婚約破棄されたお嬢様を処刑覚悟で助けようとした使用人の話
「出て行きなさい!誰も部屋に入らないで!」
お嬢様が引き込まれた。
俺はハンス、ただの従者だ。
お嬢様は学園で王子から断罪されたのだ。
気丈なお嬢様だが、今回は事情が違う。
「お嬢様、お食事を部屋に前に置いておきます。どうか、お食べ下さい」
はあ、どうしようか。公爵家の皆様も困り顔だ。
「シルビアはまだ出てこないか・・・妻が生きていれば」
「メイド長はダメか?乳母も呼び戻せ」
「とにかく、厳重に王家に抗議だ・・・」
「しかし・・・」
「分かっている」
旦那様が今回の所業について王家に抗議したが・・・
「何、ただの戯れだ。髪はいずれ生えてくるだろう。大げさすぎる」
「ええ、そうよ。そこまで責められるいわれはないわ。ただの髪よ・・・そうね。エクステを贈るわね」
謝罪もなく王子はおとがめ無し。婚約は破棄から穏便な解消になった。
そして、王妃殿下より下賜された付け毛を俺が渡すように頼まれて今に至る。
お嬢様が毅然と王子達に対峙したが、取り巻きに押さえつけられて髪の毛をバッサリきられたのだ。
お付きの令嬢たちも助けられなかった。
まるで男のような短髪だ。女騎士にだっていない。
・・・・・・・・・・
酒場で使用人仲間に愚痴をこぼした。
「う~ん。どうしようか?今のお嬢様に付け毛を渡すなんて逆効果だと思う。諸君、知恵ないか?」
「おい、おい、ハンス、しけた話題を出すなよ」
「いるだけで暗くなるぜ」
「ああ、悪い・・・」
「お前の大事なお嬢様の事は忘れてパアと飲もうぜ」
「どうせ、悪役令嬢があだ名だったから良い気味さ。王子を讃える話もあるぜ」
【ウッセー!】
俺は机を叩いた。
「貴様らにお嬢様の何が分かる!」
「おい、おい、まさか身分違いの恋?」
「お前らはそれしか思い浮かばないのか!!」
「何だと、表に出ろや!」
「おう!」
☆☆☆
俺は孤児だ。ガキの頃、泥棒で生計を立てていた。
公爵家の別荘に忍び込んだが、偶然にお嬢様の部屋に入ってしまった。
「何だ。ここは人形ばかりだ・・・」
「お前は誰かしら?」
あまりの美しさに絶句した。それがシルビアお嬢様だった。
すぐに捕まった。
「お父様、こいつどうなるの?」
「子供だが衛兵隊に引き渡す。牢獄だな」
「こいつは三階に忍び込んだのだよ。危険な奴だ」
「・・・お父様、こいつ引き取る」
「馬鹿な事を言うな」
「そうだよ。凶暴な奴に決まっている」
「まだ、何も盗っていないわ。それに、こいつの目は寂しそうよ・・・」
心を射貫かれた気持になった。
それから俺は公爵家に雇われた。
お嬢様は辛辣だった。
「ハンス、お前は馬鹿ね。文字も読めないから泥棒になるのよ」
「馬鹿ね。計算も出来ないの?だから泥棒なんて非経済なことをするのよ」
「馬鹿ね。マナーも知らないの。恥ずかしいわ」
馬鹿にしながら教えろと先輩の使用人に命令をする。俺は何とか食いついた。
「もし、次に泥棒をしたら衛兵隊に突き出すからね」
「はい、お嬢様」
それからお嬢様の成長と反比例に俺に構う時間は少なくなって来た。
12歳の時に王子との婚約が決まったが喜びの方が大きかった。
お嬢様に相応しい相手に違いない。
だが、王子は違った。
お嬢様を理解しようとはしなかった。不仲な噂が絶えなかった。
親の愛を知らない俺はいつしか、お嬢様は母、いやそれ以上の女神様みたいな存在になったのだ。
・・・・・・・・・・・・
「ハンス!これに懲りて大口叩くなよ!」
「全く、弱いくせに!」
分かっちゃいるけど負けた。
夜空を見上げる。
「フウ、どうしようもないな」
「キャハハハハハハ、弱いわ」
