Act.4 情報収集
遅くなって申し訳ありません!第四話です。
結局、一学期終了まで、特別な動きは何もなかった。試験も幾分うまく行き、真崎の通信簿も特に悪くなかった。
終業式の日、翔の提案で打ち上げをすることになった。翔曰く、「今日くらいは休め。」ということだったので、ありがたく従っておいた。かねてから歌いたかった、好きなロック歌手の歌を全力で歌ったら、バンドのボーカルをやらないかと言われたが、考えておく、と答えた。
璃佳はJ-POPを歌ったが、癪だったので魅力的だったとは言わなかった。
翔に至っては、女子を狙う為に格好をつけて歌った挙げ句、しまいにはナンパに走っていた。毎度のことながら呆れてしまった。
久しぶりの安心できる時間に、心が潤った。たまにはいいな、と真崎は珍しく翔に感謝した。
「にしても、あっちから動く迄は何もしないのか?」
いつでもすぐ同時に動けるよう、翔は真崎の家に寝泊まりしている。実家に関しては、「いつも親には会わないし、許可も取っているから心配すんな。」と言い、ここに来た。
「基本的にはな。追跡っていうのは追う側が圧倒的に不利だ。人海戦術でも使わない限りな。」
「じんかいせんじゅつ?」
翔が間抜けな顔をした。真崎はため息をつき、説明をした。
「ああ、はいはい。」
翔は納得した顔を見せた。
「で?“基本的に”って事は、予定はあるんだろ?」
「ああ。とりあえず、犯人たちの弁護を担当した弁護士のところに行く。」
「聞き込みってやつか?」
翔の目が輝いた。真崎は能天気な翔に呆れながら、肯定した。
「ああ。伊藤英男弁護士のところへ…」
「先生。お客さんですが。」
秘書が言った。ここのところ仕事が来なかったので、浮き足だって玄関に行った。
(法廷での弁護か?特許申請か?借金問題か?なんでもいい。)
伊藤英男は意気揚々と扉を開けた。だが、そこにいたのは、比較的小さい中学生だった。英男は思い切りため息をついた。
「すいませんが、中に通してもらえないでしょうか?」
変に礼儀が正しいので、なにか重大な用だということはわかったので、とりあえず中に通し、ソファに座らせた。
「コーヒーを二つ持ってきてくれ。あ、ジュースの方がいいかな?」
「いえ、コーヒーで結構です。」
中学生は言った。
「で、君は?」
「綾嶺真崎です。」
「綾嶺…」
どこかで聞いたことがある。英男は必死に記憶を掘り起こした。
「あ…」
綾嶺。三年前弁護を担当した、「『ゲーム』事件」の被害者…
「思い出していただけましたか?」
真崎は微笑みながら言った。
「ああ…で、なんの用だい?まさか、私を恨んで…」
真崎は途中で言葉を遮った。
「いえ、三年前、先生が担当した事件についてお話を伺いたいのです。」
礼儀正しいのを珍しく思いながら、英男は問いた。
「なぜだい?なぜ今になってわざわざ訪ねてきたんだい?」
真崎は丁度コーヒーを淹れてくれた秘書に礼をし、口を開いた。
「当時僕はまだ幼く、事件をよくわかっていませんでした。だから、父母が死んだ理由を知りたいんです。兄たちは何も話してくれないし、何より先生の方がよく存じ上げていらっしゃると思いますので。」
「ああ。確かに…」
ただ被害者として裁判に出ただけでは、事件の全てを知ることはできないだろう。なぜならば、裁判では、「事件について」しか議論しあわないからだ。だが、弁護士、検事は徹底的に調べるので、事件に「直接的に関係ない物事」も知る。事実、裁判では公表しなかった、いや、する必要がなかった証拠もある。
「なかなか聡明だね、君は。」
真崎は少し照れ、すぐに真面目な顔に戻した。
「では、お話をお聞かせいただけますか?」
「ああ。こちらも丁度暇だからね。」
英男はコーヒーを一口啜った。