遺言書
私は火葬する前に見ろと注意書きした遺言書を、近所の弁護士に預ける事にする。
遺言書には遺産の配分が書かれた遺言書は同じ弁護士に預けてある事の他に、棺桶に駅前の有名菓子店が販売している朝一に並ばないと手に入らない銘菓を入れてから、火葬するようにと書いた。
どういう事だと家族は皆、首を傾げ思う事だろうからその理由も書いておこう。
昔、まだ20歳を少し過ぎたばかりの頃、気がついたら空をフヨフヨと飛んでいた。
布団に包まって寝ていた筈なのに何故だろう? と思ったが、空を飛んでいるとそんな事はどうでも良いとうっちゃり、眼下の景色に見入る。
眼下の景色を楽しんでいたら凄く大きな川が見えて来た。
川の幅は大きく対岸は空の上からでも見えない。
川には数人の客を乗せた舟が浮かび、船頭が船尾で櫓を漕いでいる。
それを見下ろしながら川の上を飛ぼうとしたら、川岸から投げられたロープが首に掛かり引きずり降ろされた。
引きずり降ろした男に文句を言おうとしたら逆に怒鳴られる。
「川を渡るなら、舟に乗らなくても六文銭置いていけ!」
そう怒鳴りながら男は私の顔を見て話しを続けた。
「ウン? お前死んで無いだろ? 此処は三途の川だぞ、渡ったら戻れないんだぞ」
そう言って男は私を後ろに突き飛ばす。
突き飛ばされてハッと目を開けたら、私は布団に包まって寝ていた。
目を覚まして夢を見ていたのか? とその時は思ったんだが、翌朝顔を洗おうと洗面所に行き洗面台の鏡に映る自分を見たら、首にロープの跡がついているのに気がつく。
アレは夢なんかじゃ無かったのだ、本当に私が体験した事だったのだ。
あのとき男に引きずり降ろされ後ろに突き飛ばされなかったら、私は妻に出会う事も妻と共に子供たちを授かる事も無かった。
そして100歳近くまで生きる事も無かったのだ。
だから今度こそ本当に死んで三途の川の川岸に行ったら、男にあの時の礼を言い手土産として銘菓を渡したいと思っている事を書き添えてから、遺言書を封筒に入れた。