「これ、アズリ、見てはいけないよ」
「は~い、ゲオハルト様」
何だ。これは・・・王子とその浮気相手のアズリ様の声が耳に入った。
俺を一瞥して素通りした。
「兄ちゃん。大丈夫け?」
「ああ、有難う」
俺は後を追った。
尾行は得意だ。ガキの頃、金持ちそうな相手をつけていた。
ハンカチで血を拭き取る。
髪型をボサボサにする。
「これやるよ」
「え、旦那様、どうも」
物乞いに上着をやった。
人は服で認識する。泥棒をして追いかけられたときに角で服を脱いで人混みに紛れた。これも泥棒時代に学んだ事だ。
2人は無言になり。王都の繁華街の・・・連れ込み宿に入った。
さすがに、使用人がいる屋敷でいたさないか。
外から観察する。すると三階の部屋に灯がついた。
あの部屋に入ったのだな。この時間なら泊まりか。
2時間、3時間・・・待った。ついに夜の2時を知らせる鐘がなった。
人が一番グッスリ寝る時間だ。
俺は連れ込み宿の壁を登り。窓から入った。
これもコツがあるが、鍵はかかっていなかった。
上の階なら窓から入らないだろうとの思い込みがあるのだろう。
目をこらす。わずかな灯がともっていた。
ああ、王子と浮気相手は寄り添いグッスリ寝ている。
俺は短刀を抜いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
早朝、屋敷に戻る。
「ヒィ、ハンス、その頭は何だ!」
「ハゲではないか!」
「どうも、ケジメですよ」
俺は髪を剃った。ハゲだ。
言われた通り王妃殿下から下賜された金髪の付け毛と・・・・
「お嬢様、どうか、顔をお見せ下さい。このハンス、最期の願いでございます」
部屋から声が聞こえない。この時間なら起きているはずだが・・・
仕方ない。それほど心に傷を負ったのだろう。
「お嬢様、王妃殿下から下賜された付け毛でございます。それと・・・私からの最初で最後の贈物でございます。元婚約者様と浮気相手の髪の毛でございます」
王子と浮気相手の髪を根元からバッサリ切ったのだ。
部屋の中からガタッと音がした。
「このハンス、盗みを働きました。これから衛兵隊に向かいます・・・」
と辞任届を置いて出ていった。
そう言えばお嬢様が手配してくれたから文字を書けたのだな。
「ま、待ちなさい!ハンス・・・」
お嬢様の声を背に俺は屋敷を出た。
名を呼ばれたのはいつ以来であろうか?
その後、俺は衛兵隊に証拠の髪の一部と、詳細は犯行記録とともに自首をした。
「平民ハンス、盗みを働きました!」
「何だ。また刑務所で飯を食おうとする輩か・・」
「盗んだのはゲオハルト殿下の髪と情婦の髪であります」
「な、何!」
「本当なら死刑だぞ!」
恐らく不敬罪を適用されれば処刑されるだろう。・・・不思議と怖くなかった。
俺は一月ほど牢獄に入った。独房だ。事が事だけに24時間監視がついたが・・・
「たわけ。妄言を吐くな。そのような事はない!」
「いやしくも王族であるゲオハルト殿下が下町で婚前交渉を?しかも、やすやすと御髪を取られることなどあり得ん!」
「お前など殿下に剣で真っ二つされるはずだ!」
釈放された。無かった事にされたらしいな。
俺は公爵家に戻らずに冒険者になった。
盗賊職のハンスだ。
まあ、冒険者パーティーに先行し情報収集が任務だ。
☆☆☆冒険者ギルド
「・・・でこの話が本当でも今でもハゲである必要性はある?」
「そうだよ。目立つだろ!眩しすぎる!」
「ハゲ・・・一緒にいると目立つわ」
「ヒドいな。これはお嬢様へのケジメですよ」
仲間にハゲ頭は目立つと言われて帽子を買うことにした。
何かちがくないか?
