Act.1 日常
すいません!前の後書きで完全に主人公の名前ネタバレしました!
「遅刻だ!まずい!」
綾嶺真崎は朝8時の歩道を一心不乱に走っていた。学校が始まるのは8時半。学校まで要する時間は四十分である。かなり長い間走っているのか、額には脂汗が浮かんでいた。
今は七月。朝から蝉がうるさく鳴く。あと一週間で夏休みという時期で、学校では期末試験が行われる日であった。
「さすがに単位落として補習は勘弁だ。夏休みにはやりたい事がかなりあるからな。」
と、夏休みが待ち遠しいように言った。
「こういう時ってそこの曲がり角で美少女とぶつかるのが常だよな…まああるわけ無いけど…」
という事を呟きながら、真崎は曲がり角に入った時、盛大な打撃音と共に激しい頭痛が響き、しりもちをついた。
(っ…まさか、来た?!ありがとう!神様!)
下心丸出しの声で真崎は立ち上がり手を差し出した。
「「大丈夫ですか?」」
「「…あ。」」
「翔!」
「真崎!」
「「お前かよ〜。」」
「ったく、ぬか喜びさせやがって…」
「そりゃこっちのセリフだ。」
荒泉翔は、さも憎らしそうに真崎を睨んだ。どうやら真崎と同じ考えだったようだ。
「あ、ヤバい!もう時間だよ!」
「そうだ!今日試験じゃんか!」
「俺は今度補習受けたら親父に殺されるんだ!遅刻出来ねぇ!」
「そうか…墓は見晴らしのいい丘に立ててやるよ。」
「おいおい!…いや、でも墓石には俺の名は刻みたくねえなぁ。」
「諦めろ、もう遅い。ちゃんと勉強するんだったな。」
「お前に言われたくねぇ。」
「馬鹿言え、俺はしなくても点取ってるぞ。翔。」
真崎と翔は格好をつけた会話をしながら、学校へ向かった。
「ギリギリ間に合ったな〜」
「なあ真崎。問3の二番の答え、何?」
「『ア』だろ。」
「そっか〜良かった〜。」
翔は胸を撫で下ろした。
「一個問題間違えたの確定だな…」
「おいこら。」
「何やってんの?二人共。」
「おおこれはこれは篠原璃佳殿。この俺になんの用ですかな?」
「鼻の下伸ばすのもいい加減にしろ。象かお前は。」
「俺の象はもっとでかいの。」
「ぶん殴るぞ。」
「なんの話してるの?」
「ああ気にすんな。で、なんか用?」
「うん。早速だけど、荒泉くん補習だって。」
「なにいいぃ!」
「名前でも書いてなかったんだろ。」
「え、うん。なんでわかったの?」
「別に。ま、どうせ書いても補習だろうが。」
「なんだと?」
「否定しきれんのか?」
「…できねえなあ。」
翔は少し考えて言った。流石に自覚はしていたようだ。
「真崎はどうだった?」
「名前で呼ぶな、『篠原』。」
「あ、ごめん。『綾嶺君』はどうだった?」
「さあな。」
「でも最初は綾嶺君の得意な国語でしょ?」
「じゃあ言わなくてもわかるだろ。」
「そうだね。」
と言って璃佳はクスリと笑った。その顔を直視できず、真崎は立ち上がった。
「いくぞ、翔。」
「んあ?」
「購買でコーラ買うんだろ?」
「ああ…」
「なにニヤニヤしてんだよ。」
「別に。」
真崎と翔は財布を持って購買へ向かった。翔は真崎を茶化しつつ、コーラを買ったのであった。
「あ、兄貴!」
学校が終わり、翔との下校中、真崎は喫茶店にいる兄、京介と誠司に会った。京介は大きい体つきをしていて、誠司は背が高い男だった。
「よう、真崎。久しぶりだな。」
「どうだい?学校は。」
誠司が真崎にたずねた。
「ああ、楽しいよ。やっぱり友達がいた方が楽しいし…」
「そうか…ごめんな、無理させて…」
「そんな…」
「真崎。その人たちは?」
翔が真崎の後ろから訊いた。
「誰だい?」
「ああ、紹介するよ。友達の荒泉翔だ。」
「荒泉翔です。初めまして。」
翔は深々と頭を下げた。
「どうも、兄の誠司です。」
「同じく、兄の京介です。」
誠司と京介も同じように頭を下げる。
「真崎にも友達ができたか…」
「あの、ね…」
「あの、って言うな。まるで俺が孤独だったみたいじゃないか。」
真崎は子供のように口を尖らせた。だが、久しぶりに兄に会ったのか、その顔はとても輝いていた。
「ははは、すまんすまん。」
「なんにせよ、俺はもう大丈夫さ。一人でもやっていけるよ、仕送りさえあれば。」
「そうか…それを聞いて安心したよ。」
誠司は急に神妙な顔になり、そう呟いた。
「誠司兄さん?」
「真崎、これからも頑張れよ。」
「兄貴?」
「じゃあな。」
「あ、うん。じゃあ…」
京介と誠司は、まるで真崎を捨てたかのように、早々に駅へと向かった。真崎はその後ろ姿に、なんとなく不安を覚えたのだった。
「ん?」
翔と別れた真崎は、自宅に向かう途中で路地裏の方に人だかりを発見した。何事かと思って行くと、そこでは警察が地下駐車場を封鎖していた。
「なにがあったんだ?」
「殺人らしいよ。」
「家の近所で?こわーい。」
野次馬がガヤガヤと騒ぐ。真崎は人混みをすり抜け、現場を覗いた。
死体に沿って書かれた白線のすぐそばに、それとは違う白く描かれたマークがあった。
「3つ並んだ円の真ん中に線…」
それは、幼い頃の兄たちとの、絆のマークだった。
まあとりあえず真崎はツンデレということでいいかな?