないと言う不安が俺に更なるロボットダンスを踊らせていたんだ。
「可笑しいですよね?お仕事してる所を覗いてるなんて……しかも望遠鏡で(笑)」
「い、いやー?……よく……ある事じゃ……ないのかなー?……ねーか……」
「ないです(笑)」
どうしようどうしようどうしよう……
聞きたい気持ち半分と、聞きたい気持ち半分が俺の中でケンカしてる……あ、聞きたいんじゃん。でも待て、一旦落ち着こう?まだ少し早い、流れ的にも物語的にも。俺は話しを振ってみたんだった。
「休みの日はいつも何してるのー?」
我ながら上手い質問だった。少しずつまた歩いて線路横の道を駅に向かって行った。彼女は不思議そうな顔してたんだけど、普通に返してきたんだ。
「部屋の掃除とか洗濯とか(笑)1人暮らしだから休みの日にまとめてしちゃうんです(笑)」
「そ……そうなんだー♪」
1人だと!?あの部屋に1人暮らしなんだね……待て待て……考えるな、考えるとジャイアンが出て来る。
「真島さん?誠さん?どう呼べばいいですか?(笑)」
なにこの青春的な感じ。これ付き合い初めのカップルの会話だよね?きっとこの後に駅で別れを惜しんで抱き合っちゃう感じだよね?待て待て…考えるな、考えるとジャイアンが出て来る。
「えっと……どうしよ……普通に田中さんでいいよ?」
「名前変わっちゃった(笑)」
線路沿いを駅に向かって歩いてるとちょっとした陸橋があってさぁ。この時間だとあんまり人通りがないところで、その下に一組のカップルがイチャイチャしてんのよ。俺のこんな状況も知らないでさぁ。その横をミポリンと歩いて行くんだけど気まずいよね?ミポリンもなんだか俯いちゃってるし。
「ねぇ♪あれは一番星だよね?」
「いや……あれはウルトラの星だな?M78星雲の……」
なんの話してんだよこのカップル。ミポリンも聞こえてたらしくて、そりゃ少し噴き出しちゃうよね?俺は気になったのでそのカップルをマジマジ見ちゃってたんだけど、彼氏は俺と同じスーツ姿で仕事帰りっぽいね。そんで彼女の方は白いモコモコしたコートでキャリーバッグを持っていた。
「誠さん……あのカップル不倫ですよ絶対(笑)」
ミポリンが俺の耳に近づいて小声でそう言ったんだけど、近いね。なんか嗅いだことのない良い香りがするよね?もうこれ香りと書いて「かほり」だよね?あ、待て待て……考えるな、考えるとジャイアンが出て来る。
「男の人は指輪してるのに、女の人はしてないですもん(笑)」
「マジで!?よく見えるね!?ミポリンって視力サンコンばりだね?」
「サンコンってなんですか?……」
待て待て……考えるな、考えるとサンコンが出て来る。
「あ……」
俺とミポリンは突然動き出したそのカップルに釘付けになっていたんだ。もうね?ベッタリですよ?彼女の方は彼氏の腕にしがみついて、彼氏の方は彼女のコートのモコモコが自分の上着に付いてるのを掃ってた。まぁ、あんな白いモコモコ付けて家に帰ったら奥さんに不倫がバレちゃうもんね?もうバレてモコモコにされちゃえばいいんだ。ムカつくほどイチャイチャですわ。俺とミポリンは少し遅く歩いて、そのカップルの後ろを歩くことにしたんだけど、ちょうどその道沿いの左側には何て言うの?あれだよ?休憩しないくせに休憩するホテルがあったんだよね?まさかこんな俺が気まずい状況でこんないかがわしい建物があるとは予想もしなかったんだけど、まさかね?まさかミポリンと俺の前で入らないよね?もうカップルの足取りに夢中だよね?チラッとミポリンの顔を見てみるとカップルをガン見してた。ミポリン釘付けすぎるよね?
「あ……」
ミポリンが小声でまたそう言うと、カップルが消えた。まるでブラックホールに吸い込まれたかのように消えたんだ。なにこれ?超怖い。神隠し?瞬間移動?テレポテーション?テレポテーション?なんか響きがカッコイイからテレポテーション2回言っちゃったけど一瞬にしてカップルが本当に消えちゃったんだ。
「いらっしゃいませ♪」
俺とミポリンは少し急ぎ気味に歩いて行くと、休憩しないホテルの入り口からその機械的な声が聞こえたんだ。てか、カップル入ってんじゃねーかよ……開いた入り口から見たらカップル部屋選んでんじゃねーかよ……もうさ、あれだよ?彼氏本当にウルトラマンになっちゃえばいいよ?3分でシュワッチ!ってなっちゃえよ……
「入っちゃいましたねぇ?(笑)」
なにそのミポリンの笑顔……あ、これはもしかして……いやいやいや、騙されない騙されない。これじゃ俺が出木杉くんになっちゃうからね?
「あの……誠さん……時間ありますか?……」
「へ?な……な……なんで?」
「もし……もしよかったら……」
俺の頭の中はもう1個、2個、サンコンだらけだった。