ハゲは結構良い。
風通しが良い。手入れが不要だ。いや、毎日剃るか。帽子を買いに街に出ると・・・
子供達がはやし立てる。ハゲ、子供に大人気だな。
「ヤーイ!ヤーイ!ハゲ!ハゲ!」
「眩しいぞ!そこのハゲ!」
「うっせーよ。ハゲの魅力も知らないガキのくせに」
「ガキだもん!」
「ヤーイ、ハ・・・えっ・・・」
「ヒィ、何で・・・」
子供達の声が消えた。
振り返ると、騎士達と、その中心にお嬢様がいた。
髪の毛は元に戻っている。
「ハンス、お前を捕まえます」
「はい・・・やっぱり」
「そうよ」
捕まったぜ。お嬢様に捕まるのなら本望だ。
しかし、違った。牢獄ではない。
屋敷だ。
「ハンス、私はあの日、王宮に参内したわ・・・」
☆☆☆
「キャア、シルビア様、まるで男のような髪型だわ」
「お可哀想・・・」
クスクスクスクス~~
と宮廷雀の声が聞こえて来たわ。
でも、不思議ね。気にしなくなったわ。
王宮は大騒ぎだったわ。殿下とアズリ様が行方不明とか・・・
陛下と王妃殿下とは簡単に謁見できたわ。
王妃殿下は終始。
「シルビア、髪・・髪・・」
と小声で言っていたわ。
この時の私の髪は短髪、男のように髪は肩にも掛からない長さだったわ。
「・・・久しいな。シルビア嬢よ」
「王国の太陽であらせられる陛下と月のように寄り添う王妃殿下にご挨拶を申し上げます」
「・・・いいから用件を述べよ」
「はい、ゲオハルト殿下の不正を告発に参りました。殿下は私への婚約者予算を浮気相手との遊興費に流用しました。アズリ様の男爵家は殿下の名を使い商売を始めています。厳罰を求めます」
「しかし・・・」
「これはご存じだと思いますが、貴族派のギルダール侯爵家も関心を示していますの」
「・・・分かった」
「シルビア・・・髪、髪は?私が贈ったエクステは・・・」
「王妃殿下、心配不要でございます」
「でも・・」
「王妃殿下の仰るようにたかが髪、そう大騒ぎするものでもございませんわ」
「ヒィ!」
王妃殿下は失神されたわ。
もう、このとき、王子の髪はバッサリ切られた情報は知っていたのね。
結局、王子は王位継承権を剥奪されアズリ様の男爵家に婿入り。
大騒動だったわ。
私は慰謝料をもらい。そのまま学園に通っているわ。
・・・・・・・・・・・
お嬢様はこれまでの経緯を話してくれた。
そうか、やっぱり無かったことになったのか・・・
「それでね。貴方、公爵家のカゲになりなさい。カゲ部隊を創設するわ。悪の力を使って正義をなしなさい。街には物乞いがあふれ。賄賂が横行する王国の腐敗を糺すわよ」
「はい・・・しかし、条件があります」
「何かしら?お給金は倍よ」
「いえ、殺しは無しです」
「当然よ」
俺はそれから、公爵家のハゲと恐れられるようになった。
カゲは目立ってはいけない。しかし、恐れられば仕事がしやすくなる。
絶妙なバランスだ。ハゲとはどこにでもいそうな特徴だぜ。
お嬢様の先読みなのかは分からないが俺は幸せだ。
最後までお読み頂き有難うございました。




