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会社を出ていつも駅まで歩くんだけど、なんとなく帰り道を変えてみたんだよね。さっきまでスケッチブックを見せていたあのマンションの下でも通ってやろうと思ってさぁ。寒いからコートに手を突っ込んで歩いて行ったんだ。大通りの信号を渡ると今朝渡辺くんが言ってたように、マンションの下に来る。そんで、その下から上を見上げるとちょうどOLさんのベランダが斜めに見えるわけだ。俺は少し立ち止まって見てたんだけど、電気が点いてないみたいで暗くて望遠鏡も見えなかった。ウチの会社の方を見ると事務所の電気がまだ点いてて、たぶん渡辺くんが昼間やり残した仕事をしてるんだろう。まったく、俺と○×なんかやってるから残業になるんだよ、これが平社員の渡辺くんと係長の俺との差だぜイヒヒのヒ♪なんて思いながら俺は駅に向かった。やっぱ寒いね2月は。温かいコーヒーでも飲んでから帰ろう。通り沿いのコーヒー屋に入った俺は後ろから声を掛けられると言う出来事に遭遇する。
「あのー……すいません……」
「はい?……あっ!え?デュフフフ!!」
突然すぎる登場だったんだ。あまりに突然すぎたのでどっきりカメラかと思ったくらいだよね?赤いヘルメットでプラカード持ってる人が来るの少し待っちゃったよね?そして「デュフフフ!!」とか気持ち悪い声出ちゃったし。そこにはさっきまで見ていたセクシーハスキーボイス、略してセハボイのOLさんが居たんだ。
「わかりますか?(笑)」
「えっと……はい、わかる感じです……」
自分でもビックリするくらいあがってたんだけど、あ、どのくらいあがってたかって言うと、ここの見習いの店員さんが「い……いら……っせいましぇ!」って言うのと同じくらいあがってたんだよね。なんかさぁ。実物見るとちょっと顔の雰囲気が違くてさぁ、まるでハトが豆鉄砲、あ、この例えも違うや。とにかく可愛かったんだよね。
「お仕事終わったんですか?(笑)」
「え?あぁ……うん……はい、終りやしたでございます……」
「なんか……(笑)変な感じですよね?……ごめんなさい……」
そんな感じで話は進んでったんだけどさぁ、なんか気まずいよね?ここは俺がリードして話を盛り上げなきゃいけないって思ったんだ。注文したカフェモカを受け取って、OLさんと席に着いて話すことにした。
「えっと……名前は?……なんて呼べばいいかな?」
「あぁ……私はクニミです……」
「え?あぁ……クニミちゃんね?いい名前だね♪」
「あ……苗字が国見です(笑)」
「だろうねー♪……」
まずまずの滑り出しである。きっと傍から見ても、さっきまでスケッチブックで会話していたとは思えないほどの仲良しさんぶりである。
「下の名前は美穂です……」
「え?あぁ……クニミミミホさん?ちょっと噛んだけどいい名前だね♪……」
「言えてないし(笑)あ……お名前は?……」
「あ……俺?俺は……なーんだ?てへ♪……」
「…………」
まずまずの滑り出しである。きっと傍から見ても、さっきまでスケッチブックで会話していたとは思えないほどのワチャワチャぶりである。
「えっと……俺は真島です……真島誠です……」
「マシマママコトさん?(笑)」
「うん、ちょっとお互いの名付け親呼び出して説教しようか?」
まぁこんな感じで話してたんだけど、これは渡辺くんに申し訳ないね。俺だけこんな仲良くなっちゃってさぁ。残業終わる頃にでも電話してやろうかなんて考えてたんだけど、話が弾んじゃって弾んじゃって。
「そう言えば……なんで私のことナースさんだと思ったんですか?(笑)」
「ぶは!べ……べつに?……なんとなくですよ?なんか雰囲気がね?えっと……少しエッチ……いや看護してる方かと思いましてね?」
「少しエッ?なんですか?(笑)」
「え?なんですか?……」
「え?え?(笑)」
「あっと……それより……職場!帰り早かったけど職場近いんですか?……」
「あぁ……はい♪すぐ近くなんです(笑)」
「そうなんですかー♪ハハハ……」
なんかあれだよね?俺テンパってる感じだよね?とりあえずここはビシッ!っと言ってやらなきゃね?どうしてウチの会社を覗いてたんだと。君はどこかのスパイなのかと。俺と渡辺くんが仕事サボって遊んでる事を知っているのかと。知っているのなら社長には言わないでくれよと。ごめんなさいよと。もうしませんよと。
「敬語やめてください(笑)同じくらいですよね?」
「あぁ……歳?俺は27ですだよ?……24ですよね?だよね?……」
「なんか言葉可笑しい(笑)」
「そんなことはないですの!」
なんかギブ!もうすぐにでも渡辺くんに電話して助けを呼ぼうとしたんだけど、そんなことお構いなしに彼女は喋り続けていたんだ。俺は可愛い彼女の前でただタジタジだったんだけどね。自分がこんなにあがってしまうとは思いもしなかったんだけど、やっぱダメだね?可愛い子ちゃんには弱いね?俺も怪物くんも。とにかく俺は話を切り上げて今日のところは逃げ帰ろうと決めたんだ。
「あ!やべっ!もうこんな時間だぁー……そろそろ帰ってお赤飯炊かなきゃー……」
「なんでですか(笑)家は近くなんですか?」
「え?あぁうん……電車で20分だよ?」
「じゃあ駅まで歩きません?(笑)」
「えっ!?だってミポリン家あっちじゃん?」
「ミポリンって久々に呼ばれましたよ(笑)ちょうど駅前に用事があるので」
「そ……そうなんだー……じゃ……じゃあ行こうかな?」
なんかこれあれだよね?俺的には願ったり叶ったりな展開だよね?もしこれで俺に彼女が居なかったら誘っちゃう感じだよね?あ、俺彼女居ないんだった。いや……ちょっと待てよ?これあれじゃね?俺がその気になっちゃったら怖いジャイアンが出てきて「てめー!この野郎!のび太のくせにー!」的な感じのパターンだよね?なんて言うの?あのあれ?美人局って言うの?それにまんまと引っ掛かるんじゃね?だってさ、こんな可愛い娘がさぁ、ちょっとグイグイ来すぎだし俺の事見すぎだよね?三杉くんだよね?オフサイドトラップ仕掛けられてるよねこれ。いやいやいや、信用しないよ俺は。俺は騙されないようにガッチガチで駅まで彼女と歩いて行ったんだ。もうそれはガチでガッチガチで。




